魔王さんのガチペット

回路メグル

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第4章 日常と過去とこれからの話

第71話 献上品(2)

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「お菓子だ。イチゴ味のパウンドケーキかな? クッキーとかも色々……ジャムもある! 全部美味しそう!」
「そちらは国際商工ギルドのギルドマスターからですね」

 ギルドのマスターって言われてもどの人だったか……。

「お連れのペット様がイチゴのタルトを気に入っていた方ですよ」

 ローズウェルさんが執事らしくフォローしてくれる。さすが。

「あぁ、あの人! でも何で俺に? ……あ、手紙だ。えっと……へぇ……城下町で買ったケーキが気に入ったから、良いお菓子を知るきっかけになった俺にお礼だって」
「あ! こちらのお菓子の包み紙、東の国の高級店のものです! 関税がかかって高いからあまり買えないけど、すっごく美味しいんですよ!」
「そうなんだ? 魔王さんの分は置いておかないとだけど、後でみんなでちょっと食べちゃおう?」
「いいんですか!?」
「パーティーの日、二人にも色々協力してもらったし……あ、手紙もう一枚あった。えっと……この国のお菓子協会にぜひ国際商工ギルドに入って欲しいから連絡してね……とか書いてる。これどうしたらいい?」
「え?」
「えぇ!?」

 キラキラした目で箱を覗き込んでいたリリリさんとローズウェルさんが、また驚いた顔になる。
 俺はこの世界の国際情勢とか全然解らないんだけど……?

「す、すごいことですよ! 国際商工ギルドに入るってことは、外国でも自由に商売ができるので……!」
「選ばれた名品しか入れないのに……! 急いで菓子協会の会長を呼んで……契約と取引の準備と……」
「ごめん、俺のせいで仕事増えちゃった?」
「いいえ! 外貨獲得の大チャンスです! ライト様、お手柄ですよ!」
「そう? 俺は仲良くおしゃべりしただけなんだけど……役に立てたなら嬉しいよ」

 偶然ではあるけど……あのパーティー会場で一番上等な服を着ていたから、お金のある人だろうなと思って距離を詰めておいた自覚はある。ホスト時代の勘とクセ、使えるな。
 ホストやっててよかった。

「次はこれ開けようかな」
「ライト様!」

 隣にあった小さめの箱に手を伸ばすと、急にローズウェルさんが俺の手を遮った。

「これは導王様からです。他の物と同じく検査はしているので危険物では無いと思いますが……念のため私が開けましょうか?」
「気を使ってくれてありがとう、ローズウェルさん。でも、検査しているなら大丈夫だと思うよ」

 俺のことを心配してくれるの、嬉しいな。
 でも、パーティーの様子では、多分大丈夫。
 根拠のない元ナンバーワンホストの勘と……あの日、しっかり思い知らせたつもりだから。

「……承知しました」

 ローズウェルさんにまだ心配そうに見守られながら、箱を開けて、中のリボンや包装紙をはがすと……。

「ハンカチ……スカーフかな?」

 バラの花柄の赤いスカーフと、この金のリングはスカーフを留めるもの?
 あまり使ったことのないファッションアイテムだけど……。

「俺に似合いそうな柄だよね?」
「はい! とてもよくお似合いです! ライト様、赤色似合いますよね~」
「シルクも金も隣国の名産ですね。特に質の良い物に見えます。それに、赤だけでなく金も、ライト様によく似合いますし……」
「うん。きちんと俺に似合うように、俺を喜ばせるように考えて選んでくれている気がする」

 導王様、俺の言葉が響いたみたい。
 
「あ、手紙だ。えっと……オファちゃんと一緒にどれが一番俺に似合うか選びましたって」
「……感謝や謝罪の言葉は?」
「無いね。あとは俺の健康を祈ってくれているだけ」
「あの人は……でも、あの導王様から献上品が届くだけでもすごいことです」
「これで国の関係も少し良くなるかもしれないですね~」

 隣国との関係、本当に微妙なんだな……俺にとっては、俺と魔王さんの方がペットと飼い主としてレベルが上なんだぞって見せつけられて満足なだけだけど……。

「……」
「ライト様?」
「ん、なんでもない」

 導王様の手紙の下に、オファちゃんからの手紙も入っていた。
 あの日の俺の行動をこと細かく褒めてくれている手紙で、まるでアイドルに宛てたファンレターみたいだ。
 そして手紙の締めには……「ライト様に言われた言葉、あの時の笑顔が忘れられません。またお会いできる日を心待ちにしています」か。
 ……うん。
 ちゃんと俺のかけた「魔法」は効いていそう。
 ごめんね、オファちゃん。
 俺、同情はするけど君たちに怒っているから。
 どんなに導王様が向き合っても、オファちゃんはもう俺のファン。
 オファちゃんは導王様のことも変わらず好きだと思うけど……まぁ、頑張ってね?

「次の箱、開けようか」

 いつもの笑顔で次の箱へ手を伸ばした。

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