魔王さんのガチペット

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番外編1 ●●が怖い執事長の話

一人の騎士(3)

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「ウオルタが頑張り屋なのは知っているけどなぁ……一番下っ端の騎士にそんな重役が勤まるとは思えない」

 一番様はウオルタに近づくと、魔法陣の外、ギリギリの位置で床に胡坐をかいた。

「この城で、騎士団以外で、一番強くて、皆をまとめる力があるかっこいい魔族って誰だろうな?」
「まさか……」
「そんな……」
 
 私が震える声で呟くと、ウオルタは更に震える声で呟いた。
 一番様は、私たちのそんな様子を面白がっているように見える。

「俺がいく」
「俺も」

 一番様が笑顔で言うと、後ろに立つ二番様も神妙な顔で頷いた。
 お二人が……?
 国の宝である、大事な大事な時期魔王様候補の黒髪の魔族が?

「いけません! 黒髪のお二人は国の宝です! この度の戦争で……魔王様の魔力も尽きるかもしれません。それなのに、次期候補のお二人にもしものことがあれば……!」
「おい、ローズウェル。魔王様の魔力が尽きるかもしれないなんて不敬なこと、口にするものではないぞ?」

 一番様が肩をすくませる。
 ご自身が先日おっしゃったくせに……。
 笑顔の一番様にどう言い返すか悩んでいると、一番様の後ろに立つ二番様が申し訳なさそうに呟いた。

「危険は承知だが、俺には今の布陣を提案した責任がある。ウオルタ。すまなかった。俺が判断を誤った。お前は悪くない。騎士団は全員立派だった。ただ……俺が……俺の策が、悪かった」

 そんなことはない。
 二番様が提案された策が無ければ、戦況は更に悪かったはずだ。
 被害は大きいが……これでも、マシな被害なのだと思う。

「……に、二番様! そんな、頭をお上げください! 私どもの……騎士団全員の、力不足です」
「いや、俺の策が……」
「違います! 騎士団の……」
「あ、ちょっと、ウオルタさん。治療中なのに動かないでください……!」

 私が体を押さえつけてもまだ言い合いを続けるウオルタと二番様を、一番様はにこにこと笑顔で見つめる。

「じゃあ、両方悪いってことにするか」
「へ?」
「え?」
「……」
「二番の責任だから、二番が行く。騎士団では力不足だったから騎士団より強い俺が行く」
「あ……」

 二番様は神妙な顔で頷いて、ウオルタは「しまった」と叫びそうな絶望した顔で口をぱくぱくさせている。

「そういうことだから。ウオルタは数日休んだら次の騎士団を作り上げるための算段でも立ててくれ。あと……ちょっと二人きりにしてくれるか? 治療も代わる」
「あ……はい」

 一番様に促され、二番様と共に騎士団の詰め所を出た。

「兵が見える所まで行こう」

 扉を閉め、二番様に促されて、詰所から少し離れた中庭が見える渡り廊下で二人の話が終わるのを待つ。
 二番様は、じっと兵の様子を眺めていて……一番様よりも表情の変化に乏しい方なので、何を考えていらっしゃるのかは読み取りにくい。
 それに、私は二番様付の執事ではない。
 だが……聞いておきたいことがある。

「あの……二番様、本当に戦地へ向かわれるのですか?」
「そのつもりだ」
「二番様は、その……失礼を承知で申し上げますと、武術や戦闘魔法などの技術的な面では一番様の方が上です。逆に、政治的なことや戦術的な部分では二番様の方が優れています。ですから、前線でなくとも、二番様にはご活躍の場があると」

 一番様だって、「二番が次の王だ」とおっしゃっていたし……安全な後方で……。

「見ないといけないんだ」
「え? 見ないと……いけない?」
「あぁ。机の上で、ただ作戦を練っているだけではいけないんだ。実際に見ないと。生身の魔族たちが戦っている戦争なのだと見て、理解しないと導けない」

 兵たちを見つめながら真面目な口調で言葉を紡ぐ二番様だったが……ふっと表情を緩めた。

「……と、一番様に言われた。その通りだと深く反省した。俺はどうしても自己完結してしまいがちだ」
「一番様が……」
「安心してくれ。俺も一番様も、前線と言っても砦や司令部などの拠点でこっそりと参戦する程度だ。目立って標的になる気はない」
「……はい」

 確かに、次の王になられる方の視野を広げるには良いのかもしれない。
 それに……先ほどのウオルタの様子。
 中庭にいる兵士たちの暗い顔も……。

 この国はもう、限界が近いのかもしれない。
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