魔王さんのガチペット

メグル

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第1章 ペットの個性の話

第23話 七日目の夜(3)

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「俺、このお城に来る前に歴代のニマちゃんたちに話を聞いてきたんだ。魔王さんがどんな人か、お城でどう過ごせばいいか」
「ニマたちに……?」
「うん。みんなね、魔王さんのこと恐れ多いとか近寄りがたいとか、上位の存在だから緊張するとか色々言っていたけど」
「……」
「魔王さんに感謝していない人はいなかったよ」
「感謝?」

 魔王さんが不思議そうに首をひねる。

「みんな、魔王さんには丁重に扱ってもらったし、魔王さんの愛情も優しさも、申し訳ないくらい感じていたって。お城にいた三年間で、魔王さんがどれだけ素晴らしい人か解ったって」

 魔王さんの手に乗っているブローチと同じ、銀のバラのブローチを俺のシャツの襟もとに付ける。
 このシャツには重いけど……俺の顔には合っている気がする。

「みんな、幸せだって」
「そう、か……それなら……よかった」

 魔王さんがほっとしたように言葉を絞り出した。
 これで、個性も伝えつつ、魔王さんの後悔も払拭で来たかな?
 そう思うんだけど……。

「本当に、よかった……だが……」

 魔王さんはブローチをテーブルに置いて項垂れた。

「最初のニマは……」

 うーん。そこがどうしても引っかかるか。
 さすがに三〇〇年くらい前のことは村にも記録がちゃんと残っていなくて情報が無い。
 リリリさんが少し教えてくれたけど……それも、金髪だったとかこういう服を着ていたとか表面的なことばかりだった。
 だから……

「ねぇ魔王さん。最初のニマちゃんのこと教えて」

 立ち上がって、項垂れたままの魔王さんの隣に腰を下ろした。

「それは……」

 膝に置いている魔王さんの手は、痛々しいほどに強く握られていて……そこにそっと俺の手を重ねた。

「ライト……!」

 魔王さんがやっと顔を上げてくれたので、できるだけ優しく微笑んだ。

「知りたい。魔王さんの心にそんなに居座る素敵な人間。気になる」

 魔王さんが泣きそうな顔で悩む間も、ずっと真っすぐ視線を向け続けた。

「……あまり、楽しい話ではない」
「じゃあ、ますます聞かないと。抱えているの、辛いでしょ?」

 魔王さんは俺の恋人でも家族でもない。
 だけど、今は俺の飼い主だから……俺を愛してくれる人には、同じだけ、きちんと愛したい。
 笑顔でいて欲しい。

「俺……魔王さんが辛いの、嫌だよ」
「ライト……」

 魔王さんの手にのせていた手を、魔王さんの頬へと移動させる。

「泣くほど、話したくない?」

 魔王さんは泣いていた。
 まだ出会ったばかりで魔王さんのことは良く知らないけど……多分、泣くのは珍しい。

「……違う。だが、こんな風に言われたことが無くて……自分でもなぜ涙が出るのか、解らない」
「そっか。なんでだろうね?」

 俺にも解らないよ。
 でも、寄り添ってあげることはできる。

 どうしたら、魔王さんが笑顔になってくれるかな……。
 魔王さんと一緒に困りながら、魔王さんの涙が止まるまでそっと背中を撫で続けた。

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