魔王さんのガチペット

メグル

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第2章 ペットの可愛がり方の話

第39話 デート(2)

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 部屋の窓から見える中庭だけど、建物の構造上、出るまでに少し時間がかかった。
 廊下を進んで、階段を降りて、五分くらい。
 その間ずっと、魔王さんと腕を組んで歩いた。
 これだけでも魔王さんは楽しんでいる気がするし、すれ違うお城の人たちがみんな「なんて微笑ましい……!」と驚きながら笑顔になってくれるし……そういうつもりではなかったんだけど……俺が嬉しいだけじゃないみたいで良かった。
 そしてやってきた中庭は……

「上から見ていると整備された公園って感じだったけど、中に入ると緑も花もいっぱいで気持ちいいね」

 部屋から見下ろしていた、整備された幾何学模様のような遊歩道は、歩いていると両横に背の低い緑が茂った木があり、様々な色の花が咲き乱れる花壇があり、中央にある大きな噴水の水しぶきのキラキラも感じられ……あぁ、いいな。
 大げさに言うと、マイナスイオンを感じるし空気が美味しい。

「もう少し歩いたところに、バラ園とベンチがある。一人の時はそこでバラを観ることが多い」
「騎士団長さんのおじいちゃんのバラ?」
「あぁ。今年のバラが見事なのは嘘じゃない。ライトにもぜひ見て欲しい」

 緑に囲まれた遊歩道をゆっくり奥へ……俺の部屋から見たら奥だけど、お城としては入口の方か。
 とにかく進んでいくと、急に緑よりも赤色が目立つ一角が現れた。

「え……すごい。満開っていうか……」

 遠目でもすごい。
 でも、近づくと……

「俺がいた世界でもバラはあったしキレイだったけど……」

 ホストもしていたから、祝い事やイベント、プレゼントでバラに触れる機会は多かった。
 詳しくはないけど、沢山見てきた。
 でも……

「三倍くらい大きい!」

 花が大きい分、茎もトゲも大きくてよく見ると少し怖いけど……花はとにかく大きくて見事だった。
 大きければいいとは言わないけど……バラみたいなキレイで印象的な真っ赤なものが大きいって存在感がすごくてそれだけで目を引く。

「この世界でも普通はもう少し小さい。これは特に大きい品種だな」
「そうなんだ? 俺、バラには詳しくないけど……」

 リリリさんが言っていた通り、帽子と首元のリボンと同じ、吸い込まれそうな深い赤色の大輪。
 しかもこれが密集して咲いていて……バラの花束も沢山のフラワースタンドで埋め尽くされる風景も、人生で何度も見ているんだけど……。

「ちょっと感動した……これを維持するの大変そう。魔王さん、バラ好きなんだね?」
「そうだろう。このバラはこうやって咲いている所はもちろん、切り花や花束にしてもとても美しいんだ。俺は自分が美しい物を見て癒されるから……俺が癒しをもらっているペットにも、美しい物を見て癒されて欲しい。バラはそれができるから、好きな花だな」
「魔王さん……」

 バラを眺めながら、ちょっと得意げにそういうこと言うの……かわいい。
 そんなこと言われると、甘やかせてあげたくなってしまう。

「……ベンチってあれ?」
「あぁ。少し座ろう。ライトもゆっくり日光をあびたいだろう?」

 バラ園の真ん中。
 遊歩道の脇に細長い木製のベンチが置いてあった。
 ひじ掛けも背もたれも無いシンプルなベンチで、厚手の黒いカーペットのような布が掛けてあった。
 結構大きめと言うか、長め。これなら……。

「魔王さん、午前中も仕事だったんだよね」
「あぁ」
「お疲れ様」
「毎日のことだ。別に……」

 ベンチの前で立ち止まり、魔王さんの顔を覗き込む。
 魔王さんはちょっと不思議そうな顔で、腕をほどいた俺を視線で追っている。

「俺はね、ストレッチして二度寝してたよ。昨日の夜、いっぱい疲れることしたから」
「あ、あぁ……疲れさせて、すまない」
「そうじゃなくて……魔王さんは疲れることしたのに、俺と違って午前中にお仕事までして、えらいね。ほら」

 ベンチの一番端に座って、自分の太ももをポンっと叩く。

「……?」
「魔王さんはちょっとお昼寝した方が良いよ」
「昼寝……?」

 魔王さんが俺を見下ろしたまま首をひねる。
 伝わらない? この世界、膝枕って文化ない?

「俺の脚に頭のせて、枕にしていいよ」
「ライトの脚を、枕に……!?」

 魔王さんが一歩後ずさってまで驚く。
 やっぱりこの世界は膝枕ないのか。

「ちょっと硬いけど……魔王さん大きいし高さはこんなもんじゃない?」
「え、い、いい、のか?」
「長時間は痺れちゃうから、ちょっとだけね」
「あ……あぁ……」

 魔王さんは驚いた顔のまま、ベンチにゆっくりと仰向けに寝て……恐る恐る俺の太ももに後頭部を乗せた。

「ふふっ。角、上向きで良かった。横だったら足やお腹にささっちゃうもんね?」
「そう……だな」

 魔王さん、緊張してるな。
 力抜いて欲しい。

「角って触って良いもの?」
「初対面でいきなり触れるのは失礼だが……髪と同じくらいの扱いだな」
「じゃあ俺は触っていいんだ?」
「あぁ、そうだな。好きに触って良い」

 魔王さんの了解を得て、なんとなく今まで触れていなかった角をそっと撫でる。

「硬い……もっと骨みたいな感じかなと思っていたけど、石? 宝石っぽい」
「上級魔族の死後、角を宝飾品にすることもある」
「へぇ、キレイだもんね。納得」

 すべすべした大理石みたいな感触を楽しんでいると、強張っていた魔王さんの力が抜けていくのが解った。

「ん……」
「触ってるの、感触ある?」
「一応。鈍いがある」
「気持ちいい?」
「頭を撫でられる程度には……」

 魔王さんが大きく息を吐き、更に力が抜けた。
 よしよし。

「じゃあ撫でておこう」
「ん」

 しばらく角、時々頭を撫でて髪を梳く。
 魔王さんがずっと俺の顔を見ているのは解っていたけど、ある程度撫でてからは周囲のバラを眺めていた。

「……」
「……」

 俺がしゃべらないと魔王さんもしゃべらない。
 部屋の中にいる時と一緒。
 
「……」
「……」

 あぁ、しゃべってないとバラの匂いも、微かに風が吹いているのもよく解る。
 日の光も温かい。
 異世界も元の世界も、こういう自然の良さは同じ……ん?

「すー……すー……」

 膝の上から寝息が聞こえて、そっと下を向くと……。

「ふふっ」

 気持ちよさそうに魔王さんが眠っていた。
 今朝も穏やかな寝顔だなと思ったけど、明るい外で見ると更に……。

「かわいいなぁ」

 魔王さん、俺をかわいいって言ってくれるけど、日に日に魔王さんがかわいく見えてくる。
 
「……」

 魔王さんが目を覚ますまで一時間ほど。
 魔王さんの寝顔と、手入れされたバラ園を眺めているだけの穏やかな時間を過ごした。

 スマホやテレビをなんとなく観ている時間より、退屈なはずなのに……妙に充実した時間を過ごしたような気がした。



 そして、そんな俺たちの姿は渡り廊下から丸見えだったらしく……。

「魔王様が……お昼寝なんて……昼からきちんと休息をとってくださるなんて!」
「しかもあの穏やかなお顔……!」
「ライト様のお陰か……」
「ライト様、美しいだけでも充分魔王様の癒しなのに……」

 執事さんやメイドさん、兵隊さんなど、沢山のお城の人が俺たちを見守ってくれていた……と、後日リリリさんが教えてくれた。
 気づいてなかったな。
 俺、自分で思っているよりも魔王さんに夢中みたいだ。

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