魔王さんのガチペット

メグル

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第5章 旅の話

第114話 お土産の後日談(1)

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 お城に戻ってきて一週間ほどたった日の朝食の席だった。

「ライト様がくださったお菓子が大変美味しく、また食べたいと思って作ってみました」

 いつもの朝食と共に、料理長さんがお弁当箱くらいの大きさの木箱をテーブルに置いた。

「え! ラッキーターン? 作れたの!?」

 だったら嬉しい! 俺の大好きなお菓子がこれからいつでも食べられるってことだよね!?

「……似せようとしたのですが……」
「あ……」

 料理長さんの苦々しい表情で結果は悟った。

「まず、米という素材が手に入らなかったので、小麦の生地で……」
「そっか……」
「原材料を教えて頂いても、この世界の概念では理解できないものも多かったので、用意できた砂糖やでんぷん、植物油以外は、料理人のカンでコンソメや乳製品などをくわえてみたのですが……」
「うん……?」

 料理長さんが、木箱のふたを開ける。
 あ、匂いはちょっと近いような……?
 でも、形が全然違う。

「香ばしさと軽さを出しながら同じ形にすると、硬すぎて食べられたものではなく……細く、長くしました」

 確かに細長い。
 見た目はあれだ。プレッツェル系。

「よろしければ、お味見を」
「じゃあ、頂きまーす……うん、おいしい」

 ポキっと良い音をさせて折れる生地の食感がいいし、香ばしくて……生地にも味が練り込んである? 周りの粉と合わせて結構濃い目の味。味も、塩のコクを感じるし砂糖も感じるし、甘じょっぱい。
 おいしい。何本でもいける。
 でも……

「ラッキーターンとは別物かな。おいしいけど」
「そうですよね……いえ、もう途中から『甘じょっぱい』という新しい味の方向以外は似せるのは諦めていました。異世界のお菓子、難しいですね」

 料理長さんが苦笑いを浮かべながらため息をつく。
 確かに目の前のお菓子はラッキーターンと似ても似つかない。
 細めの真っすぐプレッツェルに甘じょっぱい粉をまぶしたもので……甘じょっぱいといっても若干甘味の方が強い。
 でも、ポキポキ食感でこの焼き目の感じ……既視感はある。
 これ、あれだ……ラッキーターンじゃなくて、あっち……。

「うーん、でも……これに似たお菓子、俺のいた世界にあったよ」
「え!? 本当ですか!?」
「うん。『ボリッツ』って名前で、もう少し細くて味は……バターが効いていたかな?」

 もっと塩味に寄せた……なんだっけ? サラダ? トマト? 味もあったけど、俺は甘い味の方が好きだった。

「バター……なるほど!」

 施設でたまーにおやつとして出てきた覚えがある。
 あまり折れていないのを小さい子に譲って、俺は袋の底の折れたやつを食べていたな。
 大人になってから食べていなかったけど、これ、かなり近い気がする。
 そして、ボリッツといえば……。

「このボリッツに持ち手部分だけ残してチョコレートをかけたものが『ボリッキー』っていって……そっちの方が人気のお菓子だったかも」
「チョコレート……!」

 俺はボリッツの方が好きだったけど、施設の子どもの間ではボリッキーの方が人気だったし、パトロンのお姉さんでいつも冷蔵庫に入れている人もいたな。冷やした方が美味しいって。
 あぁでも、そうだ。

「チョコレートの方の生地はこんなに濃い味じゃなくて良いと思うけどね。俺はチョコにアーモンドとかの塩気の効いたナッツをまぶしたのが好きだったな」
「ナッツも、甘じょっぱく……!」

 ホスト時代、店のメニューでなぜかアーモンド付きの方があったんだけど、頼む人が少なくて余ることが多かったから、待機場所のおやつになっていたんだよね。
 仕事終わりに酒の抜けきっていない体で同僚とだらだらしゃべりながら食べるアーモンドボリッキー。妙に美味しく感じたな……アフターが多いからごくたまにだったけど。

 それにしても、俺が言うこと全てに感嘆の声が上がって料理長さんがメモをとっているけど……別にこの世界のお菓子もクオリティ高いのにね?

「ライト様、貴重な情報をありがとうございます。そこで相談なのですが……このお菓子を一般販売してもよろしいでしょうか?」
「え? 販売?」
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