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第8章 その後の二人 / 嫉妬と未来の話
おしゃべり(1)
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「今日のメインイベントです! この店には絶対絶対ライト様とイルズ様と来たかったんです!」
城下町のメインストリートの真ん中にある、黒っぽいレンガ造りのカフェとスイーツショップが併設されているお店の前で、ミチュチュちゃんが店の看板に向けて両手を上げる。
黒地に高級感のある金のインクで店名が描かれた看板……。
「この看板……最初のパーティーのあと、送ってくれたお菓子の?」
「はい! 僕もギルドの他の人間もみんな大好きなお店なんです! 本当はフレッシュケーキを送りたかったのですが、生ものは送れなくて……」
「焼き菓子もすごく美味しかったよ。それに、お城でお世話になっているメイドさん達がここのお菓子大好きなんだよね。みんなにも買っていきたいな」
「ぜひぜひ! 国外発送していない限定品もあります!」
俺たちが盛り上がっている横で、イルズちゃんが店の前に置いてある黒板の手書き文字を熟読した後、嬉しそうに表情を緩めた。
「なるほど。我が国の特産品のベリーを使いたいと頼み込んできた店ですか」
「はい! 一〇年ほど前に、シン様が生産量を増やしてまで対応してくださったと聞いています」
「えぇ。なぜエルフの国のベリーでないといけないか、他国の物とどう違うのか、どう使用するか、丁寧かつ必死に訴える手紙を国際商工ギルドを介して渡され、心打たれたとシンが言っていましたね。定期的に焼き菓子は送って頂いていますが、生菓子は私も初めてです」
「店長さんのこだわり、情熱、すっごいんです! 生菓子の方がよりベリーの美味しさが感じられるので、絶対食べてください!」
本当にイチゴのケーキが好きなんだな、ミチュチュちゃん。
俺とイルズちゃんが、明らかに興奮しているミチュチュちゃんを微笑ましく眺めていると、店の中からオレンジがかったピンク色の髪と角で、白い割烹着のようなものを身に着けた優しそうな顔のぽっちゃりした五〇代くらいに見える女性魔族さんが顔を出した。
「ミチュチュちゃん、ケーキできているよ、早くお入り」
「あ、おかみさん!」
「店長がね、ミチュチュちゃんのお友だちが一緒で、しかも魔王の国のライト様とエルフの国のイルズ様だって聞いて張り切っているのよ。すっごいの作っちゃったんだから、早く食べてあげて?」
「すごいの? え~! どんなケーキだろう!? 楽しみ!」
「ふふふ。お友だちのために頑張ったのに、ミチュチュちゃんが一番喜んじゃいそうね」
ぽっちゃりした女性魔族さんは、ミチュチュちゃんの頭をまるで母親のように優しく撫でてから、俺たちの方を向いた。
「ミチュチュちゃんからたくさんお話を聞いていますよ。遠慮なく、沢山食べていってくださいね」
「ありがとうございます、楽しみです」
「焼き菓子もすっごく美味しかったから、楽しみ」
イチゴのケーキ好きで、ギルド勤めで色々な国の美味しい物にも詳しいはずのミチュチュちゃんオススメなんだから絶対に一番美味しいんだろうけど……。
このおかみさんとミチュチュちゃんの雰囲気……おすすめのお店に来たというよりは、友だちの実家に遊びに来たような気持ちだ。
ギルドマスターさんとミチュチュちゃんの関係もそうだけど……。
この国、魔王さんの国と人間に対する感覚が随分違うのかな。
城下町のメインストリートの真ん中にある、黒っぽいレンガ造りのカフェとスイーツショップが併設されているお店の前で、ミチュチュちゃんが店の看板に向けて両手を上げる。
黒地に高級感のある金のインクで店名が描かれた看板……。
「この看板……最初のパーティーのあと、送ってくれたお菓子の?」
「はい! 僕もギルドの他の人間もみんな大好きなお店なんです! 本当はフレッシュケーキを送りたかったのですが、生ものは送れなくて……」
「焼き菓子もすごく美味しかったよ。それに、お城でお世話になっているメイドさん達がここのお菓子大好きなんだよね。みんなにも買っていきたいな」
「ぜひぜひ! 国外発送していない限定品もあります!」
俺たちが盛り上がっている横で、イルズちゃんが店の前に置いてある黒板の手書き文字を熟読した後、嬉しそうに表情を緩めた。
「なるほど。我が国の特産品のベリーを使いたいと頼み込んできた店ですか」
「はい! 一〇年ほど前に、シン様が生産量を増やしてまで対応してくださったと聞いています」
「えぇ。なぜエルフの国のベリーでないといけないか、他国の物とどう違うのか、どう使用するか、丁寧かつ必死に訴える手紙を国際商工ギルドを介して渡され、心打たれたとシンが言っていましたね。定期的に焼き菓子は送って頂いていますが、生菓子は私も初めてです」
「店長さんのこだわり、情熱、すっごいんです! 生菓子の方がよりベリーの美味しさが感じられるので、絶対食べてください!」
本当にイチゴのケーキが好きなんだな、ミチュチュちゃん。
俺とイルズちゃんが、明らかに興奮しているミチュチュちゃんを微笑ましく眺めていると、店の中からオレンジがかったピンク色の髪と角で、白い割烹着のようなものを身に着けた優しそうな顔のぽっちゃりした五〇代くらいに見える女性魔族さんが顔を出した。
「ミチュチュちゃん、ケーキできているよ、早くお入り」
「あ、おかみさん!」
「店長がね、ミチュチュちゃんのお友だちが一緒で、しかも魔王の国のライト様とエルフの国のイルズ様だって聞いて張り切っているのよ。すっごいの作っちゃったんだから、早く食べてあげて?」
「すごいの? え~! どんなケーキだろう!? 楽しみ!」
「ふふふ。お友だちのために頑張ったのに、ミチュチュちゃんが一番喜んじゃいそうね」
ぽっちゃりした女性魔族さんは、ミチュチュちゃんの頭をまるで母親のように優しく撫でてから、俺たちの方を向いた。
「ミチュチュちゃんからたくさんお話を聞いていますよ。遠慮なく、沢山食べていってくださいね」
「ありがとうございます、楽しみです」
「焼き菓子もすっごく美味しかったから、楽しみ」
イチゴのケーキ好きで、ギルド勤めで色々な国の美味しい物にも詳しいはずのミチュチュちゃんオススメなんだから絶対に一番美味しいんだろうけど……。
このおかみさんとミチュチュちゃんの雰囲気……おすすめのお店に来たというよりは、友だちの実家に遊びに来たような気持ちだ。
ギルドマスターさんとミチュチュちゃんの関係もそうだけど……。
この国、魔王さんの国と人間に対する感覚が随分違うのかな。
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