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番外編1 ●●が怖い執事長の話
一人の騎士(1)
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「そうか……騎士団長が……」
一番様のところへ最初に伝えた騎士団の訃報は、寄りにもよって騎士団長のものだった。
先の、更に先の戦争で活躍した伝説の騎士で、もうかなりの高齢ではあるが、副団長である息子と肩を並べるほど強く、なによりも騎士団の象徴のような勇猛果敢な方だった。
「戦局が変わるなぁ」
一番様のため息交じりの言葉通り、象徴を無くした騎士団は一人、また一人と数を減らしていった。
そしてとうとう……
◆
「一人しか、帰ってきていないのか?」
数十人いた騎士はたった一人になって帰って来た。
騎士団長の孫のウオルタという騎士で、異例の若さで騎士になった最年少騎士であり、伝説の騎士の血を引く天才、未来の騎士団長と期待されている男だが……。
前線からたった一人で、よくこれで馬に乗れたなと思うほどの傷を負いながら帰って来たらしい。
「ローズウェル、手当てに行ってくれるか?」
戦禍になってからは治療を担当することもあったが、私は医療担当ではない。
大怪我だと聞いているが……。
「構いませんが……私より治癒魔法が上手い医療担当でなくてよろしいのですか?」
「いや、お前が良いと思う。行ってくれ」
一番様は騎士団と共に武術の訓練も行っている。
騎士のことは良く知っていて、ウオルタとも面識があるはずだ。
その一番様が言うなら……理由は解らないが、良いのだろう。
「承知いたしました」
一番様に頭を下げて、足早に騎士団の詰め所へと向かった。
「く……ふっ……く………」
いつもなら数十人の騎士でにぎわっている騎士団の詰め所の端で、ポツンと一人、地面に座り込んでいる男がいた。
亡くなった騎士団長と同じ青系統の髪色だが、目が覚めるような鮮やかな青い髪の騎士団長よりも色素が薄い、水色の髪の男だ。
「ウオルタさん?」
特に親しいわけではないが、連絡事項の伝達や物資の搬入などで何度か顔を合わせたことはある。式典で並んでいる姿を一方的に見たこともある。
髪の色は薄いが、顔つきは騎士団長とよく似た、彫が深く、男らしく、意志の強そうな釣り目が印象的な騎士らしい顔で、一番様には及ばないが大柄で勇ましい体つきの「強そう」な男だと思っていたが……
「あ……ロ、ローズウェル……?」
血と泥だらけになった甲冑を脱ぎ捨て、汚れた軽装で泣きながら膝を抱えている姿は、あどけない少年に見えた。
実際、私よりも五〇歳くらい若かったか?
まだ城に上がってからも騎士になってからもわずかな青年なんだ。
「治療に来ました。痛むのはどこですか?」
「あ……足は、自力で何とかしたが、魔力が足りなくて動きが悪い……あとは、もう、解らない。全部痛い」
「解りました。全身診ましょう。ここに寝転べますか?」
医療用魔法陣の書かれた布を床に敷くと、ウオルタは這うようにしてそこに仰向けになった。
ひどい怪我ではあるが……私の魔法でなんとかなる類の怪我ばかりに見える。
「補助の魔法石が足りないので、少し時間はかかりますが……二日もあれば動けるようになりますよ」
「そうか……二日……」
魔法石も人員も豊富であれば一日もかからずに全快できるので「遅い」と怒られるのかと思ったが……
「たった二日でまた、戦場に戻らなければいけないのか」
ウオルタのか細い声は、「絶望」しているように聞こえた。
「それは……治ってすぐ出陣とはいかないでしょう?」
傷の回復にウオルタの体力と魔力も使う。
傷がふさがったからといって、動けるからといって、体は万全ではないのだから、少し体を休めて出陣するのが一般的だ。
だがそれは、非常時以外の話であって……
「もう、騎士は俺だけなのにか?」
ウオルタの言葉に、何か返事をしたいのに……何も思いつかなかった。
一番様のところへ最初に伝えた騎士団の訃報は、寄りにもよって騎士団長のものだった。
先の、更に先の戦争で活躍した伝説の騎士で、もうかなりの高齢ではあるが、副団長である息子と肩を並べるほど強く、なによりも騎士団の象徴のような勇猛果敢な方だった。
「戦局が変わるなぁ」
一番様のため息交じりの言葉通り、象徴を無くした騎士団は一人、また一人と数を減らしていった。
そしてとうとう……
◆
「一人しか、帰ってきていないのか?」
数十人いた騎士はたった一人になって帰って来た。
騎士団長の孫のウオルタという騎士で、異例の若さで騎士になった最年少騎士であり、伝説の騎士の血を引く天才、未来の騎士団長と期待されている男だが……。
前線からたった一人で、よくこれで馬に乗れたなと思うほどの傷を負いながら帰って来たらしい。
「ローズウェル、手当てに行ってくれるか?」
戦禍になってからは治療を担当することもあったが、私は医療担当ではない。
大怪我だと聞いているが……。
「構いませんが……私より治癒魔法が上手い医療担当でなくてよろしいのですか?」
「いや、お前が良いと思う。行ってくれ」
一番様は騎士団と共に武術の訓練も行っている。
騎士のことは良く知っていて、ウオルタとも面識があるはずだ。
その一番様が言うなら……理由は解らないが、良いのだろう。
「承知いたしました」
一番様に頭を下げて、足早に騎士団の詰め所へと向かった。
「く……ふっ……く………」
いつもなら数十人の騎士でにぎわっている騎士団の詰め所の端で、ポツンと一人、地面に座り込んでいる男がいた。
亡くなった騎士団長と同じ青系統の髪色だが、目が覚めるような鮮やかな青い髪の騎士団長よりも色素が薄い、水色の髪の男だ。
「ウオルタさん?」
特に親しいわけではないが、連絡事項の伝達や物資の搬入などで何度か顔を合わせたことはある。式典で並んでいる姿を一方的に見たこともある。
髪の色は薄いが、顔つきは騎士団長とよく似た、彫が深く、男らしく、意志の強そうな釣り目が印象的な騎士らしい顔で、一番様には及ばないが大柄で勇ましい体つきの「強そう」な男だと思っていたが……
「あ……ロ、ローズウェル……?」
血と泥だらけになった甲冑を脱ぎ捨て、汚れた軽装で泣きながら膝を抱えている姿は、あどけない少年に見えた。
実際、私よりも五〇歳くらい若かったか?
まだ城に上がってからも騎士になってからもわずかな青年なんだ。
「治療に来ました。痛むのはどこですか?」
「あ……足は、自力で何とかしたが、魔力が足りなくて動きが悪い……あとは、もう、解らない。全部痛い」
「解りました。全身診ましょう。ここに寝転べますか?」
医療用魔法陣の書かれた布を床に敷くと、ウオルタは這うようにしてそこに仰向けになった。
ひどい怪我ではあるが……私の魔法でなんとかなる類の怪我ばかりに見える。
「補助の魔法石が足りないので、少し時間はかかりますが……二日もあれば動けるようになりますよ」
「そうか……二日……」
魔法石も人員も豊富であれば一日もかからずに全快できるので「遅い」と怒られるのかと思ったが……
「たった二日でまた、戦場に戻らなければいけないのか」
ウオルタのか細い声は、「絶望」しているように聞こえた。
「それは……治ってすぐ出陣とはいかないでしょう?」
傷の回復にウオルタの体力と魔力も使う。
傷がふさがったからといって、動けるからといって、体は万全ではないのだから、少し体を休めて出陣するのが一般的だ。
だがそれは、非常時以外の話であって……
「もう、騎士は俺だけなのにか?」
ウオルタの言葉に、何か返事をしたいのに……何も思いつかなかった。
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