魔王さんのガチペット

メグル

文字の大きさ
上 下
99 / 409
第5章 旅の話

第98話 兄弟(1)

しおりを挟む
「じゃあ行ってくるね、魔王さん」

 元の世界に帰れると聞いた一週間後。
 ファイさんも交えて細かいルールや注意事項を教えてもらって、持ち物の準備、元の世界でやりたいこと、やるべきことのリストアップも済ませて……俺は今、お城の地下にある魔法陣の上に立っている。
 エルフの国に行った時に使ったものと同じ場所に書かれているけど、同じ魔法陣かは解らない。

「あぁ。もし、少しでもおかしいところがあればすぐに魔法石を割るんだぞ?」
「わかった」

 無難な黒いズボンに白いスタンドカラーのシャツ姿の俺の首には、緑っぽい石のついたネックレスがかかっている。この石を割れば強制的にここに戻ってくるらしい。

「ライト様、準備ができました。石を握って、行先を思い描いてください」

 魔法陣の外で魔導書を広げていたファイさんがキャンドルを床に起きながら声をかけてくれる。
 足元がぼんやりと光始めて……足は地面についているはずなのに浮遊感がある。
 そうそう、エルフの国に行くときもこうだった。
 違うのは、行先を自分で強くイメージしないといけないという所だ。
 地球のどこに行くか……自分と繋がりの深い場所や人のイメージが必要ってことだから……。

「弟の……あ、見えたかも」

 記憶の中の弟じゃない、これはおそらく今の弟……。

「いってらっしゃいませ、ライト様」
「気を付けて」

 ファイさんと魔王さんの声が聞こえたと思うと、浮遊感が強くなって……一瞬、意識が途切れた。


      ◆


 頭の中に今の弟……上の弟のナイトが寝ている姿が浮かんだあと、一瞬のブラックアウトを挟んで、俺はもう頭に浮かんだ場所に立っていた。

「……」

 壁にかかっている時計を見ると、たぶん午前九時だけど、カーテンがかかって薄暗い部屋。
 現代のマンションの一室っぽい普通の部屋だけど……ここ……俺が買ったマンションのナイトの部屋か。
 ナイトに「部屋は狭くていいからウォークインクローゼットを譲って欲しい」と言われたから、3LDKの中で一番狭い四畳半の部屋で、半分はベッドで埋まり、本棚、シンプルな机もあって相変わらずギチギチな部屋だ。

「すー……すー……」

 そのベッドで、俺と少しだけ似ているイケメンが熟睡している。
 ……よかった。一人だな。
 彼女とか連れ込んでいるところだと気まずいなと思ったけど、大丈夫そうだ。

「……」

 薄暗くてはっきりは見えないけど、元気そう。
 髪色明るくなった? アッシュブラウン似合っているな。
 あ、ピアス増えてる。右は三個……反対も?
 この髪色とピアスの数で、平日のこの時間に寝ているって、就活どうなったんだろう?
 気になることはたくさんあって……もう我慢できなかった。

「ナイト、起きて」
「ん……?」

 気持ちよさそうに寝ているところごめんね?
 お兄ちゃん、一週間しか時間が無いから。

「……ん? え?」

 身体を軽く叩いて声をかけると、半覚醒のナイトは戸惑いながら枕元のリモコンに手を伸ばす。
 あ、部屋が明るくなった。

「……え?」
「おはよう。久しぶり」
「あ……え? 兄ちゃん……!?」
「そう。ライトお兄ちゃん」
「……あ……っ……あ……あー……くっそ……言いたいことがありすぎて、何から言えばいいかわからない」

 ナイトは笑顔の俺を、驚きと怒りと安堵となんかよくわからない複雑な感情が混ざった微妙な顔で見つめていた。

「ごめんね。ナイトに時間があるならゆっくり話そう」
「……解った」
「ついでに、ナイトが作るみそ汁とだし巻き卵が食べたい」
「…………解った」

 ナイトは微妙な顔のまま頷いてくれた。
 相変わらず優しい弟だ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

処理中です...