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第7章 その後の二人 / 魔力切れと覚悟の話
17~18日目
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魔王さんが遠征に出かけて一七日目。
やっとベッドから起き上がる元気が出てきた。
テーブルで食べる方が食事も進むし、何より……
「はぁぁぁぁぁ――――……」
お風呂。
久しぶりの湯舟。
最高としか言えない。
やっぱり部屋に作ってもらって良かった。
俺が体を癒したって、しんどさの原因は魔王さんの魔力不足なんだから関係ないはずなんだけど、久しぶりに湯舟に浸かった後は、かなりスッキリしたように思った。
「ここ数日、自分磨きもサボっているからなぁ……魔王さんが帰ってくるまでに、肌も髪もしっかりケアしないと」
目に見えて肌が荒れているわけでも枝毛ができたわけでもないけど……小さな鏡でも解るほど、数日寝込んでいた俺の顔は疲れが見えていた。
いや、これ、疲れと言うか……。
「痩せた? やつれた?」
食欲なかったし筋トレしていないし……。
「まずい。魔王さんが帰ってくるまでに戻さないと」
心配させたくない。
魔王さんの好きな外見でいたい。
「寝込んでいる場合じゃないな! 頑張ろう!」
湯舟を出た後、数日ぶりにトレーニングをして……いつもはきちんと自分をコントロールできるのに、うっかりやりすぎて、翌日はまた、大半をベッドで過ごすことになってしまった。
……こんなミス初めてだ。
俺、魔王さんが好きすぎる。
◆
魔王さんが遠征にでかけて一八日目。
朝食前に医務室担当の魔族さん……エヴァンスさんがすっかり日課になった「経過観察」をしてくれて、手元のノートに何か書き込んで計算した後、嬉しそうに声を弾ませた。
「ライト様! 今日でほとんど薬や導王様の魔力が抜けて、魔王様だけの魔力になりますよ!」
「本当!? 確かに、体の違和感は日に日に減っているけど……違和感があることに慣れちゃっているから、自分ではよく解らないんだよね」
「なるほど……自身で魔法を使う魔族だと、慣れるということは無いのですが、興味深いですね」
俺たちの横で朝食の準備をしてくれていたローズウェルさんも、少しほっとした笑顔になる。
「ということは……魔王様の体調も、そろそろ異動魔法や残りの結解魔法の張替えに耐えられるということですね?」
「そうですねぇ。明日……大事を取って明後日には導王様の城を発たれるのではないでしょうか?」
二人は「よかった」と頷き合うけど……体調がいいのは嬉しいけど……。
「魔王さん、元気になってすぐお仕事しないといけないんだ……」
もっとゆっくり休んで欲しいのに……と、思わず、口が滑ってしまった。
冷静に考えれば、魔王さんの立場があるし、魔王さんだって早く帰って俺に会いたいから頑張るだろうし、って解るのに。
それに……
「……っ、かわいい……」
「うっわ、くぁいい……魔王様大好きすぎかよ……かわいい、うぅ、ヤバイくらいかわいい、やべえ……」
ほら。
俺が魔王さん心配するとすぐこうなっちゃうよね。
「かわいい……でも」
「本当、かわいすぎ……だけど」
ローズウェルさんとエヴァンスさんは一瞬ぎゅっと目をつぶった後、すぐに真面目な顔に戻って俺に頭を下げた。
「申し訳ございません、ライト様。魔王様のお身体を尊重したいのですが……国民の安全上どうしてもかなわず、ご負担をかけてしまいます!」
「私たち城付きの魔法研究員もできる限りのサポートはさせて頂くのですが……黒系統の魔力を持つ魔王様ご自身にして頂かないといけない作業が多くてご負担がかかります。不甲斐ないです。今後、研究を一層頑張ります!」
「あ……ごめん! 大丈夫。俺、魔王さん好きすぎて自分勝手なこと言った。ごめんね?」
真摯に頭を下げる二人に慌てて俺も頭を下げる。
本当、余計なこと言っちゃったな。
俺が専属化したいって時に応援してくれた、俺と魔王さんを愛してくれている国民のみんなのためなのに。
お城のみんなが頑張っているのも、魔王さんを気遣っているのも知っているのに。
俺、もう少し気遣った発言できるはずなのに。
自分に呆れてしまってため息をついていると、二人はなぜかまた優しい笑顔になって項垂れた俺の顔を覗き込んでくれた。
「良いんですよライト様。それがライト様のお役目ですから」
「そうそう。ライト様くらい、誰よりも、誰のことよりも、魔王様のことだけをお考えください」
「あ……」
そっか。そうだよね。
魔王さんに無償の愛を注げるのは俺だけだよね。
「私たちがそういう発言ができない分、ライト様がしてくださると嬉しいんですよ」
「ローズウェルさん……うん。わかった」
そっか……。
俺、魔王さんの専属ペットなんだから、遠慮せずに言えば良いのか。
「その方がかわいいし」
エヴァンスさんがぽつりと呟いた言葉は……まぁ、いいか。
やっとベッドから起き上がる元気が出てきた。
テーブルで食べる方が食事も進むし、何より……
「はぁぁぁぁぁ――――……」
お風呂。
久しぶりの湯舟。
最高としか言えない。
やっぱり部屋に作ってもらって良かった。
俺が体を癒したって、しんどさの原因は魔王さんの魔力不足なんだから関係ないはずなんだけど、久しぶりに湯舟に浸かった後は、かなりスッキリしたように思った。
「ここ数日、自分磨きもサボっているからなぁ……魔王さんが帰ってくるまでに、肌も髪もしっかりケアしないと」
目に見えて肌が荒れているわけでも枝毛ができたわけでもないけど……小さな鏡でも解るほど、数日寝込んでいた俺の顔は疲れが見えていた。
いや、これ、疲れと言うか……。
「痩せた? やつれた?」
食欲なかったし筋トレしていないし……。
「まずい。魔王さんが帰ってくるまでに戻さないと」
心配させたくない。
魔王さんの好きな外見でいたい。
「寝込んでいる場合じゃないな! 頑張ろう!」
湯舟を出た後、数日ぶりにトレーニングをして……いつもはきちんと自分をコントロールできるのに、うっかりやりすぎて、翌日はまた、大半をベッドで過ごすことになってしまった。
……こんなミス初めてだ。
俺、魔王さんが好きすぎる。
◆
魔王さんが遠征にでかけて一八日目。
朝食前に医務室担当の魔族さん……エヴァンスさんがすっかり日課になった「経過観察」をしてくれて、手元のノートに何か書き込んで計算した後、嬉しそうに声を弾ませた。
「ライト様! 今日でほとんど薬や導王様の魔力が抜けて、魔王様だけの魔力になりますよ!」
「本当!? 確かに、体の違和感は日に日に減っているけど……違和感があることに慣れちゃっているから、自分ではよく解らないんだよね」
「なるほど……自身で魔法を使う魔族だと、慣れるということは無いのですが、興味深いですね」
俺たちの横で朝食の準備をしてくれていたローズウェルさんも、少しほっとした笑顔になる。
「ということは……魔王様の体調も、そろそろ異動魔法や残りの結解魔法の張替えに耐えられるということですね?」
「そうですねぇ。明日……大事を取って明後日には導王様の城を発たれるのではないでしょうか?」
二人は「よかった」と頷き合うけど……体調がいいのは嬉しいけど……。
「魔王さん、元気になってすぐお仕事しないといけないんだ……」
もっとゆっくり休んで欲しいのに……と、思わず、口が滑ってしまった。
冷静に考えれば、魔王さんの立場があるし、魔王さんだって早く帰って俺に会いたいから頑張るだろうし、って解るのに。
それに……
「……っ、かわいい……」
「うっわ、くぁいい……魔王様大好きすぎかよ……かわいい、うぅ、ヤバイくらいかわいい、やべえ……」
ほら。
俺が魔王さん心配するとすぐこうなっちゃうよね。
「かわいい……でも」
「本当、かわいすぎ……だけど」
ローズウェルさんとエヴァンスさんは一瞬ぎゅっと目をつぶった後、すぐに真面目な顔に戻って俺に頭を下げた。
「申し訳ございません、ライト様。魔王様のお身体を尊重したいのですが……国民の安全上どうしてもかなわず、ご負担をかけてしまいます!」
「私たち城付きの魔法研究員もできる限りのサポートはさせて頂くのですが……黒系統の魔力を持つ魔王様ご自身にして頂かないといけない作業が多くてご負担がかかります。不甲斐ないです。今後、研究を一層頑張ります!」
「あ……ごめん! 大丈夫。俺、魔王さん好きすぎて自分勝手なこと言った。ごめんね?」
真摯に頭を下げる二人に慌てて俺も頭を下げる。
本当、余計なこと言っちゃったな。
俺が専属化したいって時に応援してくれた、俺と魔王さんを愛してくれている国民のみんなのためなのに。
お城のみんなが頑張っているのも、魔王さんを気遣っているのも知っているのに。
俺、もう少し気遣った発言できるはずなのに。
自分に呆れてしまってため息をついていると、二人はなぜかまた優しい笑顔になって項垂れた俺の顔を覗き込んでくれた。
「良いんですよライト様。それがライト様のお役目ですから」
「そうそう。ライト様くらい、誰よりも、誰のことよりも、魔王様のことだけをお考えください」
「あ……」
そっか。そうだよね。
魔王さんに無償の愛を注げるのは俺だけだよね。
「私たちがそういう発言ができない分、ライト様がしてくださると嬉しいんですよ」
「ローズウェルさん……うん。わかった」
そっか……。
俺、魔王さんの専属ペットなんだから、遠慮せずに言えば良いのか。
「その方がかわいいし」
エヴァンスさんがぽつりと呟いた言葉は……まぁ、いいか。
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