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第7章 その後の二人 / 魔力切れと覚悟の話
13日目
しおりを挟む魔王さんが遠征に出かけて一三日目。
疲労感はかなり薄まったけど、その分違和感は強くなった気がする。
ローズウェルさんには「導王様の魔力は昨日より微かに薄まっているように思います」とは言われたし、医務室担当の赤髪の魔族……やっと名前を聞けたエヴァンスさんにも、「薬や他者の魔力が多いので不安定かも知れませんが、魔力量は落ち着いてきましたね」と言われた。
俺が落ち着いているということは、魔王さんが落ち着いているということ。
良かった。
俺だってしんどいのは嫌だしね。
でも……
「そろそろお部屋に戻られますか?」
「あぁ、そうだね」
ずっと医務室のベッドで、医務室担当の魔族さんやリリリさん、ローズウェルさんが付き添ってくれていたけど、落ち着いたなら部屋に戻るべきだと思う。
ただ、本当は……今すっごく寂しいから、一人になりたくないんだけど……我儘だよね?
今日までみんな俺につきっきりで、沢山心配かけて、面倒見てもらったから、そろそろ……。
「リリリさんもローズウェルさんも、医務室のみんなも、いっぱい助けてくれてありがとう。何かお礼考えるね」
「執事の仕事をしただけです」
「私も、メイドの仕事をしただけです!」
ローズウェルさんもリリリさんも何でもない風に言うけど……俺、覚えているよ。
医務室に運ばれて、目が覚めた時の必死な二人の顔。
「だめ。俺の気が済まない」
こういうこと考えるのも楽しいし。
権利料や原稿料で稼いだお金も貯まっているし……。
俺が「何しよっかな~」と浮かれた声で呟くと、ローズウェルさんが真面目な顔からにっこりと笑顔になる。
「……でしたら、先日お願いしたお話、受けてください」
「お願い? なんだっけ?」
リクエストされるのも嬉しいけど……最近、お願いなんてされた?
「ライト様の絵を展示……できれば販売する話です」
「!?」
え?
今、その話持ち出す?
全然ノリ気じゃないけど……でも……あぁ、ローズウェルさんもだけど、リリリさんも「それいい!」って満面の笑顔になって……あぁ、もう!
こんなのだめって言えない。
「……わかった」
悔しい。
ローズウェルさんが有能な執事過ぎて悔しい。
信頼できる。
こんなの……こんなの、執事としては信頼できすぎる。
「でも、飾るならもう少しちゃんと描きたい。描きなおさせて。あと、魔王さんに相談してから」
「承知致しました」
「あと、医務室のみんなにも何か……」
俺たちを少し離れた場所で見守ってくれていたローブ姿の三人の方を向くと、一番お世話になったエヴァンスさんが俺に近づいてきた。
「あの、それでしたら、一つお願いがあります」
「うん。何?」
「今回の導王様による魔力付与は、とても珍しい事例です。後学のためにも、詳細をまとめた資料を作成したいと考えています。そこで、ライト様の経過観察を……落ち着かれないかもしれませんが、一日に五度ほど、させて頂けないでしょうか?」
「もちろん協力するよ! 観察してもらったら魔王さんの今の体調も解るよね? ぜひお願いしたい!」
今後似たようなことが起きてお世話になる可能性だってあるし……って、あれ?
「う、うぅ、あんなに、辛い思いをされたのに……ご自身より魔王様のことを……気遣って……か、かわいい……マジでかわいい。やべぇ……マジすげぇ、やべぇ……」
エヴァンスさんが目元を押さえて上を向く。
なんとなく、医務室の奥の二人を見ると……。
「ほんとに、この三日間も、ご自身が苦しい中、ずっと魔王様の心配をされて、気遣われて、もう、かわいかった……かわいくて、かわいかった……」
「ずっと、心配の方が大きかったけど、落ち着いたら、もう我慢できない……ライト様、かわいいよぅ。かわいい、天使様ぁ……」
うーん。結局これになるのか。
まぁ、ずっと緊張していたみんなが笑顔になったからいいか。
部屋で一人になるのは寂しかったから、定期的に来てくれることになって良かった……という気持ちは、口に出さずに飲み込んでおいた。
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