魔王さんのガチペット

メグル

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番外編1 ●●が怖い執事長の話

一方的な愛

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 戦争が始まっても、執事が前線に出ることは無かったが、仕事は大きく変わった。
 城付きの騎士団は軍部となり、城の中庭には軍隊の待機場所や訓練所が作られた。
 執事やメイドは通常業務に加えて、物資や人員の手配、怪我人の治療、魔法系武器のメンテナンスなど、軍の補佐的な仕事も多くこなした。
 慣れない仕事が多く、忙しく、戦争自体不安ではあったが、国の勝利のために貢献していると思うと頑張れた。
 人口でも国の豊かさでも大陸一の我が国が負けるはずがない。
 しかも、敵は一国。こちらは三国の連合。
 頑張れば、いつかは勝利を掴める。
 そう信じていたが……戦局は徐々に悪くなっていた


 新聞に掲載される戦死者の名前が日に日に増えていく。
 負傷して城に戻ってくる兵士の数が増え、怪我の深刻さも増した。
 敵国である隣国の方が人口も国力も劣っているのに。
 こちらは三国の連合軍なのに。
 隣国の王が開発した魔法武器の威力があまりに高く、被害は拡大していく一方だった。
 始めは「俺たちがこの国を護る!」「俺の手で勝利を掴む!」と、意気揚々と戦地に赴いていた兵士たちも、だんだん悲壮な顔をして戦地に向かうことが増えた。
 私は執事だから戦地に赴くことはない。毎日兵士を送り出し、負傷者を迎え入れるだけだ。
 それが、安心でもあり、少し、心苦しくもあった。

 そんな、ある日の夜だった。


「……ん?」

 城の裏手にある、若い城付き用の寮の自室で寝ていた時だった。
 急に体が重くなり、目を覚ますと……一人の兵士が私の体に覆いかぶさっていた。

「な……っ!?」
「ローズウェル、ずっと、ずっと、お前のことをかわいく思っていた……」

 呻くように告げたのは、見知った兵士だ。
 明るい短めの茶色の髪に短めの竜角で、兵士らしく鍛え上げた大きな体。素朴だが優しそうな顔は、今は獣のように目をギラつかせている。
 普段は騎士見習いで、戦禍になる前から、城で時々姿は見かけていた。
 熱っぽい視線にも気が付いていたが……黙って見てくる男は多いので気にしていなかった。
 城の中で、強姦のような犯罪行為にはしる奴はいないとタカをくくっていた。

 だが、目の前の男は息が荒く、膨らんだ股間を太ももに押し付けてくる。
 何をしようとしているか明らかだった。
 
「嫌だ、やめろ! ……?」

 助けを呼ぶつもりで大声を上げたはずが、声が出ない。
 魔法か?
 嘘だろう!?
 こうなったら、こっちも遠慮していられない。
 あまり得意ではないが攻撃魔法で抵抗をすれば、追い払えなくても誰か気づいてくれるだろう。
 頭の中で、詠唱無しで発動できる魔法を考えていると、急に顔が濡れた。

「……?」
「頼む……頼む、ローズウェル……」

 兵士の、涙だった。
 なぜお前が泣くんだ?
 泣きたいのは私だ。

「俺は……明日、前線に征く。国間の第四一戦闘地だ」

 四一……一番戦局の悪い場所だ。

「俺の部隊は盾を持たない」

 ……!
 あぁ。
 そうか。
 そういうことか。

「こんなことをすれば、お前に嫌われるのは解っている。だが……」

 兵士の顔が大きくゆがむ。大粒の涙が更に私の顔に降って来た。

「明日死ぬのに、好かれても嫌われても関係ない!」

 この兵士は、明日、戦闘の切り込み隊として戦地に向かうのか。
 死亡率九〇%の隊として……。

「頼む、嫌いになっていい。最後に……最後に……お前のかわいい顔を、体を、味わいたい」

 泣き顔が近づいてきて、貪るように唇を重ねられている間に、この兵士の顔と名前、所属を冷静に思い返して、嘘じゃないなと確信した。

「ローズウェル……ずっと、憧れていた。見ているだけで幸せだった。あぁ、愛しい。愛しい、ローズウェル……!」

 嫌だ。
 痛い。
 気持ち悪い。
 苦しい。

 兵士の声も息も指も……陰茎も、すべてが嫌だった。
 甘い愛の言葉も気持ち悪かった。

 だが……

 泣きながら腰を振る男を、無理やり引きはがすことはできなかった。

 明日も、明後日も、安全な城にいられる私が、拒むことは、できなかった。
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