魔王さんのガチペット

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番外編3 一番の●●

次王

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※導王様の話。重い話もありますが、ハッピーエンドです。後半はちゃんとライトが大活躍します。



 生まれた時から、大事にされていた。
 導王の国に、約一五〇〇年ぶりに生まれた黒髪の魔族だったからだ。
 国の決まりのため両親の顔も、生まれた場所も解らない。
 名前もない。
 だが、次期導王……次王ジオウとして当代の導王様や乳母、城勤めの魔族はもちろん、国民も、まるで私の親のように……いや、それ以上に優しく愛してくれた。
 皆、私に甘かった。

 甘すぎた。


      ◆


 幼いころから、体を動かすことよりも、政治の勉強よりも、魔法に関する修行や研究が好きだった。
 本来なら、次の王として武術も政治も魔法も、全て均等に学ばなければならなかったが、私があまりにも魔法が好きで……また、誰が見ても魔法の才能があったため、他の勉強や訓練は最低限で、魔法の勉強に多くの時間を割いてくれた。

「黒髪の魔族が魔法を上達させることは国のためになる。政治も武術も他の者に任せられるが、魔法に関しては導王が担うしかないからな」

 幼い……一般の魔族であればまだ幼年学校に入るか入らないかの年頃の私が魔法の勉強をしていると、導王様はいつもそう言って頭を撫でてくれた。

「次王がもう少し大きく……背が私の腰を超えたら、一緒に黒系統の魔法の練習もしよう」
「はい! 楽しみにしています!」

 当時の導王様は、一般の魔族であればそろそろ仕事の引退を考えるような年配で、長く伸ばした黒髪や肌、大きな竜角にはもう艶が無く、背は魔族の中でも高い方ではあったが痩せていて、顔やローブの袖からのぞく手の皺が目立っていた。
 いつも笑顔で、穏やかで、優しい方だった。
 でも、あの日その笑顔が一層深くなったのをよく覚えている。

「そうだ、導王様! 新しい魔法を覚えました! 見てください……この赤いバラを……」

 幼い私はただ褒められたくて、城の自室に飾られている花瓶からバラを一本抜いて、覚えたての「色を変える魔法」を使った。
 魔法は成功で、バラの花は形を変えないまま、私がイメージした通り黒くなった。
 この魔法は、幼年学校の中学年程度が使えるようになる魔法だと、家庭教師の先生が言っていた。
 きっと褒められる。
 子どもらしいオカッパにした黒髪を自慢げに掻き上げてバラを導王様へ差し出すと、導王様は驚いた顔でバラを受け取った後、私の隣にいた乳母の方を見た。
 
「乳母……い、今のを……見たか?」
「あ……はい……」

 今年ちょうど一〇〇〇歳になる乳母のフィーリアは、薄茶色のお団子ヘアーと鹿角がトレードマークで、恰幅がよく、怒らせると怖いがいつもにこにこ笑っている明るい女性だ。
 しかしこの時は……導王様と共に驚いた顔で私を見ていた。

「この年で、こんな複雑な魔法を……魔法陣を使わずに?」

 あぁ、そういえば先生は魔法の構造を補助する魔法陣を置いていたが……補助が無くてももう構造は理解していたから、わざわざ魔法陣を持ち出すのは面倒だっただけだ。
 その横着が……普通のことではなかった。

「私でも、魔法陣による構造の補助が無いと使えません。嘘……て、天才どころじゃないです……か、神様……神童です!」
「すごい! すごいぞ次王! なんて素晴らしい能力なんだ! お前の魔法は必ずこの国を発展させる。あぁ、ありがとう……この国に生まれてきてくれて……ありがとう、次王」
「私の魔法が国の役に立つなら嬉しいです! もっともっと、魔法の勉強に励みます!」
「あぁ。お前が好きなだけ勉強ができるよう、国中から魔法の先生や技術者を沢山招こう。本も、魔法陣も、魔法石も、沢山集めよう!」

 導王様が嬉しそうに私を抱きしめてくれて、乳母も涙まで流して喜んでくれていて、素直に嬉しかったし自分の次期導王としての使命感にも燃えた。

 十分な愛情を与えてもらって、目標もあって、なかなか幸せな幼少期を過ごせたと思う。
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