229 / 409
番外編1 ●●が怖い執事長の話
あの朝
しおりを挟む
全てのセックスが苦しいわけではない、とは解っている。
恋人や夫婦が、愛を確かめ合ったり、愛の結晶である子どもを宿したりするために行う、双方合意の愛し合う二人で行うセックスは苦しい行為ではないはずだ。
しかし、一方的な愛ではどうか。
魔王様の大きな愛情と、歴代ペット様たちの愛情には、差があった。
ペット様たちは「魔王様は体を気遣って優しくしてくれます。嫌ではありません」とは言っていたが、極力やりたくないご様子だった。
そもそも、生殖行為であるはずなのに、男が男を受け入れるのが簡単なわけがない。
受け入れる側にとっては苦しいだけだ。
気持ち悪いだけだ。
あんな行為、誰が好き好んでするものか。
だから、ライト様に苦しい思いをさせたくない。
だが、魔王様にも我慢はして欲しくない。
苦しい思いをしたライト様の心が、魔王様から離れてしまうかもしれないのも怖い。
お二人の距離が縮まるのを嬉しく思う反面、この先に起こることが、怖くて怖くて仕方が無かった。
◆
ライト様がお城に来られて一〇日ほど経ったある日の朝。
「魔王様、おはようございます」
朝食の時間にお部屋のドアをノックしても返事がない。
どんなに疲れていても、仕事の時間には必ず間に合うように起きて身なりを整える方なのに。
「まさか……失礼いたします!」
ここ数日、どうしても自由時間が欲しいからと無茶をして仕事に取り組んでおられた反動で、魔力切れを起こしていらっしゃるのかもしれない。
朝食の乗ったワゴンを廊下の端に寄せ、覚悟を決めてからドアを開いた。
「魔王様! ……魔王様?」
リビングルーム、寝室、クローゼット、シャワールーム……どこにもお姿が無かった。
もしかして、早く目が覚めたからお庭を散歩されているか、朝食前に仕事を片付けようとされているのか……だったら、私に一声かけられるはずだ。
声をかけるのも忘れてどこかにいるとすれば……
「……」
ライト様のお部屋に繋がるドアが目に入る。
……もしかして……。
一度廊下に出て、魔王様の部屋の隣にある、ライト様のお部屋のドアをノックした。
「あ、はーい」
いつも通りのかわいいお声だ。
これは、違うのか?
「失礼します。あの、こちらに魔王様がいらっしゃっていませんか……」
ドアを開けながらたずねて……中の光景が見えた瞬間、一瞬記憶が飛ぶほどに驚いた。
「……!」
「おはよう、ローズウェルさん。魔王さん、ここにいるよ」
「部屋にいなくて心配をかけたな。すまない」
「あ、いえ……」
お二人はソファに腰掛けていて……魔王様の手はタオル越しにライト様の頭を撫でている。
シャワーを浴びたてなのだろう。
つまり、シャワーを浴びるようなことをしたということで……それは、つまり……。
「……!」
恐る恐る入り口の洗濯籠に目をやれば、汚れたシーツと二人分のバスローブやタオルが入っていた。
セックス……されたのか。
しかし、なぜ?
なぜ一緒にいらっしゃるんだ?
「魔王さん、このまま一緒に朝ご飯食べない?」
「いいのか? ライト」
「うん。一緒に食べたい」
セックスをされたはずなのに、ライト様はなぜそんなにご機嫌で、魔王様への愛情にあふれているんだ?
今までのペット様は全員、初めて体を繋げた翌日はベッドで苦しそうにしていたのに。ライト様はなぜ平気なんだ?
疑問は尽きないが……
「ローズウェル、頼めるか?」
「はい、すぐにご用意いたします!」
驚きすぎて、執事らしくなく、派手な足音を立ててしまった。
だって、魔王様のあのお顔……。
あんなに幸せそうなお顔は初めて見た。
「よかった……魔王様、ライト様……よかった」
廊下の端で情けなくも泣いてしまったが、その後詰め所に戻ってリリリさんや他の執事、メイドに報告すると、全員涙を流して喜んだ。
みんな、口には出していなかったが、今までのペット様が魔王様に愛されて苦しむ姿を見るのは辛かったようだ。
そして、ライト様は特別なのだと、この日ハッキリと理解した。
恋人や夫婦が、愛を確かめ合ったり、愛の結晶である子どもを宿したりするために行う、双方合意の愛し合う二人で行うセックスは苦しい行為ではないはずだ。
しかし、一方的な愛ではどうか。
魔王様の大きな愛情と、歴代ペット様たちの愛情には、差があった。
ペット様たちは「魔王様は体を気遣って優しくしてくれます。嫌ではありません」とは言っていたが、極力やりたくないご様子だった。
そもそも、生殖行為であるはずなのに、男が男を受け入れるのが簡単なわけがない。
受け入れる側にとっては苦しいだけだ。
気持ち悪いだけだ。
あんな行為、誰が好き好んでするものか。
だから、ライト様に苦しい思いをさせたくない。
だが、魔王様にも我慢はして欲しくない。
苦しい思いをしたライト様の心が、魔王様から離れてしまうかもしれないのも怖い。
お二人の距離が縮まるのを嬉しく思う反面、この先に起こることが、怖くて怖くて仕方が無かった。
◆
ライト様がお城に来られて一〇日ほど経ったある日の朝。
「魔王様、おはようございます」
朝食の時間にお部屋のドアをノックしても返事がない。
どんなに疲れていても、仕事の時間には必ず間に合うように起きて身なりを整える方なのに。
「まさか……失礼いたします!」
ここ数日、どうしても自由時間が欲しいからと無茶をして仕事に取り組んでおられた反動で、魔力切れを起こしていらっしゃるのかもしれない。
朝食の乗ったワゴンを廊下の端に寄せ、覚悟を決めてからドアを開いた。
「魔王様! ……魔王様?」
リビングルーム、寝室、クローゼット、シャワールーム……どこにもお姿が無かった。
もしかして、早く目が覚めたからお庭を散歩されているか、朝食前に仕事を片付けようとされているのか……だったら、私に一声かけられるはずだ。
声をかけるのも忘れてどこかにいるとすれば……
「……」
ライト様のお部屋に繋がるドアが目に入る。
……もしかして……。
一度廊下に出て、魔王様の部屋の隣にある、ライト様のお部屋のドアをノックした。
「あ、はーい」
いつも通りのかわいいお声だ。
これは、違うのか?
「失礼します。あの、こちらに魔王様がいらっしゃっていませんか……」
ドアを開けながらたずねて……中の光景が見えた瞬間、一瞬記憶が飛ぶほどに驚いた。
「……!」
「おはよう、ローズウェルさん。魔王さん、ここにいるよ」
「部屋にいなくて心配をかけたな。すまない」
「あ、いえ……」
お二人はソファに腰掛けていて……魔王様の手はタオル越しにライト様の頭を撫でている。
シャワーを浴びたてなのだろう。
つまり、シャワーを浴びるようなことをしたということで……それは、つまり……。
「……!」
恐る恐る入り口の洗濯籠に目をやれば、汚れたシーツと二人分のバスローブやタオルが入っていた。
セックス……されたのか。
しかし、なぜ?
なぜ一緒にいらっしゃるんだ?
「魔王さん、このまま一緒に朝ご飯食べない?」
「いいのか? ライト」
「うん。一緒に食べたい」
セックスをされたはずなのに、ライト様はなぜそんなにご機嫌で、魔王様への愛情にあふれているんだ?
今までのペット様は全員、初めて体を繋げた翌日はベッドで苦しそうにしていたのに。ライト様はなぜ平気なんだ?
疑問は尽きないが……
「ローズウェル、頼めるか?」
「はい、すぐにご用意いたします!」
驚きすぎて、執事らしくなく、派手な足音を立ててしまった。
だって、魔王様のあのお顔……。
あんなに幸せそうなお顔は初めて見た。
「よかった……魔王様、ライト様……よかった」
廊下の端で情けなくも泣いてしまったが、その後詰め所に戻ってリリリさんや他の執事、メイドに報告すると、全員涙を流して喜んだ。
みんな、口には出していなかったが、今までのペット様が魔王様に愛されて苦しむ姿を見るのは辛かったようだ。
そして、ライト様は特別なのだと、この日ハッキリと理解した。
147
お気に入りに追加
3,562
あなたにおすすめの小説
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる