魔王さんのガチペット

メグル

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番外編1 ●●が怖い執事長の話

あの朝

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 全てのセックスが苦しいわけではない、とは解っている。
 恋人や夫婦が、愛を確かめ合ったり、愛の結晶である子どもを宿したりするために行う、双方合意の愛し合う二人で行うセックスは苦しい行為ではないはずだ。
 しかし、一方的な愛ではどうか。
 魔王様の大きな愛情と、歴代ペット様たちの愛情には、差があった。
 ペット様たちは「魔王様は体を気遣って優しくしてくれます。嫌ではありません」とは言っていたが、極力やりたくないご様子だった。
 そもそも、生殖行為であるはずなのに、男が男を受け入れるのが簡単なわけがない。
 受け入れる側にとっては苦しいだけだ。
 気持ち悪いだけだ。
 あんな行為、誰が好き好んでするものか。

 だから、ライト様に苦しい思いをさせたくない。
 だが、魔王様にも我慢はして欲しくない。
 苦しい思いをしたライト様の心が、魔王様から離れてしまうかもしれないのも怖い。

 お二人の距離が縮まるのを嬉しく思う反面、この先に起こることが、怖くて怖くて仕方が無かった。


      ◆


 ライト様がお城に来られて一〇日ほど経ったある日の朝。

「魔王様、おはようございます」

 朝食の時間にお部屋のドアをノックしても返事がない。
 どんなに疲れていても、仕事の時間には必ず間に合うように起きて身なりを整える方なのに。

「まさか……失礼いたします!」

 ここ数日、どうしても自由時間が欲しいからと無茶をして仕事に取り組んでおられた反動で、魔力切れを起こしていらっしゃるのかもしれない。
 朝食の乗ったワゴンを廊下の端に寄せ、覚悟を決めてからドアを開いた。

「魔王様! ……魔王様?」

 リビングルーム、寝室、クローゼット、シャワールーム……どこにもお姿が無かった。
 もしかして、早く目が覚めたからお庭を散歩されているか、朝食前に仕事を片付けようとされているのか……だったら、私に一声かけられるはずだ。
 声をかけるのも忘れてどこかにいるとすれば……

「……」

 ライト様のお部屋に繋がるドアが目に入る。
 ……もしかして……。

 一度廊下に出て、魔王様の部屋の隣にある、ライト様のお部屋のドアをノックした。

「あ、はーい」

 いつも通りのかわいいお声だ。
 これは、違うのか?

「失礼します。あの、こちらに魔王様がいらっしゃっていませんか……」

 ドアを開けながらたずねて……中の光景が見えた瞬間、一瞬記憶が飛ぶほどに驚いた。

「……!」
「おはよう、ローズウェルさん。魔王さん、ここにいるよ」
「部屋にいなくて心配をかけたな。すまない」
「あ、いえ……」

 お二人はソファに腰掛けていて……魔王様の手はタオル越しにライト様の頭を撫でている。
 シャワーを浴びたてなのだろう。
 つまり、シャワーを浴びるようなことをしたということで……それは、つまり……。

「……!」

 恐る恐る入り口の洗濯籠に目をやれば、汚れたシーツと二人分のバスローブやタオルが入っていた。
 セックス……されたのか。
 しかし、なぜ?
 なぜ一緒にいらっしゃるんだ?

「魔王さん、このまま一緒に朝ご飯食べない?」
「いいのか? ライト」
「うん。一緒に食べたい」

 セックスをされたはずなのに、ライト様はなぜそんなにご機嫌で、魔王様への愛情にあふれているんだ?
 今までのペット様は全員、初めて体を繋げた翌日はベッドで苦しそうにしていたのに。ライト様はなぜ平気なんだ?
 疑問は尽きないが……

「ローズウェル、頼めるか?」
「はい、すぐにご用意いたします!」

 驚きすぎて、執事らしくなく、派手な足音を立ててしまった。
 だって、魔王様のあのお顔……。
 あんなに幸せそうなお顔は初めて見た。

「よかった……魔王様、ライト様……よかった」

 廊下の端で情けなくも泣いてしまったが、その後詰め所に戻ってリリリさんや他の執事、メイドに報告すると、全員涙を流して喜んだ。

 みんな、口には出していなかったが、今までのペット様が魔王様に愛されて苦しむ姿を見るのは辛かったようだ。

 そして、ライト様は特別なのだと、この日ハッキリと理解した。

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