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第7章 その後の二人 / 魔力切れと覚悟の話
1~3日目
しおりを挟む魔王さんが遠征にでかけた一日目の夜。
今までだって、魔王さんが一日来ないことは何度もあったけど「明日には会えるだろうし」という気持ちがあったから平気だったんだということが解った。
そう。
やばい。もう寂しい。
「魔王さん、ちゃんと休めているかな……俺、まだしんどくないから魔力は大丈夫そうだけど……」
夕食後、俺がため息をついていると、食器を片付けながらローズウェルさんが「微笑ましいなぁ」って思っているのがバレバレの顔で頷いた。
「定時報告ではスムーズに進んでいるようですよ。食事も、前回の遠征の時以上に召し上がっているとか。ご安心ください」
「うん……」
俺が心配したってどうにもならないんだけど……どうにもならないことをウジウジ考え込むのは嫌いなんだけど……寂しい……心配……寂しい……心配。
「寂しい……魔王さん……」
ソファのひじ掛けに凭れながら大きなため息を吐くと、ローズウェルさんの表情がぎゅっと……なんかよく解らないけど力が入った顔になる。
「うっ……かっわいい……そのお顔、魔王様に見せて差し上げたい……! はぁ、今のライト様のお姿を記録しておける装置があればいいのに」
「……」
ペットがご主人様大好きな様子、すごくかわいいんだっけ?
俺、今すごくかわいいのか……。
でも、魔王さんに見せられないと意味がない。
◆
魔王さんが遠征へ出かけて二日目の昼。
「折角二週間会えないなら、その間に思い切りダイエットするか、思い切り筋肉付けるか、思い切りぷにぷにになるかして驚かせるのもいいかも……?」
ちょっと違う俺、面白くない?
日課の筋トレとストレッチをしながらふと思いついたけど……うーん。でもなぁ……「ただいま!」って言いながらウキウキ顔で扉を開けた魔王さんに万が一でも「あれ? いつもと違う……いつもの方がいいな」と思われたら悲しすぎる。
繊細で、気に入ったものをずーーーーっとリピートする人だからなぁ……やっぱりやめておこう。
ただ、魔王さんに見られないからと言ってスキンケアやヘアケアは絶対にさぼらないようにして、二週間後に最高の俺で出迎えられるようには頑張ろう。うん。
◆
魔王さんが遠征に出かけて三日目の夜、寝る前。
シャワーを浴びて、ロングTシャツ風の寝間着に着替えて、もう寝るって段階で……
「まだ三日なのに? 俺、もうコレ使っちゃう?」
ちょっと自分に呆れながら、魔王さんの寝室に向かい、枕をもらっていくことにした。
……あ、やっぱり掛布団も……シーツも……。
「……もうここで寝る方が早いか」
剥がしかけた寝具を全部ベッドに戻してから、魔王さんのベッドにもぐりこむ。
「んー……うん。魔王さんの匂い、まだ残ってる……」
こんな、魔王さんを感じられる秘密兵器、三日目に使ってしまうのは早いかもしれないけど、これ以上経つと匂いが薄くなるかもしれないしなぁ……。
「はぁ……魔王さん……」
別に、毎日一緒に寝ていたわけでもないのに。
昨日と一昨日だって、自分のベッドでしっかり寝たはずなのに。
「んー…………」
この三日間で、一番心地よく、ぐっすり眠ることができた。
でも……
翌朝、魔王さんの匂いはほとんど消えてしまっていた。
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