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第3章 体の話
第42話 黒髪(2)
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「物心ついてからすぐに、魔術、知識、教養、武術、マナーなど、あらゆる最高の教育を施され、健康管理や体づくり、魔力量の育成なども優秀な城付きのものがサポートします」
小さい頃からそれって……しんどそう。
自由ないし、親に甘えられないし、友だちもできないよね?
仕事とか将来みたいなのも選べないってことだよね?
えー……?
「ちなみに、当代の魔王様はとても優秀で、幼い頃より何をしても歴代一で、お優しいお心もあり、次期魔王様は必ず……と期待されておりました」
わかるよ。
魔王さんみていると優しくて優秀で好かれていて理想の上司なんだろうけど……なんかなぁ……。
それと……
「でも、もう一人黒髪がいたんだよね?」
「はい。当代の魔王様よりも五〇歳ほど年上の魔族で、一人目の次期魔王候補者様……一番様と呼ばれていました」
「いちばん……番号?」
「魔王様には名前があってはいけないので、候補者様も仮に番号でお呼びする決まりです」
「じゃあ、魔王さんって魔王になる前は……」
「二番様とお呼びしていました」
俺だったら嫌だけど……まぁ、そういう決まりなら仕方がないのか。
あと、魔王さんに名前が無いのって隠されているだけで一応あるんだろうなって勝手に思っていたんだけど……本当に無いんだ……。
「一番様も優秀な方でした。明るく活発で、武術も魔術も良くできる方で……勉強は少し苦手な方でしたが、あの方がいるだけで城の中が明るくなる、素敵な方でした。魔王というお立場にならなくても、国の要職を担うことになると、みんなが期待していました」
「……」
たんたんと話しているようで、ローズウェルさんの顔が曇る。
この「方でした」って過去形……。
「その一番さんは今……?」
「……一番様は……三〇〇年ほど前の大きな戦争の中で亡くなられました」
「……そう」
戦争か……俺も平和な国で育ったから戦争なんて映画か歴史か遠い国の話でしか知らないけど……どこの世界でも戦いとか争いとかしないといけないのかなぁ……。
「一番様も二番様も国の宝です。本来なら危険な戦地へは絶対にお連れしません。でも……切り札を使わなければいけないほど、戦局が厳しくなったあの日、お二人はご自身の意志で戦場へ向かわれました」
「……」
ローズウェルさんの声が……いつもの落ち着いた声音だけどワントーン下がる。
この話ぶり……もしかして、ローズウェルさんってその現場を見ていた?
「お二人の強大な魔法のお陰で戦局を返すことには成功しましたが……戦争相手の隣国も魔族です。黒髪の魔族が魔法を使えばわかります。そして、黒髪の魔族が戦場に来ていると解れば……」
ローズウェルさんが一瞬言葉を詰まらせて、絞り出すように言う。
「狙われます」
ローズウェルさんが唇をかんで一拍おいた後、少し唇を震わせて話し始めた。
「もちろん護衛はたくさん付けていました。しかし……少数精鋭の暗殺者のような敵兵に近づかれ……一番様を守り切ることができませんでした」
早く話し終えたいのか、いつもより早口だ。
話しにくいこと話させてごめん。
でも……。
「その時、少し離れた場所にいた二番様……当代の魔王様は、ずっとマントのフードを被って髪色を隠しておられました。一番様がおっしゃったんです。『黒髪は絶対に狙われるからかぶっていろよ』と。でも、一番様ご自身は一度も髪を隠すことはありませんでした」
「それって……」
俺は一番様がどんな魔族か知らないけど……。
「一番様は日頃から自分よりも周囲の者を優先する方でした。これは、当代の魔王様と共に一番様の言葉を聞いた私の憶測ですが、一番様は自分が囮になって敵をひきつけ、魔王様を助けるつもりで……」
「ローズウェルさん!」
珍しくリリリさんがローズウェルさんの袖を引いて首を横に振る。
「……申し訳ございません。魔王様に関わる大事なことで、憶測は話すべきではありませんでした。口が滑りました。今の言葉は忘れてください」
ローズウェルさんはもういつもの口調、いつもの声音で頭を下げた。
小さい頃からそれって……しんどそう。
自由ないし、親に甘えられないし、友だちもできないよね?
仕事とか将来みたいなのも選べないってことだよね?
えー……?
「ちなみに、当代の魔王様はとても優秀で、幼い頃より何をしても歴代一で、お優しいお心もあり、次期魔王様は必ず……と期待されておりました」
わかるよ。
魔王さんみていると優しくて優秀で好かれていて理想の上司なんだろうけど……なんかなぁ……。
それと……
「でも、もう一人黒髪がいたんだよね?」
「はい。当代の魔王様よりも五〇歳ほど年上の魔族で、一人目の次期魔王候補者様……一番様と呼ばれていました」
「いちばん……番号?」
「魔王様には名前があってはいけないので、候補者様も仮に番号でお呼びする決まりです」
「じゃあ、魔王さんって魔王になる前は……」
「二番様とお呼びしていました」
俺だったら嫌だけど……まぁ、そういう決まりなら仕方がないのか。
あと、魔王さんに名前が無いのって隠されているだけで一応あるんだろうなって勝手に思っていたんだけど……本当に無いんだ……。
「一番様も優秀な方でした。明るく活発で、武術も魔術も良くできる方で……勉強は少し苦手な方でしたが、あの方がいるだけで城の中が明るくなる、素敵な方でした。魔王というお立場にならなくても、国の要職を担うことになると、みんなが期待していました」
「……」
たんたんと話しているようで、ローズウェルさんの顔が曇る。
この「方でした」って過去形……。
「その一番さんは今……?」
「……一番様は……三〇〇年ほど前の大きな戦争の中で亡くなられました」
「……そう」
戦争か……俺も平和な国で育ったから戦争なんて映画か歴史か遠い国の話でしか知らないけど……どこの世界でも戦いとか争いとかしないといけないのかなぁ……。
「一番様も二番様も国の宝です。本来なら危険な戦地へは絶対にお連れしません。でも……切り札を使わなければいけないほど、戦局が厳しくなったあの日、お二人はご自身の意志で戦場へ向かわれました」
「……」
ローズウェルさんの声が……いつもの落ち着いた声音だけどワントーン下がる。
この話ぶり……もしかして、ローズウェルさんってその現場を見ていた?
「お二人の強大な魔法のお陰で戦局を返すことには成功しましたが……戦争相手の隣国も魔族です。黒髪の魔族が魔法を使えばわかります。そして、黒髪の魔族が戦場に来ていると解れば……」
ローズウェルさんが一瞬言葉を詰まらせて、絞り出すように言う。
「狙われます」
ローズウェルさんが唇をかんで一拍おいた後、少し唇を震わせて話し始めた。
「もちろん護衛はたくさん付けていました。しかし……少数精鋭の暗殺者のような敵兵に近づかれ……一番様を守り切ることができませんでした」
早く話し終えたいのか、いつもより早口だ。
話しにくいこと話させてごめん。
でも……。
「その時、少し離れた場所にいた二番様……当代の魔王様は、ずっとマントのフードを被って髪色を隠しておられました。一番様がおっしゃったんです。『黒髪は絶対に狙われるからかぶっていろよ』と。でも、一番様ご自身は一度も髪を隠すことはありませんでした」
「それって……」
俺は一番様がどんな魔族か知らないけど……。
「一番様は日頃から自分よりも周囲の者を優先する方でした。これは、当代の魔王様と共に一番様の言葉を聞いた私の憶測ですが、一番様は自分が囮になって敵をひきつけ、魔王様を助けるつもりで……」
「ローズウェルさん!」
珍しくリリリさんがローズウェルさんの袖を引いて首を横に振る。
「……申し訳ございません。魔王様に関わる大事なことで、憶測は話すべきではありませんでした。口が滑りました。今の言葉は忘れてください」
ローズウェルさんはもういつもの口調、いつもの声音で頭を下げた。
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