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第8章 その後の二人 / 嫉妬と未来の話
素材(1)
しおりを挟む昼食後に連れて行ってもらったギャラリーは、期待通り、ゲームで武器とか防具を作る時に集めるような素材が沢山並んでいた。
「希少動物の中でも、魔動物……略して魔物と呼ばれる魔力を帯びた動物の素材のギャラリーです。はく製や骨格標本も購入できますが、お土産コーナーにある素材を小さく加工したアクセサリーが人気ですね」
「魔力……そのアクセサリーって魔法の効果とかがあったり?」
ゲームだと、「このネックレスの効果で水中を歩ける」とか「この指輪の効果で炎が操れる」なんてあるけど……さすがにファンタジー脳かな?
「はい。魔族の方は、自分の魔力と同じ系統の素材を身に着けると体内の魔力の流れが良くなるので、健康グッズとして買っていかれますね」
「健康……?」
魔力の効果ではあるけど、思ったのとは違うな……夢が無いけど、現実はそうか。
「人間にとってはただのオシャレなアクセサリーです。あ、でも……専属化しているライト様は……」
ミチュチュちゃんが近くにいた紫のロングヘアの魔族のお姉さんの方を見る。
シンプルなワンピース姿だけど、どうやら店員さんらしい。
「専属化されている人間の方にも、効果を感じて頂けます。近年の調査では魔力の循環が良くなって、体内の魔力量が減っても渇きを感じにくいという結果が出ています」
「あ、それいい!」
この前、大変だったしね。魔王さんも俺がこれを身に着けていると安心できるんじゃない?
「よろしければ系統の物をお出ししましょうか? お客様の系統は……え?」
店員さんが俺に近づいて「失礼します」と言いながら頭の、魔族なら角が生えているあたりの位置に手を翳した瞬間、目を大きく見開いた。
「あ、うそ、く、くろ? 黒系統!? と言うことは、この国に黒髪の魔族様が!?」
そうだ。黒、珍しいんだっけ?
店員さんはすごく驚いた後、すごく嬉しそうな顔で俺を見つめるけど……その様子を見て、ミチュチュちゃんが俺たちの間に入った。
「店員さん! この方、魔王様の専属のペット様です!」
ミチュチュちゃんがなぜか申し訳なさそうに言うと、店員さんは何度か目を瞬かせて……。
「え? あ……そういえば、あの人気のお菓子の箱の……あ……あぁ……」
納得するように頷いてはくれたけど……すごく残念そうに顔を引き攣らせた。
「申し訳ございません。大変失礼いたしました!」
「ライト様、すみません。この国……黒系統の魔族が……その……とてもとても貴重で……」
店員さんだけでなく、ミチュチュちゃんも頭を下げてくれた。
「別に、何も失礼なことはされてないよ? 珍しい物に驚くのは当然じゃない?」
「珍しいというか……」
「ん?」
ミチュチュちゃんの戸惑い気味な言葉に首をかしげていると、今度は店員さんが俺たちの間に割り込んだ。
「あの、よろしければお詫びに一つ差し上げます。どうぞお好きなものをお選びください!」
「それは悪いよ。俺、本当に失礼と思っていないし」
さっきの態度が仮に失礼だとしても、アクセサリーをもらうほどの失礼ではないだろうし。
笑顔で手を振って、全身で「気にしないで」と表現したつもりだけど、店員さんはどこか自嘲気味に笑いながら首を振った。
「いいんです。どうせ黒系統の物は国内の魔族には売れないので……人間のファッション用に仕入れているだけですので。いつも、素材の効果が薄れるまでに売り切れないんです。ぜひご使用ください」
「ライト様、本当にそうだと思います。ほら、棚に並んでいる数も、黒だけ極端に少ないでしょう?」
確かに……ネックレスも指輪も腕輪も、他の色は一〇種類くらいが一〇個ずつは置いてあるのに、黒だけは三種類が三個くらい?
ここでも「黒」が貴重なのかと勝手に想像していたけど……そうか。黒髪の魔族が少ないから需要が無いんだ。
そういう理由なら、遠慮なくもらってもいいかな。
「じゃあ……この辺りのネックレスについているのは黒い……牙? どういうもの?」
店員さんの方を向きながら、一番目立つところに置いていた、金の細い鎖に黒い牙のような形の物が付いたネックレスを指差す。
さっきのクラーケンみたいに、元の世界でも有名なモンスターだったりしないかなと思って尋ねてみたんだけど……当たりだった。
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