魔王さんのガチペット

メグル

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第5章 旅の話

第85話 エルフの森(1)

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 魔王さんの城にやってきて一年と八カ月くらいがたった。
 その間、お城の敷地から出たのは魔王さんが人間の村の視察に行くのについて行った一回だけ。
 折角異世界に来たんだし、元の世界と違うところを見てみたいという気持ちはあったけど……魔王さんが仕事ばかりで外出しないから仕方がない。
 魔王さんが気を使って「城下町くらいなら行ってきていいんだぞ」とは言ってくれたけど、魔王さんが行かないのに俺だけ行っても……ねぇ?

 正直、俺よりも魔王さんの方がお城に飼われているペットみたい……なんて思うのは失礼か。
 俺と違って仕事を沢山しているし。

 とにかく、俺と魔王さんはずっとお城の中にいたんだけど……。


      ◆


 今、俺の目の前にあるのは、日本では絶対にありえない数十メートル級の木が沢山生えている鬱蒼とした森。
 その森の中には古代の遺跡っぽい建物や、何層にもなったツリーハウス、なんとかヒルズくらいの大きさの木をそのままビルにしたような建物が並ぶ村? 街? 集落? とにかくこれ、こういうの……

「うわー……オープンワールドRPGで観たやつ……!」
 
 第一印象はこれ。
 しかも、そこにいる人の大半は耳が長くて男女ともに髪が長くてゾっとするくらいの美形で、ローブや軽装の鎧姿の……いわゆる「エルフ」という種族だ。
 これこれ!
 こういうの!
 異世界来たって感じがする!
 そして俺の横には魔王さん。後ろにはローズウェルさんとファイさんと護衛の騎士が数人。
 あと……数ヶ月前のパーティーでエルフの王様と一緒に参加していた黒髪クールビューティーの人間の男の子、イルズちゃん。

「ライト様、この街はエルフが使う精霊魔法で作られた、自然と融合した街です。人間の村とも、魔族の国とも違う造りの建物が多く、初めて観る人間にとってはとても新鮮だと思います。後程いろいろな建造物にご案内しますね」
「いいの? 楽しみ! あぁいうツリーハウスはまだ想像つくけど、あっちの木と岩がごちゃ混ぜになっている建物とか絶対に魔法だよね? 気になる!」
「さすがライト様、お目が高い。あちらの建物は森の王が即位の際に作られた新しい館で、今から皆さまをお連れする迎賓館としても使われています」
「そうなんだ? 早速一番気になる建物に入れるなんて嬉しい」
「ふふっ。喜んで頂けて我々も嬉しく思います。さぁ、森の王がお待ちです。行きましょう」

 イルズちゃんに促されて、迎賓館と言われた、木と岩が混ざった古代の神殿のような場所へと歩き出す。
 そう。
 今日はエルフの森の王様がくれた通行手形を使って、エルフの森に遊びに来たんだ。
 魔王さんの仕事がなかなか落ち着かなくて、招待されてから数ヶ月が経ってしまったけど……遊びに行きたいと連絡を取ると、快く受け入れてくれて、今日と明日の一泊二日の旅行が実現した。

 ちなみに、ここに来るまで船とか異世界っぽい乗り物とか使うのかなと思ったんだけど、あの通行手形が魔法陣の位置パーツらしく、お城の魔法陣にアレをおいたら一瞬でこの森の入り口に着いてしまった。
 便利だし異世界っぽいけど、行き帰りでこの世界の景色を色々見られるんじゃないかなと期待していたから少し残念。

「ライト様、つけまつげ、とてもお上手にお使いですね」
「そうそう、コレありがとう。エルフの国のつけまつげ、使いやすいしリアルな毛束ですごくいいね! でも、やっぱりイルズちゃんみたいにはならないから、赤いアイシャドウも入れて色っぽくしてみたんだけど……派手過ぎ?」

 普段はノーメイクだけど、今日は折角のお誘いなので薄いベースメイクと目元を強調するメイクをしている。
 元の世界でも、ホスト時代のイベントの時なんかにしていた、漫画のキャラや昔の遊女なんかを参考にした色っぽいメイクなんだけど……服装もローズウェルさんに「他国への訪問なので式典服で」と言われて、パーティーの時みたいな光沢のある白地に金糸で沢山装飾がされている王子様みたいなジャケットとベストだから……。
 派手だよね。
 服と顔が派手だから、髪型はシンプルに降ろしたけど……全体的に王子様系アイドルのコンサートっぽくなってしまった。

「ライト様のような華やかなお顔だと赤が映えますので、素敵です。それに、エルフは元々の顔が華やかで……それに並ぼうと思うと、人間はどうしても化粧が派手になります。この国の人間は、もっと派手な化粧の者も多いですよ」

 言われてみれば、道ですれ違う人間は男女ともに華やかな顔立ちが多くて……よく見れば化粧か。

「そうなんだ? 俺、化粧には詳しくないからいっぱい教えてもらったり買い物したりしたいな」
「では後ほど、私の行きつけの店にお連れしましょう。腕のいい化粧師がいるんですよ」
「やった! 魔王さん、俺がもっとかわいくなっちゃうと思うから期待していてね」

 俺とイルズちゃんの会話をにこにことほほ笑みながら見てくれていた魔王さんは、笑顔のまま頷いた。

「ははっ、楽しみだな」

 つけまつげをもらってから何度か魔王さんの前で使ってみているけど、魔王さんはそのたびに「化粧一つでライトの色々な顔が見られるんだな! 感動した! ……なにもしない顔が一番かわいいとは思うが……これはこれで、ドキッとする」なんて言ってくれるし。
 俺と魔王さんこれから何十年も一緒にいる予定だから、顔に飽きられないように時々メイクするのも良いよね?

「あ、イルズちゃんのアイシャドウも濃い青でかっこい……あれ? キラキラしてる?」
「はい。これは鉱石を砕いて作ったものです。……正直に言ってしまうと、とても高価で式典など特別な日以外には使用しないのですが……」

 イルズちゃんは少し照れた顔でほほ笑んだ。

「ライト様にはぜひ一番美しい姿を見せなさいと王に言って頂いたので」
「良い人だね、森の王様」
「えぇ。最高のパートナーです」

 パートナー?
 ふーん。

「あぁ、やっぱり」
「え?」
「ん。なんでもない」

 笑顔で返事をすれば、イルズちゃんも笑顔でまた楽しくおしゃべりをしながら迎賓館へと案内してくれた。

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