魔王さんのガチペット

第５章 旅の話

第８６話 エルフの森（２）

「よく来てくれた、ライト様、それに魔王も」

　迎賓館と言ったけど、中は……神殿？ 石造りで天井が馬鹿高くて、小さなピラミッドみたいな石段の上の王座にエルフの森の王様が座っている。屋内なのに両脇に川が流れていたり、木が生えていたり、行ったことも正式に見たことも無いんだけど、エジプトにこんなのなかったっけ？ それをもう少しファンタジーに……ほら、古代の遺跡を発掘する映画でこういうの見た気がする。いいな。異世界っぽい。
　……住みにくそうだけど。

「お招きありがとう。素敵なところでビックリした！」
「俺まで招いてもらえるとは光栄だ」

　森の王様は俺たちの返事に満足そうに笑って立ち上がると、長いローブとドレスの中間みたいな白服の裾を引きずりながら階段を降りてくる。裾を踏まないか心配してしまうな……。

「楽しんでいただけてなによりだ。まぁ、魔王よりもライト様に来て欲しくて呼んだのだが……折角だ、人間好き同士、人間談義と国の話をしようじゃないか」
「あぁ！ 聞いて欲しいライトの話が沢山あるんだ！」
「……魔王様、自由貿易路と技術協力の話もどうか忘れずに……」

　後ろでファイさんが心配そうに呟いている。
　予定ではこの後、魔王さんと森の王様は会談。俺とイルズちゃんは観光。
　俺は良く知らないけど、エルフの国に魔王が入るのは初めてらしいから国同士のことが色々あるというか、期待されているみたいだ。
　そういう難しいことって俺は協力できないけど、できるとすれば……。

「ファイさん、大丈夫。魔王さんは国民のことを一番に考える立派な王様だから。ちゃんとお仕事のお話も頑張ってくれるよ」
「あ、そ、そうですねライト様！」
「うん。お仕事中の魔王さん、いつも真剣ですごくかっこいいし……」

　わざとらしく煽ってはいるけど、本音だからね？
　お城の中を自由に移動できるようになってから、ごくたまにだけど執務室をのぞかせてもらって……いつもかっこいいなぁって思っているから。

「あ……あぁ、もちろん。国の長同士の話もしよう」
「がんばってね。俺もイルズちゃんにこの国の良いところを沢山教えてもらって、吸収してくるから」
「わかった」

　俺と魔王さんの会話を、イルズちゃんはにこにこと、森の王様は手で顔を覆って肩を震わせながら笑いをこらえているというか、笑っちゃってるな。
　パーティーではもっとクールな印象だったけど、仲良くなれそう。

「それでは、エルフの国をご案内しましょう」
「よろしくね」

　魔王さんと、まだ笑っている森の王様にも手を振って、迎賓館を後にした。