魔王さんのガチペット

メグル

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第6章 二人の話

第155話 愛される(1)

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 終わってみれば短いけど、式典はこれで終了。
 後は執事さんたちが来賓にお土産を渡したり、国外の来賓と個別面談があったり、国民の皆に広く感謝を伝えるために新聞社のインタビューと精密画の作成があったり、ちょっと事務的な行事が残っているだけ。
 もう充分お祝いしてもらって、感謝を伝えて、俺が魔王さんの物だって証明して、満足なはずなんだけど……ちょっと名残惜しい。
 ……ん?

「あれ? なんか表が騒がしくない?」
「そうだな。何かあったのか?」

 神殿から一度、俺たちの部屋へ戻る途中。
 いつもは静かな中庭なのに、遠くからの喧騒が聞こえる。

「それが……多くの国民が城門前の広場に集まっていて……」

 俺たちに付き添ってくれているローズウェルさんが、少し困ったように口を開く。

「国民が?」
「城壁の外からでも魔王様とライト様にお祝いの声が届けばと、先ほどから祝いの言葉や祝いの歌を大声で繰り返しています。暴動ではないので解散させるかどうか、騎士団が見守りながら検討している所です」

 わざわざ来てくれているんだ?
 魔王さんは、「国民に感謝を伝えたいが、全員に直接顔を合わせて伝えるのは難しい。代表者の式典参加と新聞、ポスターでのメッセージの発信、あとは各役所に記念植樹をするくらいになる」と言っていて、それは仕方が無いと言うか、それで充分だと思ったけど……。
 今日、集まってくれている国民はもちろん全国民ではないけど……。

「ねぇ、魔王さん」
「あぁ、行ってみよう」

 直接会えるなら会いたい!
 魔王さんも同じ気持ちだったみたいで、部屋へ向かいかけていた足を、城門の方へと向ける。
 中庭から、執務室がある棟を抜けて、兵隊さん達の詰め所も抜けて……。
 城壁に近づくにつれて、「魔王様、ライト様、万歳!」「専属化、おめでとうございます!」なんていう声が聞こえてくる。おそらくみんなで合わせて声を上げてくれていて……この声量、何十人? 何百人?
 分厚い木の城門の裏までやってくると、更に声は大きく聞こえる。
 木の門だけでなく石造りの城壁まで揺れそうな大きな声だ。
 こんなにたくさんの国民が、一生懸命祝ってくれているんだ……!

「城壁の上、城門横の詰め所から下を覗けますが……」

 ローズウェルさんが指差したのは、はしごで登った先の、石造りの小屋のような場所。
 窓はついているけど小さいよね。
 折角集まってくれているなら、みんなの顔をもっとよく見たいけど……城門を開けるのは危ないだろうし……。

「ライト、高いところは苦手か?」

 俺が上を向いて悩んでいると、魔王さんが俺の体を抱き寄せる。

「安全なら苦手じゃないよ」
「……俺の腕を信じられるか?」
「うん」
「では……掴まっていてくれ」
「わかった」

 何をするかよく解らないけど、魔王さんが俺を危険にさらすわけがない。
 頷いて魔王さんの首に腕を回すと……魔王さんが少し体を屈めてお姫様抱っこで持ち上げてくれる。

「上に行く」
「あ」

 魔王さんと俺の身体が宙に浮いた。
 魔法? ……って、結構スピード早い!?
 反射的に抱きしめる力を強くして目をつむっていると……体に感じた風や浮遊感はすぐに止んだ。

「着いた」
「あ……」

 怖くはないけどビックリはしているうちに、二〇メートルくらいある城壁の上に着いていた。
 城壁の厚さは一~二メートル。俺も立てないわけではないけど……さすがに足がすくむ。魔王さんのことは信用しているけど、自分の足はこういう場所では信用できない。お姫様抱っこのままにしてもらおう。

「……」

 魔王さんに抱き着いたまま恐る恐る下を覗くと、魔王さんが少し城壁の外側へ進み、ギリギリの場所で立ち止まった。

「おい、あれ! 魔王様だ!」
「魔王様がおいでくださったぞ!」
「ライト様も!」
「わぁ! 本物のライト様だ!」
「かわいい~!」
「魔王様~!」
「ライト様~!」
「おめでとうございます!」
「専属化、おめでとうございます!」

 何人いるんだろう?
 弟に付き合って観に行ったアイドルのアリーナコンサートくらいは集まっている気がする。
 たくさんの声が重なっていて一つ一つがちゃんと聞こえないのが惜しい。
 でも、みんなの表情と……城壁の外を思ったより遠くまで埋め尽くす魔族や人間の数の多さで、みんなの祝福の気持ちは伝わった。
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