魔王さんのガチペット

メグル

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第5章 旅の話

第111話 お土産(5)

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 魔王さんの不思議そうな視線を浴びつつ、もう中身が少なくなった黒いペラペラの袋の中から冊子を取り出す。

「アルバム」
「アルバム?」
「俺が小さい時からの写真を集めた物」
「写真……?」

 そうだよね。この世界「写真」ないよね。

「目の前の光景をそのまま切り抜いたような精密な絵……だと思って」
「なるほど。幼いころのライトの様子を記録した絵か!」

 中身を理解すると、魔王さんは一瞬で嬉しそうに表情を緩めた。
 やっぱりこれが一番嬉しそう。
 自分のためでもあるけど、持ってきてよかったな。

「まずは……」

 紙製の簡単なアルバムで、上下に二枚、見開きで四枚の写真が入れられるビニールのポケットがついているタイプだ。
 一応、時系列に入れているから、表紙を捲ってすぐには……

「これは、俺が四歳の時。弟のナイトが生まれてすぐに病院で撮ったツーショット。その下は退院してすぐに自宅のリビングで一緒に昼寝している写真」

 ベビーベッドで眠るナイトと、ベッドの向こう側からカメラを見る四歳の俺。
 これが一番古い俺の写真。
 両親は俺の写真を撮ってくれなかったから……ナイトが生まれてくれたお陰で、四歳からの写真がほんの少しだけ残っているし、捨てられた時に弟二人のアルバムが、ナイトの鞄に入っていたお陰で、手元にこれがある。

「……?」

 俺にとってはほろ苦い思い出でもあるけど、普通に「兄弟の思い出写真」に見えるはずなんだけど……魔王さんは首をひねりながら黙り込んでしまう。

「魔王さん?」
「あ……その、言いたいことが沢山ある。まず、絵が精密すぎる。ベッドや……この後ろの家具がどれもこの世界と違っていて不思議だ。そして何より……」

 魔王さんはアルバムの写真をじっと眺めたまま、めちゃくちゃ真剣に一言呟いた。

「ライトが天使のようにかわいい」
「だよね!」

 自分でも、この頃の俺はかわいいと思う。
 親に放置されて育ったのに、誘拐とか悪戯とかされなかったのが奇跡ってくらいかわいい。
 ただ、この頃の俺は黒髪だから……魔王さん嫌かなと思ったんだけど、実物じゃないから? 過去だから? 気にしていないようでほっとした。
 
「次のページは……こっちは下の弟が生まれた時の写真。六歳かな」
「か、かっわいい!」

 ピントは弟に向いていて、俺の顔はぼやけているけど、魔王さんは顔をほころばせながら愛おしそうに眺めてくれた。

「これは小学校の劇で王子様役をした時」
「役か……本当の王子かと思った! 気品がある!」

 親は写真を撮ってくれなかったけど、友だちのお母さんが撮ってくれたんだよね。この頃からは友だちの保護者や友だちが撮ってくれたお陰で残っている写真が増える。

「中学の入学式かな? この学ランって服、魔王さんの仕事着に似てない?」
「あぁ、丈が長いし装飾も少ないが、形が似ているな……それよりも、か、かわいい……幼い頃とは違った、精悍な美しさにこの頃から磨きがかかってくるな!」
「これは上の弟の小学校の卒業日だったかな? 一緒に写っているのは、俺がお世話になっていた施設の先生たち。後ろの大きめの家みたいな建物が、俺が住んでいた児童養護施設」
「そうか、ここでライトが……優しそうな人たちだ。ライトや弟が愛されて育っているのがわかる」

 実際、すごく愛されて育ったと思う。
 施設には当たりはずれがあると思うけど、俺たちの施設は自治体のサポートも手厚く、近隣住民からの寄付なんかもあって、そのお陰か先生たちも余裕があって俺たちにしっかり向き合ってくれた。
 感謝している。
 今回帰った時にも、差し入れを持って行ったら「ちゃんと食べているの? かっこいいけど細すぎない?」なんて親みたいなことを言ってくれて……すごく嬉しかった。
 自治体の決まりで高校卒業までしかいられなかったけど、施設を出る時もまるで息子が一人暮らしを始めるみたいな雰囲気で送り出してくれた。

 だから、弟たちも先生も施設も写っているこの写真は、俺にとっては大事な家族写真みたいなものだ。
 この写真を眺めていると、魔王さんの腕の中にいるのとはまた違った安心感がある。
 ……こっちの世界に持ってこれて良かったな。

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