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第6章 二人の話
第139話 提案(3)
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「うん。ギルドマスターさんは人間をペットにしているように見えるけど、親を亡くした人間の子どもの保護をしていて、ゆくゆくはギルドの従業員として自活できるように育てているんだって」
「そうだったのか……どうりでいつも幼い子供ばかりを連れていると……」
「それで、そのペットから従業員になった人間で、希望した人のことは『専属化』するんだって」
「専属……?」
「うん。まだ東の国とかごく少数だけど、他の国では同意のある眷属化を『眷属化』じゃなくて『専属化』って言って、婚姻みたいにペットが一族に加わるって感じの認識のところがあるんだって」
ギルドマスターさん自体が高齢なこともあって、希望者は今までに三人だけだったらしいけど、形に捕らわれず人間と色々な形の関係を築けているギルドマスターさん、さすが色々な国と取引しているだけある。
「ペットが家族の一員なのは……解るが……」
うんうん。元の世界でも、ペットを家族の一員として大切に育てる家も多かった。
この世界でもペットを大事にしているから「家族の一員」なのかもしれない。
でも、この家族って……皆には、家族がいて、更にその一員でしょう?
魔王さんは……
「魔王さんは家族がいないんだよね? 結婚はダメだし、親兄弟は知らされないし……でも、この考え方なら俺、正式に一族……家族になれるよね?」
「俺に……家族……?」
魔王さんは呆然としているようで……瞳が輝いたのを見逃さなかった。
「って話をエンラキさんにしたら、エンラキさんたちの方でも外国での事例は把握していたみたいで、この同意書の周知も兼ねて、名称変更の意見書を魔王さんに近日中に提出する予定だったって」
昔ながらの「眷属化」ではイメージ悪いから「専属化」にして、意識を変えようって。
エンラキさんたち、本当、人間のこと考えてくれているよね。
「この国の人間がもっと幸せになるように、色々な選択肢があるんだよって提示したいって」
「人間の、幸せ……」
「ちょうど良くない? 『専属化』に名称変更して、その第一号に俺がなれば……国民への周知とか意識改革に貢献できると思うんだよね」
魔王さんは「確かに……」と頷きかけてから小さく頭を振る。
「いや、しかし……俺が自分のペットを眷属化したいために法改正をしたと思われかねない」
真面目だなぁ。
まぁ、そこは予想していたけど。
「……って言うと思ったから、これ、明日の新聞。早めにもらってきた」
「え?」
俺が月に二回、日記のようなものを書いている、この国で一番発行数の多い新聞。
いつもは薄いペラペラの冊子だけど、明日は特別に「ライト様によるエルフの国と種族に関する特別レポート増刊号」と題した別冊がつくことになっている。
一週間前にローズウェルさんたちと話してすぐに編集長さんへ手紙で提案して、「普段からライト様の日記は大好評ですし、エルフの国の話は国民全体の関心ごとです! ぜひお願いします!」と二つ返事でOKをもらって急遽決まった増刊だ。
このために忙しい一週間の合間を縫って、ローズウェルさんの協力も受けながら、関係各所に取材の許可も沢山とりながら、必死に書いたたくさんのレポートが掲載されている。
まずは「ライト様によるエルフの森の王退位・即位式レポート」。
この国の人が今まで誰も見たことのない式典や儀式だから、とにかく関心が高いコレを餌……というと聞こえが悪いけど、俺が自分でシンくんに掲載許可をもらってこれを書くことで、俺が本当に載せて欲しい他の記事も載せてもらえることになった。
売り上げにも貢献できそうだしね。
それから……
「エルフの森の王の深い愛と、伴侶の愛ゆえの努力の感動エピソード ~エルフが人間になるとき~」
「ライト様が希望する『同意のある眷属化=専属化』とは? 社会情勢の変化による新しいペットの形を探る」
「国際商工ギルドマスターによるライト様消費の恩恵と各国の眷属化事情『私は責任をもって人間を育て、希望者を専属化しています』」
「眷属化は果たして『悪習』のままで良いのか? 城付きの執事長が語る『魔族が過去を乗り越えるためにも悪習を理性的に使いこなすことが必要だと思います』について徹底討論」
「人間の村の村長によるライト様への感謝『人間はみんな、ライト様の判断を応援しています』」
こんな記事が並ぶ。
シンくんも、ギルドマスターさんも、人間の村の村長さんも、新聞社の人たちも、みんな俺のことを応援してくれていて、お願いした人全員が喜んで協力してくれた。
魔王さん、俺の言葉も真剣に聞いてくれるけど、国民や友好国を巻き込む方が納得してくれると思ったんだよね。
それに、魔王さんだけが俺の「眷属」を認めてくれても、国民のみんなが認めてくれないと、俺も魔王さんも生きづらいと思ったから。
魔王さんのついでに、みんなを説得しようと思ったんだ。
それには、この方法が一番かなって。
まぁ、周囲の人がこれだけポジティブに受け止めて協力してくれる時点で答えは出ていると思うんだけどね。
「……っていう新聞を見て、国民のみんながどう思うか。反応を見ても良いと思うんだけど……どう?」
「……ライト、お前はなんて……」
魔王さんがパンフレットや新聞をじっと眺めた後、それらを机に投げ捨てて……
「わ!?」
俺の体を強く強く抱きしめながら大きな声を上げた。
「なんてかわいいんだ!」
……ここで「かわいい」か……なんか違う気もするけど、魔王さんの嬉しそうな顔も手の力強さも嬉しいから……まぁ、いいか。
「そうだったのか……どうりでいつも幼い子供ばかりを連れていると……」
「それで、そのペットから従業員になった人間で、希望した人のことは『専属化』するんだって」
「専属……?」
「うん。まだ東の国とかごく少数だけど、他の国では同意のある眷属化を『眷属化』じゃなくて『専属化』って言って、婚姻みたいにペットが一族に加わるって感じの認識のところがあるんだって」
ギルドマスターさん自体が高齢なこともあって、希望者は今までに三人だけだったらしいけど、形に捕らわれず人間と色々な形の関係を築けているギルドマスターさん、さすが色々な国と取引しているだけある。
「ペットが家族の一員なのは……解るが……」
うんうん。元の世界でも、ペットを家族の一員として大切に育てる家も多かった。
この世界でもペットを大事にしているから「家族の一員」なのかもしれない。
でも、この家族って……皆には、家族がいて、更にその一員でしょう?
魔王さんは……
「魔王さんは家族がいないんだよね? 結婚はダメだし、親兄弟は知らされないし……でも、この考え方なら俺、正式に一族……家族になれるよね?」
「俺に……家族……?」
魔王さんは呆然としているようで……瞳が輝いたのを見逃さなかった。
「って話をエンラキさんにしたら、エンラキさんたちの方でも外国での事例は把握していたみたいで、この同意書の周知も兼ねて、名称変更の意見書を魔王さんに近日中に提出する予定だったって」
昔ながらの「眷属化」ではイメージ悪いから「専属化」にして、意識を変えようって。
エンラキさんたち、本当、人間のこと考えてくれているよね。
「この国の人間がもっと幸せになるように、色々な選択肢があるんだよって提示したいって」
「人間の、幸せ……」
「ちょうど良くない? 『専属化』に名称変更して、その第一号に俺がなれば……国民への周知とか意識改革に貢献できると思うんだよね」
魔王さんは「確かに……」と頷きかけてから小さく頭を振る。
「いや、しかし……俺が自分のペットを眷属化したいために法改正をしたと思われかねない」
真面目だなぁ。
まぁ、そこは予想していたけど。
「……って言うと思ったから、これ、明日の新聞。早めにもらってきた」
「え?」
俺が月に二回、日記のようなものを書いている、この国で一番発行数の多い新聞。
いつもは薄いペラペラの冊子だけど、明日は特別に「ライト様によるエルフの国と種族に関する特別レポート増刊号」と題した別冊がつくことになっている。
一週間前にローズウェルさんたちと話してすぐに編集長さんへ手紙で提案して、「普段からライト様の日記は大好評ですし、エルフの国の話は国民全体の関心ごとです! ぜひお願いします!」と二つ返事でOKをもらって急遽決まった増刊だ。
このために忙しい一週間の合間を縫って、ローズウェルさんの協力も受けながら、関係各所に取材の許可も沢山とりながら、必死に書いたたくさんのレポートが掲載されている。
まずは「ライト様によるエルフの森の王退位・即位式レポート」。
この国の人が今まで誰も見たことのない式典や儀式だから、とにかく関心が高いコレを餌……というと聞こえが悪いけど、俺が自分でシンくんに掲載許可をもらってこれを書くことで、俺が本当に載せて欲しい他の記事も載せてもらえることになった。
売り上げにも貢献できそうだしね。
それから……
「エルフの森の王の深い愛と、伴侶の愛ゆえの努力の感動エピソード ~エルフが人間になるとき~」
「ライト様が希望する『同意のある眷属化=専属化』とは? 社会情勢の変化による新しいペットの形を探る」
「国際商工ギルドマスターによるライト様消費の恩恵と各国の眷属化事情『私は責任をもって人間を育て、希望者を専属化しています』」
「眷属化は果たして『悪習』のままで良いのか? 城付きの執事長が語る『魔族が過去を乗り越えるためにも悪習を理性的に使いこなすことが必要だと思います』について徹底討論」
「人間の村の村長によるライト様への感謝『人間はみんな、ライト様の判断を応援しています』」
こんな記事が並ぶ。
シンくんも、ギルドマスターさんも、人間の村の村長さんも、新聞社の人たちも、みんな俺のことを応援してくれていて、お願いした人全員が喜んで協力してくれた。
魔王さん、俺の言葉も真剣に聞いてくれるけど、国民や友好国を巻き込む方が納得してくれると思ったんだよね。
それに、魔王さんだけが俺の「眷属」を認めてくれても、国民のみんなが認めてくれないと、俺も魔王さんも生きづらいと思ったから。
魔王さんのついでに、みんなを説得しようと思ったんだ。
それには、この方法が一番かなって。
まぁ、周囲の人がこれだけポジティブに受け止めて協力してくれる時点で答えは出ていると思うんだけどね。
「……っていう新聞を見て、国民のみんながどう思うか。反応を見ても良いと思うんだけど……どう?」
「……ライト、お前はなんて……」
魔王さんがパンフレットや新聞をじっと眺めた後、それらを机に投げ捨てて……
「わ!?」
俺の体を強く強く抱きしめながら大きな声を上げた。
「なんてかわいいんだ!」
……ここで「かわいい」か……なんか違う気もするけど、魔王さんの嬉しそうな顔も手の力強さも嬉しいから……まぁ、いいか。
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