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第6章 二人の話
第122話 退位(1)
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「イルズちゃん!」
「ライトくん!」
魔王さんに許可をもらってから数週間後。
退位式の五日前に、エルフの国にやって来た。
「式典よりも早く来ていただいてすみません」
「大丈夫。式が近づくと忙しいもんね?」
出迎えてくれたイルズちゃんは相変わらず隙のないイケメンで、長い黒髪もきちんと手入れされていて、濃い目の化粧もばっちりだ。
ただ、忙しいのか少しだけ疲れているように見えた。
「そうなんです。ゆっくり話せるのが今の内で……ぜひライトくんには、式典より先に、私たちの話を聞いて欲しかったので。それと、式典の後の大事な儀式にも参加して欲しくて」
「儀式?」
「えぇ。その話も含めて……早速ですが王と面会をお願いします」
イルズちゃんは笑顔だけど少し緊張した様子で俺と、一緒について来てくれたローズウェルさん、珍しく鎧ではない軽装の軍服を着た騎士団長さんを前回の訪問と同じ迎賓館へと案内してくれた。
「ライト様! わざわざありがとう!」
「大事な式典にお招きありがとう。俺、この世界に詳しくないから解らなかったんだけど、なんかすごい重要な式典なんだよね?」
謁見用の部屋ではなく、円卓のあるレストランの個室のような会議室に通されると、森の王様が笑顔で……今回は最初から友達の距離感で迎え入れてくれた。
心配していたけど、見た目は元気そうで相変わらずぞっとするような美形。元々長かった金髪がちょっと伸びたかな?
「外国にとってはな。エルフの国にとってはたまにあるデカい祭りというだけだ。国民も喜んでいる」
「……喜んでいるんだ?」
それって、今の王様が辞めて、新しい王様になるのが嬉しいってこと?
なんかそれって……
「そんな悲しそうな顔をしないでくれ。大丈夫。悪いことじゃないんだ……ライト様を安心させるためにも早く話さないとな」
森の王様が俺を席に促し、ローズウェルさんと騎士団長さんは円卓への着席を丁重に断って俺の後ろに立つ。
その間にお茶とお菓子が運ばれてきて……向かいに座る森の王様は笑顔だし、その隣に座るイルズちゃんは緊張した顔だし、和やかなのかなんなのか、どういう心構えで話を聞くか難しいな。
「さて、国民はもうみんな知っている話だ。隠すことはない」
森の王様がお茶を一口含んでから話し始める。
みんな知っているなら俺の後ろに二人がいても構わないだろうし、俺も気楽に聞いていいのかもしれないな。
カップを引き寄せて俺も口を付けた。
「俺とイルズのなれそめは前回話しただろう?」
「うん。種族の差は問題ないけど、身分の差があって付き合うのが難しかったから、イルズちゃんがめちゃくちゃ勉強を頑張って、官僚になって、武術大会でも優勝して、実力で身分を勝ち取って見事伴侶になったって話だよね?」
「そうだ。身分の差と言うのも前時代的な古い考えだが、王族だけは伴侶も国の政に関わるため、優秀な者でないと許されない。今まで人間でその立場を得たものはいなかった。……エルフが優秀と言うよりは、エルフの方が寿命が長く、勉強や経験を積む時間が多く取れるからと言うだけだが……イルズのライバルたちも皆、二〇〇歳は超えていたからな」
「それを二〇代のイルズちゃんがしちゃうんだからすごいんだよね。愛だなぁ」
穏やかだけど芯の強いイルズちゃんらしいエピソードで、俺は人としてイルズちゃんが大好きになっちゃったんだけど……。
「このエピソードのお陰で、国内では私よりもイルズの方が人気がある」
当然俺だけじゃないみたいだ。
「そうだよね。こんな話聞いたら誰だって好きになっちゃうし、恋を応援したくなる」
「そうなんだ。私たちの恋は……私たちの仲は、全国民が祝福してくれている」
あ、すごい。
森の王様はずっと俺を観ながら話していたのに、不意にイルズちゃんへ視線を向ける瞬間、イルズちゃんも森の王様へ視線を向ける。ばっちり視線の合った二人は、数秒見つめあってから再び俺の方を向いた。
「だから、今回の退位も祝福されている」
ん?
「えっと、どういうこと?」
二人の仲が良いのと、退位、関係あるの?
「……」
「……」
俺の言葉にまた二人が見つめあい……今度は少し長く見つめあった後、お互いに頷き合ってから俺の方へ向き直った。
「私は、人間になることにしたんだ」
「……にんげん……に?」
「ライトくん!」
魔王さんに許可をもらってから数週間後。
退位式の五日前に、エルフの国にやって来た。
「式典よりも早く来ていただいてすみません」
「大丈夫。式が近づくと忙しいもんね?」
出迎えてくれたイルズちゃんは相変わらず隙のないイケメンで、長い黒髪もきちんと手入れされていて、濃い目の化粧もばっちりだ。
ただ、忙しいのか少しだけ疲れているように見えた。
「そうなんです。ゆっくり話せるのが今の内で……ぜひライトくんには、式典より先に、私たちの話を聞いて欲しかったので。それと、式典の後の大事な儀式にも参加して欲しくて」
「儀式?」
「えぇ。その話も含めて……早速ですが王と面会をお願いします」
イルズちゃんは笑顔だけど少し緊張した様子で俺と、一緒について来てくれたローズウェルさん、珍しく鎧ではない軽装の軍服を着た騎士団長さんを前回の訪問と同じ迎賓館へと案内してくれた。
「ライト様! わざわざありがとう!」
「大事な式典にお招きありがとう。俺、この世界に詳しくないから解らなかったんだけど、なんかすごい重要な式典なんだよね?」
謁見用の部屋ではなく、円卓のあるレストランの個室のような会議室に通されると、森の王様が笑顔で……今回は最初から友達の距離感で迎え入れてくれた。
心配していたけど、見た目は元気そうで相変わらずぞっとするような美形。元々長かった金髪がちょっと伸びたかな?
「外国にとってはな。エルフの国にとってはたまにあるデカい祭りというだけだ。国民も喜んでいる」
「……喜んでいるんだ?」
それって、今の王様が辞めて、新しい王様になるのが嬉しいってこと?
なんかそれって……
「そんな悲しそうな顔をしないでくれ。大丈夫。悪いことじゃないんだ……ライト様を安心させるためにも早く話さないとな」
森の王様が俺を席に促し、ローズウェルさんと騎士団長さんは円卓への着席を丁重に断って俺の後ろに立つ。
その間にお茶とお菓子が運ばれてきて……向かいに座る森の王様は笑顔だし、その隣に座るイルズちゃんは緊張した顔だし、和やかなのかなんなのか、どういう心構えで話を聞くか難しいな。
「さて、国民はもうみんな知っている話だ。隠すことはない」
森の王様がお茶を一口含んでから話し始める。
みんな知っているなら俺の後ろに二人がいても構わないだろうし、俺も気楽に聞いていいのかもしれないな。
カップを引き寄せて俺も口を付けた。
「俺とイルズのなれそめは前回話しただろう?」
「うん。種族の差は問題ないけど、身分の差があって付き合うのが難しかったから、イルズちゃんがめちゃくちゃ勉強を頑張って、官僚になって、武術大会でも優勝して、実力で身分を勝ち取って見事伴侶になったって話だよね?」
「そうだ。身分の差と言うのも前時代的な古い考えだが、王族だけは伴侶も国の政に関わるため、優秀な者でないと許されない。今まで人間でその立場を得たものはいなかった。……エルフが優秀と言うよりは、エルフの方が寿命が長く、勉強や経験を積む時間が多く取れるからと言うだけだが……イルズのライバルたちも皆、二〇〇歳は超えていたからな」
「それを二〇代のイルズちゃんがしちゃうんだからすごいんだよね。愛だなぁ」
穏やかだけど芯の強いイルズちゃんらしいエピソードで、俺は人としてイルズちゃんが大好きになっちゃったんだけど……。
「このエピソードのお陰で、国内では私よりもイルズの方が人気がある」
当然俺だけじゃないみたいだ。
「そうだよね。こんな話聞いたら誰だって好きになっちゃうし、恋を応援したくなる」
「そうなんだ。私たちの恋は……私たちの仲は、全国民が祝福してくれている」
あ、すごい。
森の王様はずっと俺を観ながら話していたのに、不意にイルズちゃんへ視線を向ける瞬間、イルズちゃんも森の王様へ視線を向ける。ばっちり視線の合った二人は、数秒見つめあってから再び俺の方を向いた。
「だから、今回の退位も祝福されている」
ん?
「えっと、どういうこと?」
二人の仲が良いのと、退位、関係あるの?
「……」
「……」
俺の言葉にまた二人が見つめあい……今度は少し長く見つめあった後、お互いに頷き合ってから俺の方へ向き直った。
「私は、人間になることにしたんだ」
「……にんげん……に?」
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