63 / 409
第4章 日常と過去とこれからの話
第62話 料理(2)
しおりを挟む
「うん。俺のいた世界とこの世界で文化が違うから、魔王さんに変なもの出したくないし。この世界の人の意見を聞きたい」
「では、遠慮なくいただきます!」
「私も、ぜひ!」
料理長さんも手を上げてくれたので、サンドイッチをテキトーに切って二人の前に置きなおす。
「はいどうぞ。俺も味見しようかな」
「では失礼してこの玉子の……」
「私も……」
二人が玉子サラダのサンドイッチを手に取ったので、俺もそれへ手を伸ばす。
どうかな……?
「ん、んん!?」
「ん!」
あ、いい顔。これは大丈夫そうだ。
「ライト様! これ、美味しい! この玉子のペーストがもったりして、ベーコンの塩気とよく合って、味が濃いけどパンも一緒に食べるから濃すぎなくて……美味しいです!」
「お、おいしい……ゆで玉子のもそもそした感じが気にならなくて……でも白身のぷりぷり感は残っていて……味も濃厚に感じる。ゆで玉子にこんな使い方が……!」
「ん、イメージ通りできてる。良かった」
こっちのマヨネーズ、ちょっと味が薄いんだよね。黄身多めにして正解だったな。
俺が味を確認している間に、二人はポテトサラダのサンドイッチに手を伸ばしていた。
「ん~! このジャガイモ、美味しいです! パンとジャガイモを一緒に食べるなんて、栄養満点ですね!」
「ジャガイモがしっとりするからパンと一緒でも食べやすい……すごく考えられた料理だ……」
そういえば、ここの料理ってジャガイモが主食扱いの時あるな。元の世界でもヨーロッパ……北欧? ドイツだっけ? どこかジャガイモが主食だった気がする。
主食のパンと主食のジャガイモのセットは普通しないか……日本なら焼きそばパンとかあったけど。
「でも私、この中のジャガイモだけをお腹いっぱい食べたいかも……むしろ、お酒と……」
「あぁ、俺のいた世界だと、パンにはさまずにこの中身だけで食べることも多かったよ。お酒とも合わせてた」
「やっぱり! 家で真似して作りたいです! 作り方、詳しく教えて頂けますか?」
「あの、私も! 城のメニューに加えたいです! 今度のパーティーメニューにも!」
「パーティーだったらキレイなカップに入れるとか、ケーキみたいな形にするとかしてもいいかもね」
「なんと……! あ、ちょっと、メモします、メモ!」
料理長さんがポケットからメモ帳と万年筆のようなペンを取り出した。
リリリさんも。
気に入ってもらえたなら良かった。
「いいよ。じゃあ、魔王さんの分を作りながら教えようか」
「あ! そうでした……!」
「つい、あまりにおいしくて……」
最初に作ったサンドイッチは、もう無い。
いつの間にか、主に二人がパクパク食べていたからなんだけど……。
「好評で嬉しい。安心して魔王さんに作ってあげられるな」
これでこの世界の人の舌に合うって解ったから、自信をもって魔王さんに出せる。
多少の好みの違いはあるだろうけど、そこは「ライトが作った」と思えば魔王さんも美味しく感じるはずだし。
「そうだ、何個作ればいいかな? 魔王さん、魔力も消耗しているならたくさん作る方がいいよね?」
「はい。沢山召し上がっていただきたいので三種類それぞれ一〇個ほど作って頂ければと思います」
ん?
「え?」
今、え?
三種を一〇個?
つまり、全部で三〇個?
「そんなに……?」
「はい。普段よりもお疲れですので」
よく見たら、用意されたパンは三〇本以上あるし、ゆで玉子も鍋いっぱい、ベーコンは塊で置いてある。
余裕をもって用意してくれているのかと思ったけど……使い切るレベルで作れということだったのか。
「……わかった……頑張るよ」
こんな重労働になるなら、もう少し簡単な「挟むだけ」のメニューばかりにすればよかった……とちょっと後悔もしたけど、作りながらレシピを教えた二人が「これ、絶対に魔王様喜ばれますよ」「こんなに作ってもらえて、魔王様は幸せ者ですね」なんてずっと言うから……。
久しぶりに誰かのために労働らしい労働をするのも、悪くないなと思った。
◆
頑張って作ったサンドイッチは、予想通り大好評だった。
魔王さんはあまりに喜びすぎて、泣きながら食べていたので作業の手が止まってしまったらしいけど……キレイに全部食べ切ったおかげで魔力の回復も良く、その後の仕事が捗ったらしい。良かった、良かった。
ただ、感動しすぎた魔王さんが……
「この料理は『かわいいライトの天才パン』と名付けよう」
と言い出したらしくて……。
きちんと「サンドイッチ」「カスクート」という名前を教えたはずのリリリさんや料理長さんも……
「ライト様、家でも先日教えて頂いた『かわいいライトの天才パン』を作ってみたのですが、家族にも大好評でした!」
「ライト様、今夜の夕食に、『かわいいライトの天才パン』のジャガイモペーストをアレンジしたものを入れてみました! 明日は城の賄いに『かわいいライトの天才パン』を作ってみますね!」
なんて言い出すから、ローズウェルさんや騎士団長さんにも……
「ライト様、先日の『かわいいライトの天才パン』のお陰で、ここ数日魔王様の体調がとても良く、仕事がはかどります。ライト様は本当にかわいくて天才ですね」
「ライト様、今日の騎士団の食事が『かわいいライトの天才パン』だったのだが、あれはとても食べやすく栄養補給に優れていてまさに天才パンだな! 次の騎士団の遠征にも『かわいいライトの天才パン』を活用させてもらおう!」
一瞬で定着してしまった。
もちろん、お城の他の人たちにも。
「……」
元の世界でも、人の名前や味に関係ない名前の料理名ってあるけど……なんとかさんの誘惑とか、悪魔のなんとかとか、娼婦風なんとかとか……でも……。
かわいい、天才、と言われるのは嬉しいけど……でも……。
愛されること、褒められること大好きな俺だけど、さすがに「もうこの世界に無い料理は作らない」と心に決めた。
「では、遠慮なくいただきます!」
「私も、ぜひ!」
料理長さんも手を上げてくれたので、サンドイッチをテキトーに切って二人の前に置きなおす。
「はいどうぞ。俺も味見しようかな」
「では失礼してこの玉子の……」
「私も……」
二人が玉子サラダのサンドイッチを手に取ったので、俺もそれへ手を伸ばす。
どうかな……?
「ん、んん!?」
「ん!」
あ、いい顔。これは大丈夫そうだ。
「ライト様! これ、美味しい! この玉子のペーストがもったりして、ベーコンの塩気とよく合って、味が濃いけどパンも一緒に食べるから濃すぎなくて……美味しいです!」
「お、おいしい……ゆで玉子のもそもそした感じが気にならなくて……でも白身のぷりぷり感は残っていて……味も濃厚に感じる。ゆで玉子にこんな使い方が……!」
「ん、イメージ通りできてる。良かった」
こっちのマヨネーズ、ちょっと味が薄いんだよね。黄身多めにして正解だったな。
俺が味を確認している間に、二人はポテトサラダのサンドイッチに手を伸ばしていた。
「ん~! このジャガイモ、美味しいです! パンとジャガイモを一緒に食べるなんて、栄養満点ですね!」
「ジャガイモがしっとりするからパンと一緒でも食べやすい……すごく考えられた料理だ……」
そういえば、ここの料理ってジャガイモが主食扱いの時あるな。元の世界でもヨーロッパ……北欧? ドイツだっけ? どこかジャガイモが主食だった気がする。
主食のパンと主食のジャガイモのセットは普通しないか……日本なら焼きそばパンとかあったけど。
「でも私、この中のジャガイモだけをお腹いっぱい食べたいかも……むしろ、お酒と……」
「あぁ、俺のいた世界だと、パンにはさまずにこの中身だけで食べることも多かったよ。お酒とも合わせてた」
「やっぱり! 家で真似して作りたいです! 作り方、詳しく教えて頂けますか?」
「あの、私も! 城のメニューに加えたいです! 今度のパーティーメニューにも!」
「パーティーだったらキレイなカップに入れるとか、ケーキみたいな形にするとかしてもいいかもね」
「なんと……! あ、ちょっと、メモします、メモ!」
料理長さんがポケットからメモ帳と万年筆のようなペンを取り出した。
リリリさんも。
気に入ってもらえたなら良かった。
「いいよ。じゃあ、魔王さんの分を作りながら教えようか」
「あ! そうでした……!」
「つい、あまりにおいしくて……」
最初に作ったサンドイッチは、もう無い。
いつの間にか、主に二人がパクパク食べていたからなんだけど……。
「好評で嬉しい。安心して魔王さんに作ってあげられるな」
これでこの世界の人の舌に合うって解ったから、自信をもって魔王さんに出せる。
多少の好みの違いはあるだろうけど、そこは「ライトが作った」と思えば魔王さんも美味しく感じるはずだし。
「そうだ、何個作ればいいかな? 魔王さん、魔力も消耗しているならたくさん作る方がいいよね?」
「はい。沢山召し上がっていただきたいので三種類それぞれ一〇個ほど作って頂ければと思います」
ん?
「え?」
今、え?
三種を一〇個?
つまり、全部で三〇個?
「そんなに……?」
「はい。普段よりもお疲れですので」
よく見たら、用意されたパンは三〇本以上あるし、ゆで玉子も鍋いっぱい、ベーコンは塊で置いてある。
余裕をもって用意してくれているのかと思ったけど……使い切るレベルで作れということだったのか。
「……わかった……頑張るよ」
こんな重労働になるなら、もう少し簡単な「挟むだけ」のメニューばかりにすればよかった……とちょっと後悔もしたけど、作りながらレシピを教えた二人が「これ、絶対に魔王様喜ばれますよ」「こんなに作ってもらえて、魔王様は幸せ者ですね」なんてずっと言うから……。
久しぶりに誰かのために労働らしい労働をするのも、悪くないなと思った。
◆
頑張って作ったサンドイッチは、予想通り大好評だった。
魔王さんはあまりに喜びすぎて、泣きながら食べていたので作業の手が止まってしまったらしいけど……キレイに全部食べ切ったおかげで魔力の回復も良く、その後の仕事が捗ったらしい。良かった、良かった。
ただ、感動しすぎた魔王さんが……
「この料理は『かわいいライトの天才パン』と名付けよう」
と言い出したらしくて……。
きちんと「サンドイッチ」「カスクート」という名前を教えたはずのリリリさんや料理長さんも……
「ライト様、家でも先日教えて頂いた『かわいいライトの天才パン』を作ってみたのですが、家族にも大好評でした!」
「ライト様、今夜の夕食に、『かわいいライトの天才パン』のジャガイモペーストをアレンジしたものを入れてみました! 明日は城の賄いに『かわいいライトの天才パン』を作ってみますね!」
なんて言い出すから、ローズウェルさんや騎士団長さんにも……
「ライト様、先日の『かわいいライトの天才パン』のお陰で、ここ数日魔王様の体調がとても良く、仕事がはかどります。ライト様は本当にかわいくて天才ですね」
「ライト様、今日の騎士団の食事が『かわいいライトの天才パン』だったのだが、あれはとても食べやすく栄養補給に優れていてまさに天才パンだな! 次の騎士団の遠征にも『かわいいライトの天才パン』を活用させてもらおう!」
一瞬で定着してしまった。
もちろん、お城の他の人たちにも。
「……」
元の世界でも、人の名前や味に関係ない名前の料理名ってあるけど……なんとかさんの誘惑とか、悪魔のなんとかとか、娼婦風なんとかとか……でも……。
かわいい、天才、と言われるのは嬉しいけど……でも……。
愛されること、褒められること大好きな俺だけど、さすがに「もうこの世界に無い料理は作らない」と心に決めた。
278
お気に入りに追加
3,603
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる