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第8章 その後の二人 / 嫉妬と未来の話
関係(1)
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結局パーティー会場には戻らず、護衛の騎士さん達を連れてすぐに魔王さんのお城に帰った。
予定よりも早すぎる帰還で、俺も魔王さんも服にはワインのシミ。
成分を確認すれば魔王さんにかかっているワインは媚薬入りだと解るから、ローズウェルさんやファイさんたちがめちゃくちゃ心配していたけど……。
「俺もライトも無事だ。すまない。詳しい報告は明日にさせてくれ」
魔王さんが吐き捨てるように言うと、周りの人もなんとなく察したのか、悲しそうな顔で頷いてくれた。
今までにも、こんなことあったの?
魔王さんはずっと不機嫌な顔で、俺の体を微かに震える手で抱き寄せていて、嫌悪か恐怖か軽蔑か同情か、なにか解らないけど、不快に思っているのは明らかだった。
きっと、すごく考えている。悩んでいる。優しい人だから。
どう声をかけてあげるか……あと、こんな魔王さんに、我儘を言っていいのか……。
悩んでいるうちに俺の部屋についた。
「ライト、シャワー……いや、風呂に入りたい。あの女の感触を……忘れたい」
「うん……」
魔王さんから風呂に入りたいなんて、初めて言われたな。
◆
「……やっと、少し落ち着いた」
バスタブにお湯を張って、魔王さんに後ろから抱きしめられながら浸かって一〇分ほど。
魔王さんはずっと俺の体を抱きしめたり、まさぐったり、頭に頬を摺り寄せたり、沢山俺をかわいがってくれた。
ただ、いつもなら「かわいい」「愛している」と何度も言ってくれるのが、今日は無かった。
ただただ無言で撫でまわされ……やっと口を開いてくれた。
「よかった」
「心配をかけたな。すまない」
魔王さんが俺の頭を優しく撫でてくれる。
手は、もう震えていない。
「それに、ライトのお陰で助かった。ありがとう。媚薬の中和は久しぶりで、少し手間取ってしまった。見苦しい所を見せてしまった……」
「久しぶりって……今日みたいなこと、何度もあったの?」
聞いてから、しまったと思った。
もしあったとしたら、魔王さんにとっては嫌な思い出なのに。
「……あった。何度もと言うほどではないが……三度ほど」
「ごめん、魔王さん。思い出したくないよね?」
「いや、ライトには今日の出来事の説明をしないといけないと思っていた」
魔王さんの手が、また震える。
そんなに嫌?
「気にはなるけど、話したくないなら……」
「いや、ライトには……きちんと説明したい」
「無理はしないでね?」
「あぁ。ありがとう。ライトは優しいな」
魔王さんが俺の頬にキスをしてくれるので、俺からも魔王さんの頬を啄んだ。
振り向いてチラっと見えた顔は……うん。落ち着いている。
少し、気がまぎれたかな?
魔王さんはもう一度深く深呼吸をして……意を決したように話し始めた。
「黒髪が、男しか抱けないという話はしたか?」
「うん。子どもを作っちゃいけないんだよね?」
「あぁ、そうだ。黒髪は……黒髪が子どもを作ると、必ず黒髪が生まれるんだ。だから禁止されている」
「ん?」
それ……黒髪ってすごく貴重な存在なんだよね?
必ず生まれてラッキーじゃないの?
「黒系統の魔法はとても強力なんだ。黒髪を意図的に増やしていけば、必ず争いの種になる。実際、俺が生まれる前の大昔の戦争では、黒髪の軍隊同士がぶつかり合い、別の大陸が焦土になった。それに、黒髪が種馬として扱われていたと聞く。折角人型を模して、自然に繁栄できるようになったのに、自然のバランスを壊しかねない」
危険かつ倫理観的にアウトってことか。
「だから、国際法で子どもを作ることが禁じられている。黒髪は自然に生まれてくるのを待つと」
でも、黒髪だって普通に魔族なんだから、子どもを作りたいという感情は自然では……って言うとややこしいか。とりあえず今は黙っていよう。
予定よりも早すぎる帰還で、俺も魔王さんも服にはワインのシミ。
成分を確認すれば魔王さんにかかっているワインは媚薬入りだと解るから、ローズウェルさんやファイさんたちがめちゃくちゃ心配していたけど……。
「俺もライトも無事だ。すまない。詳しい報告は明日にさせてくれ」
魔王さんが吐き捨てるように言うと、周りの人もなんとなく察したのか、悲しそうな顔で頷いてくれた。
今までにも、こんなことあったの?
魔王さんはずっと不機嫌な顔で、俺の体を微かに震える手で抱き寄せていて、嫌悪か恐怖か軽蔑か同情か、なにか解らないけど、不快に思っているのは明らかだった。
きっと、すごく考えている。悩んでいる。優しい人だから。
どう声をかけてあげるか……あと、こんな魔王さんに、我儘を言っていいのか……。
悩んでいるうちに俺の部屋についた。
「ライト、シャワー……いや、風呂に入りたい。あの女の感触を……忘れたい」
「うん……」
魔王さんから風呂に入りたいなんて、初めて言われたな。
◆
「……やっと、少し落ち着いた」
バスタブにお湯を張って、魔王さんに後ろから抱きしめられながら浸かって一〇分ほど。
魔王さんはずっと俺の体を抱きしめたり、まさぐったり、頭に頬を摺り寄せたり、沢山俺をかわいがってくれた。
ただ、いつもなら「かわいい」「愛している」と何度も言ってくれるのが、今日は無かった。
ただただ無言で撫でまわされ……やっと口を開いてくれた。
「よかった」
「心配をかけたな。すまない」
魔王さんが俺の頭を優しく撫でてくれる。
手は、もう震えていない。
「それに、ライトのお陰で助かった。ありがとう。媚薬の中和は久しぶりで、少し手間取ってしまった。見苦しい所を見せてしまった……」
「久しぶりって……今日みたいなこと、何度もあったの?」
聞いてから、しまったと思った。
もしあったとしたら、魔王さんにとっては嫌な思い出なのに。
「……あった。何度もと言うほどではないが……三度ほど」
「ごめん、魔王さん。思い出したくないよね?」
「いや、ライトには今日の出来事の説明をしないといけないと思っていた」
魔王さんの手が、また震える。
そんなに嫌?
「気にはなるけど、話したくないなら……」
「いや、ライトには……きちんと説明したい」
「無理はしないでね?」
「あぁ。ありがとう。ライトは優しいな」
魔王さんが俺の頬にキスをしてくれるので、俺からも魔王さんの頬を啄んだ。
振り向いてチラっと見えた顔は……うん。落ち着いている。
少し、気がまぎれたかな?
魔王さんはもう一度深く深呼吸をして……意を決したように話し始めた。
「黒髪が、男しか抱けないという話はしたか?」
「うん。子どもを作っちゃいけないんだよね?」
「あぁ、そうだ。黒髪は……黒髪が子どもを作ると、必ず黒髪が生まれるんだ。だから禁止されている」
「ん?」
それ……黒髪ってすごく貴重な存在なんだよね?
必ず生まれてラッキーじゃないの?
「黒系統の魔法はとても強力なんだ。黒髪を意図的に増やしていけば、必ず争いの種になる。実際、俺が生まれる前の大昔の戦争では、黒髪の軍隊同士がぶつかり合い、別の大陸が焦土になった。それに、黒髪が種馬として扱われていたと聞く。折角人型を模して、自然に繁栄できるようになったのに、自然のバランスを壊しかねない」
危険かつ倫理観的にアウトってことか。
「だから、国際法で子どもを作ることが禁じられている。黒髪は自然に生まれてくるのを待つと」
でも、黒髪だって普通に魔族なんだから、子どもを作りたいという感情は自然では……って言うとややこしいか。とりあえず今は黙っていよう。
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