魔王さんのガチペット

メグル

文字の大きさ
上 下
239 / 409
番外編1 ●●が怖い執事長の話

一人の騎士(1)

しおりを挟む
「そうか……騎士団長が……」

 一番様のところへ最初に伝えた騎士団の訃報は、寄りにもよって騎士団長のものだった。
 先の、更に先の戦争で活躍した伝説の騎士で、もうかなりの高齢ではあるが、副団長である息子と肩を並べるほど強く、なによりも騎士団の象徴のような勇猛果敢な方だった。

「戦局が変わるなぁ」

 一番様のため息交じりの言葉通り、象徴を無くした騎士団は一人、また一人と数を減らしていった。
 そしてとうとう……


      ◆


「一人しか、帰ってきていないのか?」

 数十人いた騎士はたった一人になって帰って来た。
 騎士団長の孫のウオルタという騎士で、異例の若さで騎士になった最年少騎士であり、伝説の騎士の血を引く天才、未来の騎士団長と期待されている男だが……。
 前線からたった一人で、よくこれで馬に乗れたなと思うほどの傷を負いながら帰って来たらしい。

「ローズウェル、手当てに行ってくれるか?」

 戦禍になってからは治療を担当することもあったが、私は医療担当ではない。
 大怪我だと聞いているが……。

「構いませんが……私より治癒魔法が上手い医療担当でなくてよろしいのですか?」
「いや、お前が良いと思う。行ってくれ」

 一番様は騎士団と共に武術の訓練も行っている。
 騎士のことは良く知っていて、ウオルタとも面識があるはずだ。
 その一番様が言うなら……理由は解らないが、良いのだろう。

「承知いたしました」

 一番様に頭を下げて、足早に騎士団の詰め所へと向かった。




「く……ふっ……く………」

 いつもなら数十人の騎士でにぎわっている騎士団の詰め所の端で、ポツンと一人、地面に座り込んでいる男がいた。
 亡くなった騎士団長と同じ青系統の髪色だが、目が覚めるような鮮やかな青い髪の騎士団長よりも色素が薄い、水色の髪の男だ。

「ウオルタさん?」

 特に親しいわけではないが、連絡事項の伝達や物資の搬入などで何度か顔を合わせたことはある。式典で並んでいる姿を一方的に見たこともある。
 髪の色は薄いが、顔つきは騎士団長とよく似た、彫が深く、男らしく、意志の強そうな釣り目が印象的な騎士らしい顔で、一番様には及ばないが大柄で勇ましい体つきの「強そう」な男だと思っていたが……

「あ……ロ、ローズウェル……?」

 血と泥だらけになった甲冑を脱ぎ捨て、汚れた軽装で泣きながら膝を抱えている姿は、あどけない少年に見えた。
 実際、私よりも五〇歳くらい若かったか?
 まだ城に上がってからも騎士になってからもわずかな青年なんだ。

「治療に来ました。痛むのはどこですか?」
「あ……足は、自力で何とかしたが、魔力が足りなくて動きが悪い……あとは、もう、解らない。全部痛い」
「解りました。全身診ましょう。ここに寝転べますか?」

 医療用魔法陣の書かれた布を床に敷くと、ウオルタは這うようにしてそこに仰向けになった。
 ひどい怪我ではあるが……私の魔法でなんとかなる類の怪我ばかりに見える。

「補助の魔法石が足りないので、少し時間はかかりますが……二日もあれば動けるようになりますよ」
「そうか……二日……」

 魔法石も人員も豊富であれば一日もかからずに全快できるので「遅い」と怒られるのかと思ったが……

「たった二日でまた、戦場に戻らなければいけないのか」

 ウオルタのか細い声は、「絶望」しているように聞こえた。

「それは……治ってすぐ出陣とはいかないでしょう?」

 傷の回復にウオルタの体力と魔力も使う。
 傷がふさがったからといって、動けるからといって、体は万全ではないのだから、少し体を休めて出陣するのが一般的だ。
 だがそれは、非常時以外の話であって……

「もう、騎士は俺だけなのにか?」

 ウオルタの言葉に、何か返事をしたいのに……何も思いつかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

悪役が英雄を育てるカオスな世界に転生しました(仮)

塩猫
BL
三十路バツイチ子持ちのおっさんが乙女ソーシャルゲームの世界に転生しました。 魔法使いは化け物として嫌われる世界で怪物の母、性悪妹を持つ悪役魔法使いに生まれかわった。 そしてゲーム一番人気の未来の帝国の国王兼王立騎士団長のカイン(6)に出会い、育てる事に… 敵対関係にある魔法使いと人間が共存出来るように二人でゲームの未来を変えていきます! 「俺が貴方を助けます、貴方のためなら俺はなんでもします」 「…いや俺、君の敵……じゃなくて君には可愛いゲームの主人公ちゃんが…あれ?」 なにか、育て方を間違っただろうか。 国王兼王立騎士団長(選ばれし英雄)(20)×6年間育てたプチ育ての親の悪役魔法使い(26)

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
ご感想をいただけたらめちゃくちゃ喜びます! ※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

処理中です...