7 / 409
第1章 ペットの個性の話
第6話 魔王さん
しおりを挟む
……おぉ。流石にこの中は豪華だ。
どこかの大聖堂でこんなの無かったかな? 天井が高くてステンドグラスがハマっていて、凝った彫刻の柱が両脇に並び、柱の間にはドレスとかローブとか軍服とかを着た魔族が沢山立っている。
いかにもファンタジーだな……そしてなにより、俺が今進んでいる中央の赤い絨毯の先、階段が五つほどあってその上には立派な椅子に座った大柄な男の人がいた。
彼が魔王様か。
三〇〇年前に魔王になったなんていうから、おじいちゃんかと思ったけど、見た目は……俺の感覚ではせいぜい三〇代半ば? 真ん中で分けた黒髪の両横から立派なヤギのような太い黒い角が上向きにねじれながら生えていて、瞳も黒。金色の装飾が沢山ついた黒っぽい詰襟のような服にブーツも黒。マントは赤黒い。
肩幅広いし、がっしり系? 座っているから解りにくいけど身長も高そうだな。
顔は……うん。かっこいい。男らしくて彫が深くて、ちょっと睨むような表情だから怖く感じるけど、整った顔だと思う。
それで……すっごく俺のこと見てるな。
うーん。
ここで……いや、もう少し近づいてからにするか。
「止まれ!」
階段のすぐ下まで進んだところで、魔王様の横に立っている黒い甲冑で水色の髪を後ろに流した気の強そうな顔の屈強な魔族が声を上げると、俺の両横の兵隊さん、村長さんが跪いたので俺もならった。
「……魔王様、新しいペットをお連れしました。この度は異世界の人間になります。この国の常識は軽くしか伝えておりませんので、どうぞ、ご理解を」
「……あぁ、わかった」
村長さんの言葉に対して、魔王様が低い声で返事をする。
声はあんまり嬉しそうじゃないように感じるけど……俺が顔を上げて少しほほ笑んだ瞬間、魔王様の表情がピクっと強張ったのを見逃さなかった。
これは……いけそうだな。
よし。
村長さんも兵隊さんも跪いている中、俺だけ立ち上がった。
「あなたが魔王様?」
「え……?」
「おい、ペット! 失礼だぞ!」
魔王様の横の甲冑の魔族が声を荒げるけど、それを制したのは魔王様だった。
「構わない。……あぁ、そうだ。俺が魔王だ」
「でっかくてカッコイイね。よかった、三年間楽しく過ごせそう」
「あ……あぁ」
にっこり笑った俺を、魔王様は驚いた顔で見下ろし、甲冑の魔族は顔を引きつらせる。
「っ……お、お前が楽しんでどうするんだ!? 魔王様を楽しませて差し上げろ!」
「魔王様がちゃんと楽しいなら、俺も楽しんでも別に迷惑じゃないよね?」
「なっ……」
甲冑の魔族が言葉に詰まっている横で、ずっと驚いた顔をしていた魔王様がふっと楽しそうに表情を緩めた。
「あぁ、もちろんだ」
その楽しそうな声に確信した。
……俺、好かれてる。
「俺は大長谷ライト。ライトって呼んで」
「名前は……いや、そうだな。解った。ライトと呼ぼう」
「魔王様! よろしいのですか!?」
「気になればすぐにいつものようにする。最初はこれでいい」
俺はすっとぼけて笑顔でいるけど、実は聞いていたんだ。
ペットはみんな「ニマ」と呼ばれると。
多分この世界の「タマ」とか「ポチ」みたいな感じ?
歴代のペットは城に入るとそう呼ばれていたらしい。
でも……面白くないよね?
俺は折角ペットになるなら、他のペットよりもかわいがられたい。
「魔王様は名前無いの?」
「魔王に名前はない」
「そっか。みんな魔王様って呼んでるみたいだけど、折角ペットになるなら俺は違う呼び方にしたい」
「違う呼び方?」
「ご主人様、旦那様、魔王ちゃん、魔王くん、魔王っち、まおまお……」
「……!」
また魔王様が驚いた顔をして、甲冑の魔族が顔を引きつらせる。
「おい、ご主人様や旦那様はともかく……魔王様に対してそんな、不敬だぞ!」
「そうなんだ? だめ? 魔王さん」
「さ、さん……!」
甲冑の魔族はもう呆れて言葉が出ないようだけど、魔王様は驚いた顔を段々ほころばせて、とうとう口角が上がった。
「……ははっ! おもしろいじゃないか。好きにしろ。俺が認めたんだ、ライトが俺をどう呼んでも口出しはするなよ」
魔王さんの言葉に、甲冑の魔族や、部屋の両脇に並んでいた魔族たちが「はっ!」と声を上げる。
うん。なかなかいい滑り出しだ。
どこかの大聖堂でこんなの無かったかな? 天井が高くてステンドグラスがハマっていて、凝った彫刻の柱が両脇に並び、柱の間にはドレスとかローブとか軍服とかを着た魔族が沢山立っている。
いかにもファンタジーだな……そしてなにより、俺が今進んでいる中央の赤い絨毯の先、階段が五つほどあってその上には立派な椅子に座った大柄な男の人がいた。
彼が魔王様か。
三〇〇年前に魔王になったなんていうから、おじいちゃんかと思ったけど、見た目は……俺の感覚ではせいぜい三〇代半ば? 真ん中で分けた黒髪の両横から立派なヤギのような太い黒い角が上向きにねじれながら生えていて、瞳も黒。金色の装飾が沢山ついた黒っぽい詰襟のような服にブーツも黒。マントは赤黒い。
肩幅広いし、がっしり系? 座っているから解りにくいけど身長も高そうだな。
顔は……うん。かっこいい。男らしくて彫が深くて、ちょっと睨むような表情だから怖く感じるけど、整った顔だと思う。
それで……すっごく俺のこと見てるな。
うーん。
ここで……いや、もう少し近づいてからにするか。
「止まれ!」
階段のすぐ下まで進んだところで、魔王様の横に立っている黒い甲冑で水色の髪を後ろに流した気の強そうな顔の屈強な魔族が声を上げると、俺の両横の兵隊さん、村長さんが跪いたので俺もならった。
「……魔王様、新しいペットをお連れしました。この度は異世界の人間になります。この国の常識は軽くしか伝えておりませんので、どうぞ、ご理解を」
「……あぁ、わかった」
村長さんの言葉に対して、魔王様が低い声で返事をする。
声はあんまり嬉しそうじゃないように感じるけど……俺が顔を上げて少しほほ笑んだ瞬間、魔王様の表情がピクっと強張ったのを見逃さなかった。
これは……いけそうだな。
よし。
村長さんも兵隊さんも跪いている中、俺だけ立ち上がった。
「あなたが魔王様?」
「え……?」
「おい、ペット! 失礼だぞ!」
魔王様の横の甲冑の魔族が声を荒げるけど、それを制したのは魔王様だった。
「構わない。……あぁ、そうだ。俺が魔王だ」
「でっかくてカッコイイね。よかった、三年間楽しく過ごせそう」
「あ……あぁ」
にっこり笑った俺を、魔王様は驚いた顔で見下ろし、甲冑の魔族は顔を引きつらせる。
「っ……お、お前が楽しんでどうするんだ!? 魔王様を楽しませて差し上げろ!」
「魔王様がちゃんと楽しいなら、俺も楽しんでも別に迷惑じゃないよね?」
「なっ……」
甲冑の魔族が言葉に詰まっている横で、ずっと驚いた顔をしていた魔王様がふっと楽しそうに表情を緩めた。
「あぁ、もちろんだ」
その楽しそうな声に確信した。
……俺、好かれてる。
「俺は大長谷ライト。ライトって呼んで」
「名前は……いや、そうだな。解った。ライトと呼ぼう」
「魔王様! よろしいのですか!?」
「気になればすぐにいつものようにする。最初はこれでいい」
俺はすっとぼけて笑顔でいるけど、実は聞いていたんだ。
ペットはみんな「ニマ」と呼ばれると。
多分この世界の「タマ」とか「ポチ」みたいな感じ?
歴代のペットは城に入るとそう呼ばれていたらしい。
でも……面白くないよね?
俺は折角ペットになるなら、他のペットよりもかわいがられたい。
「魔王様は名前無いの?」
「魔王に名前はない」
「そっか。みんな魔王様って呼んでるみたいだけど、折角ペットになるなら俺は違う呼び方にしたい」
「違う呼び方?」
「ご主人様、旦那様、魔王ちゃん、魔王くん、魔王っち、まおまお……」
「……!」
また魔王様が驚いた顔をして、甲冑の魔族が顔を引きつらせる。
「おい、ご主人様や旦那様はともかく……魔王様に対してそんな、不敬だぞ!」
「そうなんだ? だめ? 魔王さん」
「さ、さん……!」
甲冑の魔族はもう呆れて言葉が出ないようだけど、魔王様は驚いた顔を段々ほころばせて、とうとう口角が上がった。
「……ははっ! おもしろいじゃないか。好きにしろ。俺が認めたんだ、ライトが俺をどう呼んでも口出しはするなよ」
魔王さんの言葉に、甲冑の魔族や、部屋の両脇に並んでいた魔族たちが「はっ!」と声を上げる。
うん。なかなかいい滑り出しだ。
251
お気に入りに追加
3,596
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
前世である母国の召喚に巻き込まれた俺
るい
BL
国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる