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第1章 ペットの個性の話
第10話 一日目の夜
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――コンコン
夜の九時ごろ。廊下側のドアからノックの音がした。
「はーい」
ちゃんとノックのあと、俺が返事をするのを待ってからドアを開いたのは、昼間と同じ金の装飾が沢山ついた黒い詰襟っぽい服で、マントは外した魔王さんだった。
俺、部屋着っぽいゆったりしたスタンドカラーのシャツに緩いズボンなんだけどいいかな……いいか。
立ち上がって出迎えてもいいんだけど、今日は様子見。
ソファに座ったまま、読んでいた新聞をテーブルに置いた。
「ライト……今、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。仕事、今終わったの? 遅くまでするんだね」
「え……あ、あぁ。今日は会食の予定もあったから遅くなった」
ソファに近づいてきた魔王さんは、二人分くらいの間隔をあけて隣に座った。
「じゃあ、明日からはもっと早く来るの?」
「あぁ……そうだな」
「そっか。じゃあさ、晩御飯の時間は魔王さんと一緒がいいな。一人でご飯食べるの好きじゃないんだよね」
「……え?」
驚きすぎでは?
折角かっこいい顔なのに、顎が外れそうなほど口あけちゃって……。
「ペットと一緒に食事は嫌?」
例えば犬や猫と同じテーブルに着くのがアリかナシか、人によるしなぁ……この世界の感覚が解っていないから、呆れられたかな? それとも……
「いや、そんなことはない。むしろ……いいのか? 一人でゆっくり食べていいんだぞ?」
「え~? さっきも言ったけど、一人で食べるの好きじゃないんだって。もしかして、魔王さんは一人派?」
「別に、こだわりはないが……」
遠慮せず笑顔で言葉を続けると、魔王さんは驚いた顔から、だんだん泣くのを我慢しているような顔になる。
悪い反応ではないけど、思ったより……まぁいいか。
「じゃあ、明日の晩御飯は一緒ね? メイドさんに言っておいて?」
「……わかった」
「朝も一緒に食べられたらいいんだけど、俺、朝弱いからなぁ~。ま、生活リズムができて来たら相談しよう?」
「ライト……ライト!」
「わっ!?」
魔王さんが二人分くらい空いていた距離を一気に詰めて、俺の体を強く抱きしめる。
好かれること言ったつもりではあるけど、ここまでとは思わなかったな。
「ライト、なんでお前はそんなに……そんなにかわいいんだ?」
「かわいい?」
色々な誉め言葉を言われ慣れているけど「かわいい」は珍しい。
でも、デカい魔族からしたら俺はかわいいのか。
「かわいい。すごくかわいい。今までのペットも皆かわいかったが、お前のような……その……なついてくれるペットはほとんどいなかった」
「そうなんだ? 折角かわいがってもらえるんだから、みんな素直にかわいがってもらったらいいのにね?」
確かに村で話を聞いた歴代のペットさん達も、「大事にはされたけど、恐れ多くて」「かわいがってくれているのは解ったけど、怖くて」「あんな立派な人を相手に何もできないですよ。従順に大人しくしていました」なんて言っていた。
みんな解って無いなぁ。
そんなの、楽しくないだけなのにね?
「魔王さん、俺ね、かわいがられるのが好き」
「あ、あぁ……いくらでもかわいがってやる。そのためのペットだ」
「うん。魔王さんはきっとかわいがってくれる人だと思った。だから俺……」
「……っ!」
俺からも魔王さんの大きな体に抱き着く。
別にエッチな感じでもないし、力を込めてもいないのに、大げさなほど魔王さんの体が跳ねた。
抱きしめられることに慣れていないんだな……。
「魔王さんにかわいがってもらえるように頑張るね」
「……っ!!」
「いっぱいかわいがってね、魔王さん」
「あ、あ……あぁ!」
魔王さんが俺を抱きしめる腕の力が強くなる。
自分より大きな体にすっぽり包まれるなんて初めてで、俺も少し浮かれてきたかもしれない。
異世界だからって少し身構えていたけど……早速、余裕で愛されちゃっているな。
この調子で、元の世界のヒモ生活みたいに上手にやっていこう。
夜の九時ごろ。廊下側のドアからノックの音がした。
「はーい」
ちゃんとノックのあと、俺が返事をするのを待ってからドアを開いたのは、昼間と同じ金の装飾が沢山ついた黒い詰襟っぽい服で、マントは外した魔王さんだった。
俺、部屋着っぽいゆったりしたスタンドカラーのシャツに緩いズボンなんだけどいいかな……いいか。
立ち上がって出迎えてもいいんだけど、今日は様子見。
ソファに座ったまま、読んでいた新聞をテーブルに置いた。
「ライト……今、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。仕事、今終わったの? 遅くまでするんだね」
「え……あ、あぁ。今日は会食の予定もあったから遅くなった」
ソファに近づいてきた魔王さんは、二人分くらいの間隔をあけて隣に座った。
「じゃあ、明日からはもっと早く来るの?」
「あぁ……そうだな」
「そっか。じゃあさ、晩御飯の時間は魔王さんと一緒がいいな。一人でご飯食べるの好きじゃないんだよね」
「……え?」
驚きすぎでは?
折角かっこいい顔なのに、顎が外れそうなほど口あけちゃって……。
「ペットと一緒に食事は嫌?」
例えば犬や猫と同じテーブルに着くのがアリかナシか、人によるしなぁ……この世界の感覚が解っていないから、呆れられたかな? それとも……
「いや、そんなことはない。むしろ……いいのか? 一人でゆっくり食べていいんだぞ?」
「え~? さっきも言ったけど、一人で食べるの好きじゃないんだって。もしかして、魔王さんは一人派?」
「別に、こだわりはないが……」
遠慮せず笑顔で言葉を続けると、魔王さんは驚いた顔から、だんだん泣くのを我慢しているような顔になる。
悪い反応ではないけど、思ったより……まぁいいか。
「じゃあ、明日の晩御飯は一緒ね? メイドさんに言っておいて?」
「……わかった」
「朝も一緒に食べられたらいいんだけど、俺、朝弱いからなぁ~。ま、生活リズムができて来たら相談しよう?」
「ライト……ライト!」
「わっ!?」
魔王さんが二人分くらい空いていた距離を一気に詰めて、俺の体を強く抱きしめる。
好かれること言ったつもりではあるけど、ここまでとは思わなかったな。
「ライト、なんでお前はそんなに……そんなにかわいいんだ?」
「かわいい?」
色々な誉め言葉を言われ慣れているけど「かわいい」は珍しい。
でも、デカい魔族からしたら俺はかわいいのか。
「かわいい。すごくかわいい。今までのペットも皆かわいかったが、お前のような……その……なついてくれるペットはほとんどいなかった」
「そうなんだ? 折角かわいがってもらえるんだから、みんな素直にかわいがってもらったらいいのにね?」
確かに村で話を聞いた歴代のペットさん達も、「大事にはされたけど、恐れ多くて」「かわいがってくれているのは解ったけど、怖くて」「あんな立派な人を相手に何もできないですよ。従順に大人しくしていました」なんて言っていた。
みんな解って無いなぁ。
そんなの、楽しくないだけなのにね?
「魔王さん、俺ね、かわいがられるのが好き」
「あ、あぁ……いくらでもかわいがってやる。そのためのペットだ」
「うん。魔王さんはきっとかわいがってくれる人だと思った。だから俺……」
「……っ!」
俺からも魔王さんの大きな体に抱き着く。
別にエッチな感じでもないし、力を込めてもいないのに、大げさなほど魔王さんの体が跳ねた。
抱きしめられることに慣れていないんだな……。
「魔王さんにかわいがってもらえるように頑張るね」
「……っ!!」
「いっぱいかわいがってね、魔王さん」
「あ、あ……あぁ!」
魔王さんが俺を抱きしめる腕の力が強くなる。
自分より大きな体にすっぽり包まれるなんて初めてで、俺も少し浮かれてきたかもしれない。
異世界だからって少し身構えていたけど……早速、余裕で愛されちゃっているな。
この調子で、元の世界のヒモ生活みたいに上手にやっていこう。
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