魔王さんのガチペット

回路メグル

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第3章 体の話

第58話 正体(3)

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「ライト様をお連れしました」

 ローズウェルさんに連れられてきたのは、髪の色を変える時にも来た医務室だった。
 部屋の中央に大きな魔法陣の書かれた布が敷かれて、その上に体長四~五メートルはありそうな大きな黒い竜人が体を横に向けて、少し背中を丸めて寝転んでいた。
 裸で、下半身には大きな布が掛けられているけど、肋骨のあたりには……血がにじんでいる。
 傷口の周辺ではファイさんたち、ローブを着た数人が本を片手に魔法なのかな……手を翳して治療をしているようだった。

「魔王さん?」

 魔王さんの面影は、髪色と同じ全身の黒い鱗と、上を向いて生えている立派な角。あと……

「ライト……」

 俺を呼ぶ声。
 それ以外は正直、魔王さんらしさは無いんだけど……

「へぇ。そっちの姿も、でっかくてカッコイイね」

 素直な感想を言いながら、この場では不謹慎かもしれないけど笑顔を向けた。

「……その言葉を聞くのは、三回目だな」

 魔王さんは、声に張りが無いけど表情を和らげた……んだよね? 竜人の表情、結構変わるんだけど、細かいニュアンスはまだ解らない。

「怖くないのか?」
「いきなり何も知らずに見たらビックリはすると思うけど、魔王さんがいつもの姿と違うって聞いていたから大丈夫。中身が魔王さんって解っているから怖くない」

 魔王さんの顔の方に近づいて、爬虫類っぽい形になっている目の近くでしゃがみこんだ。

「いつもの姿も良いけど、この姿も全然違うかっこよさで、新鮮」
「……ライト……」

 魔王さん、その顔何? 泣きそう?
 それは困るな……

「でも、これだけ体が大きいと、一緒に寝るのは無理だね。俺、つぶれちゃいそう」

 耳ってここでいいのかな……少しだけ顔に近づいてそっと囁いた。

「一緒にベッドに入りたかったら、早く元の姿に戻れるようになってね」
「っ! あ、あぁ……!」

 魔王さんがビクっと震えるように顔を上げて俺を見る。
 ちょっと解ってきた。その顔は驚いている顔じゃない?
 この感じなら、大丈夫そうかな。
 言いたいことも言わせてもらおう。

「あとね、ドラゴンっぽい姿はかっこいいと思うけど、その傷。マジでだめ。俺グロ耐性無いからマジで嫌」
「え? い、嫌……か?」

 口調は本音を吐き捨てているんだけど、顔はにこにこ笑ったまま続ける。

「うん。嫌。傷って見たくない。血も苦手。見たくない。本当無理」
「あ、あぁ……」
「だから魔王さん、できるだけ怪我しないでね」
「あ……」

 魔王さんが呆けているので、もう一歩魔王さんに近づいて……

「ね?」

 魔王さんの頬に両手を添える。

「お願い」

 魔王さんの頬にちゅっと音をさせてキスをすると、魔王さんは泣きそうな顔になってしまう。
 うーん。魔王さんが好きなキスなんだけど……。
 顔も分厚い鱗風の皮膚に覆われているから触れたの感じない?

「ライト……」
「んー? どうしたの? 痛い?」
「ちがう」

 微かに首を横に振った魔王さんの頬を撫でながら、魔王さんの次の言葉を待つ。

「俺は……」
「うん」

 できるだけ優しく微笑みかけながら魔王さんの言葉を待っていると、魔王さんはじっと俺を見つめていた目を閉じてしまう。

「俺は、お前の髪色一つ変わっても受け入れられないのに……」
「魔王さん?」

 呻くように言った後、ゆっくりと開いた瞳には、涙の膜が張って大きな瞳がキラキラしていた。

「お前は何で……いつも俺を受け入れてくれるんだ?」

 ……泣きそうな顔で、泣きそうな声で、そんなかわいいこと言っちゃうんだ?
 ごめん。思わず笑っちゃった。

「ふふっ。俺だって魔王さんがもっと気持ち悪い姿だったら普通にキモイって言うよ? 竜はカッコイイからカッコイイって言っただけ。よかったね、魔王さん。そっちの体もかっこよくて」
「ライト……」

 魔王さんの鱗に覆われて爪が長く太くなった手が俺の頭をそっと撫でる。

「ライト……好きだ」
「うん。俺も好きだよ、魔王さん」

 四つん這いになって、寝転んだ魔王さんの唇を啄んだ。
 ……体の構造が違うから、唇じゃなくてただの口の淵かもしれないけど。

「んっ、いつもと感触がぜんぜん違う。ひんやりしてて、気持ちいい……暑い時期だからそう感じるのかもしれないけど」
 
 冗談っぽく言うと、魔王さんはやっと少し笑ってくれた。
 良かった。
 折角俺が来たんだから、笑顔になって欲しいよね?

「魔王さん、しばらくこうしていていい?」

 魔王さんの頭を撫でながらすぐそばの床に座ると、魔王さんが小さく頷いた。

「あぁ」
「ファイさん、治療の邪魔じゃない?」
「大丈夫です。むしろ……いて差し上げてください」
「じゃあ、血とか傷が見えるのは本当に無理だから、魔王さんの顔だけ見ていよう」
「いいな。俺にもライトの顔がよく見える」
「俺の顔はいつも見てるでしょう? 魔王さんのこっちの顔、レアだからしっかり見ておこう……あ、角の形一緒だ。角はこの体の方が似あっているかもね?」
「……そうか?」
「うん。かっこいい……あ、角の感触も同じだ」
「そうだな。そこが一番変わらない」
「じゃあ、角はいつでも触れるから他の場所触っておこう」
「ははっ、それもそうだな」

 魔王さんが笑ってくれると、部屋の中の他の魔族さんたちも嬉しそうに笑ってくれる。
 良かった。俺、来た意味あったみたいだ。

 
 その後、治療が終わるまでの三時間、医務室で魔王さんの体を撫でた。
 どんな怪我だったのかは知らないけど、治療が終わると傷跡すらなくて少し安心した。
 ただ、魔王さんが元の姿に戻るには更に一日はかかって……翌日の夜にいつもの姿を見た時に、やっとほっとして心の底から笑えた気がした。


 俺にとって、魔王さんと言う存在がどんどん大きくなっていっているなと思った。

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