魔王さんのガチペット

メグル

文字の大きさ
上 下
156 / 409
第6章 二人の話

第155話 愛される(1)

しおりを挟む
 終わってみれば短いけど、式典はこれで終了。
 後は執事さんたちが来賓にお土産を渡したり、国外の来賓と個別面談があったり、国民の皆に広く感謝を伝えるために新聞社のインタビューと精密画の作成があったり、ちょっと事務的な行事が残っているだけ。
 もう充分お祝いしてもらって、感謝を伝えて、俺が魔王さんの物だって証明して、満足なはずなんだけど……ちょっと名残惜しい。
 ……ん?

「あれ? なんか表が騒がしくない?」
「そうだな。何かあったのか?」

 神殿から一度、俺たちの部屋へ戻る途中。
 いつもは静かな中庭なのに、遠くからの喧騒が聞こえる。

「それが……多くの国民が城門前の広場に集まっていて……」

 俺たちに付き添ってくれているローズウェルさんが、少し困ったように口を開く。

「国民が?」
「城壁の外からでも魔王様とライト様にお祝いの声が届けばと、先ほどから祝いの言葉や祝いの歌を大声で繰り返しています。暴動ではないので解散させるかどうか、騎士団が見守りながら検討している所です」

 わざわざ来てくれているんだ?
 魔王さんは、「国民に感謝を伝えたいが、全員に直接顔を合わせて伝えるのは難しい。代表者の式典参加と新聞、ポスターでのメッセージの発信、あとは各役所に記念植樹をするくらいになる」と言っていて、それは仕方が無いと言うか、それで充分だと思ったけど……。
 今日、集まってくれている国民はもちろん全国民ではないけど……。

「ねぇ、魔王さん」
「あぁ、行ってみよう」

 直接会えるなら会いたい!
 魔王さんも同じ気持ちだったみたいで、部屋へ向かいかけていた足を、城門の方へと向ける。
 中庭から、執務室がある棟を抜けて、兵隊さん達の詰め所も抜けて……。
 城壁に近づくにつれて、「魔王様、ライト様、万歳!」「専属化、おめでとうございます!」なんていう声が聞こえてくる。おそらくみんなで合わせて声を上げてくれていて……この声量、何十人? 何百人?
 分厚い木の城門の裏までやってくると、更に声は大きく聞こえる。
 木の門だけでなく石造りの城壁まで揺れそうな大きな声だ。
 こんなにたくさんの国民が、一生懸命祝ってくれているんだ……!

「城壁の上、城門横の詰め所から下を覗けますが……」

 ローズウェルさんが指差したのは、はしごで登った先の、石造りの小屋のような場所。
 窓はついているけど小さいよね。
 折角集まってくれているなら、みんなの顔をもっとよく見たいけど……城門を開けるのは危ないだろうし……。

「ライト、高いところは苦手か?」

 俺が上を向いて悩んでいると、魔王さんが俺の体を抱き寄せる。

「安全なら苦手じゃないよ」
「……俺の腕を信じられるか?」
「うん」
「では……掴まっていてくれ」
「わかった」

 何をするかよく解らないけど、魔王さんが俺を危険にさらすわけがない。
 頷いて魔王さんの首に腕を回すと……魔王さんが少し体を屈めてお姫様抱っこで持ち上げてくれる。

「上に行く」
「あ」

 魔王さんと俺の身体が宙に浮いた。
 魔法? ……って、結構スピード早い!?
 反射的に抱きしめる力を強くして目をつむっていると……体に感じた風や浮遊感はすぐに止んだ。

「着いた」
「あ……」

 怖くはないけどビックリはしているうちに、二〇メートルくらいある城壁の上に着いていた。
 城壁の厚さは一~二メートル。俺も立てないわけではないけど……さすがに足がすくむ。魔王さんのことは信用しているけど、自分の足はこういう場所では信用できない。お姫様抱っこのままにしてもらおう。

「……」

 魔王さんに抱き着いたまま恐る恐る下を覗くと、魔王さんが少し城壁の外側へ進み、ギリギリの場所で立ち止まった。

「おい、あれ! 魔王様だ!」
「魔王様がおいでくださったぞ!」
「ライト様も!」
「わぁ! 本物のライト様だ!」
「かわいい~!」
「魔王様~!」
「ライト様~!」
「おめでとうございます!」
「専属化、おめでとうございます!」

 何人いるんだろう?
 弟に付き合って観に行ったアイドルのアリーナコンサートくらいは集まっている気がする。
 たくさんの声が重なっていて一つ一つがちゃんと聞こえないのが惜しい。
 でも、みんなの表情と……城壁の外を思ったより遠くまで埋め尽くす魔族や人間の数の多さで、みんなの祝福の気持ちは伝わった。
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺

るい
BL
 国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...