魔王さんのガチペット

回路メグル

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第5章 旅の話

第102話 兄弟(5)

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「ところでナイト、仕事なにしてるの? 社会人二年でこんな大金……」

 新卒の年収って、せいぜい三〇〇万円くらいじゃないの?
 税金とか健康保険料が引かれるし……光熱費とかも払っているし……それで二年ちょっとで五〇〇万円貯まる?
 いくらナイトが国内トップクラスの有名私立大学出身だって言っても……。
 あ、ナイトのことだからモデルとかアイドルとか? ネットの配信とかかも? オシャレ大好きだし、見た目もちょっと派手になっているし……ありそう。
 
「あぁ……えっと、はい」

 ナイトがまた自室に戻って何かを取ってきて……デビューCDとか表紙を飾った雑誌なんかを渡されるのかと思ったら……あれ?

「名刺? ……え?」

 一般的な名刺サイズの紙を渡されたけど、これ……見覚えがある。

「え、うそ……これ……しかも……」

 名刺と言っても白地に黒い文字の堅い名刺じゃない。
 黒地に金色の文字、無駄に凝った飾り枠、会社名じゃなくて店の名前、肩書は「幹部補佐」で……名前の部分は本名である「大長谷ナイト」じゃない。

「セナって源氏名で兄ちゃんの勤めていたホストクラブでホストしてる」
「幹部補佐ってことは……」
「少し前から、売上で一位とってる」

 つまりナンバーワンだ。

「普通に昼職も考えたんだけど……兄ちゃんのパトロンから話を聞いたり、連絡してきてくれたホストクラブのオーナーさんから話を聞いたりしているうちに、俺の天職ホストなんじゃないかなと思って」
「……まぁ……ナイトはどう考えても向いているけど」

 解りやすいアイドル系のキラキラ顔、努力家で真面目で、何でもコツコツ頑張れる性格、人当たりが良くて物おじしない所……。

「でしょ? 多分だけど、兄ちゃんより楽しくホストしてると思うよ」

 しかも、ナイトは良い意味で俺よりドライというか、現実主義者だから、お客様との関係も割り切れそう。

「今年の誕生月、兄ちゃんの記録抜いたしね」
「マジで? 俺の記録って色々なラッキーも重なって誰も塗り替えられない売り上げ額だと思っていたのに……」
「俺もラッキーだったんだけど……体鍛え始めてから評判いいんだよね。頑張った甲斐があったかな」
「ナイトは、イケメンで自頭も良いのにきちんと努力するところが良いんだろうなぁ……流石俺の弟!」

 俺より弟のほうが上手くできるなんて悔しいような、頼もしいような……うん。やっぱり嬉しいな。

「兄ちゃんの弟ってことは内緒にしてるからね?」
「あぁ、だから名前も? ナイトの方がホストっぽいのに」
「ホストらし過ぎてもうナイトがいたんだよ。っていうか、兄ちゃんが伝説みたいになっているせいであやかった名前が多すぎてさ……レイト、ケイト、ライム、ブライト……光とレフトもそうか」
「懐かしいなぁ。みんな元気?」
「残ってるのは半分くらいかな。店も兄ちゃんの頃と結構変わってると思うよ。最近はスーツもあんまり着ないし、店内も明るめだし」
「へぇ、久しぶりに覗いてみたいな。ナイト指名するから行っていい?」
「絶対だめ。出禁」

 わりと本気で言ったのに、ナイトに却下されてしまう。
 恥ずかしい気持ちは解らなくはないけど。

「なんで? お兄ちゃんに見せられないような接客してるの?」
「……俺の大事なお客さんが兄ちゃんのファンになったら困るからだよ」

 ナイトは少し照れたように言うけど……そうか。
 とっさにそんなかわいい言い回しができるようになったか。

 ホスト、頑張っているんだ?

「ふふっ、そっか。じゃあやめておく。……そうだ、カイトは? もう社会人だよね?」

 平日の午前中にいないってことはサラリーマン? なんていうのは安直かもしれないけど……?

「あぁ、カイトは……自分の口から言いたいと思うから、帰ってくるまで待ってやって。ちゃんとサラリーマンで、今日も出勤だよ」

 やっぱりサラリーマンか。
 そうか……
 あの小さかったカイトが、もうサラリーマン!
 感慨深いなぁ。しかもナイトの口ぶりから言って、良いところに勤めていそう。

「就職できたんだ? バイトも続かないから心配していたけど……」
「カイトはちょっと不器用だけど素直でかわいいからハマれば上手くできるみたいだよ。それより、兄ちゃんの部屋そのままにしているから確認して。パトロンから預かった荷物も置いてる」
「あぁそうだね。さっき言っていた諸々の契約もナイトの自由にできるようにしないといけないし」
「俺も役所とか店とか一緒に行くから、さっさと終わらせよう? 兄ちゃん、折角の久しぶりの日本なんだから色々行きたいところやしたいことあるでしょ?」
「そうだね」

 体格が良くなって、ホストでナンバーワンもとって……本当に逞しくなっているなぁ。
 もう、俺がかわいがってあげないといけない小さな弟じゃないんだ。
 それが少し寂しいけど……とても嬉しかった。

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