ゲイのエッチなお兄さん

回路メグル

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本編3/ 「成長」の話

一週間、毎日しよう【19】提案

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 八日目の朝。
 ほぼ同時に起きて、この七日間ですっかりルーティンの一つになったキスをして、いつものように身なりを軽く整えて、二人で用意した朝食をソファに並んで座って食べた。
 この一週間続いたいつもの朝。
 俺もユキくんもいつも通り。
 だが……これが最後の朝だ。

「……」
「……」

 朝食を食べ終わって、二人とももうコーヒーが少し残るだけになってくると、自然と口数が減っていった。
 そろそろ言わないといけない。聞かないといけない。
 俺から言い出したんだから、俺が言わないと。

 ……解っていても、なかなか口が開かない。
 
「セイジさん、一週間ありがとう」

 先に口を開いてくれたのは、ユキくんだった。
 ……あぁ、言わせてしまった。
 俺が、言うべきなのに。

「お礼を言うのは俺の方だよ。一週間楽しかった」
「楽しかった?」
「あぁ。楽しかったし、飽きなかったよ」
「本当? よかった……」

 ユキくんが心底ほっとしたようにため息を吐く。
 態度にも出していたつもりだが、きちんと言葉にしないといけないな。ごめん。

「一回も……一瞬も飽きなかったし、これから飽きる自分が想像できない。ユキくんとならこれから一生毎日ヤっても飽きないどころか、毎日楽しめる自信があるよ」
「もう、言い過ぎ」

 ユキくんがほっとした顔から楽しそうな笑顔になってくれた。
 良かった。やっぱり笑顔でいて欲しい。

「……ユキくんは?」

 俺からも少し緊張して尋ねると、ユキくんはすぐに、キッパリと返事をくれた。

「飽きなかった」
「……!」

 顔は冷静な笑顔を保ったが、心の中で飛び上がって転げまわるほど喜んだ。
 ユキくんが、あのユキくんが、一週間毎日同じ相手とセックスできたことすら奇跡だと思ったのに、飽きなかったなんて……!
 俺とのセックスに飽きなかったなんて!!!!

「セイジさん、すごい。天才。本当に一週間飽きなかった」
「天才というよりは、ユキくんのことが大好きだからだよ。好きな子を楽しませたい、好きな子の好きなことをしたいって思っただけだよ」
「……セイジさん……」

 浮かれて甘ったるいことを口走ってしまうが、ユキくんはそれも嬉しそうに聞いてくれた。
 これは……いいよな?
 言っていいよな?

「じゃあ、飽きなかったなら俺の提案聞いてもらえる?」

 他の男とセックスしてもいいから、恋人になって欲しい……。
 正直、いけるだろと思って口を開きかけた瞬間、ユキくんが困ったように首を傾げる。

「それなんだけど……」
「え?」
「一週間は確かに飽きないけど、もう一週間だと……ちょっと自信が無いんだよね」
「え?」

 いや、でも大丈夫だ。
 俺がしようと思っている提案はそれをカバーするものじゃないか。ある意味ちょうどいい。

「それで、俺がこういうのはずるいかもしれないんだけど……二人とも、提案してみない?」
「二人とも?」
「うん。聞くだけでいいから……どうしても俺の提案をセイジさんに聞いて欲しい」

 確かに、最初の約束とは違うが……ユキくんが俺に対してどんなことを思ってくれているのかは気になる。

「この一週間が本当に楽しくて幸せだったからこそ、どうしても言いたい」
「幸せだったから?」

 ユキくんの口からまた「幸せ」という嬉しい言葉が聞けた。
 こんなの、聞かないなんて言うわけがない。

「うん。あ! でも、その……」
「ん?」

 ユキくんが少し気まずそうに、視線を泳がせる。
 一瞬ドキッとしたが……

「倫理観がぶっ壊れたビッチみたいなことを言っちゃうんだけど」
「それは別に……俺も倫理観が壊れたヤリチンみたいなこと言おうとしているから……」

 倫理観が壊れた? ビッチ? これは、もしかして……
 ユキくんも同じことを考えてくれているんじゃないか?

「じゃあ、ユキくんの提案から聞かせてくれる?」
「うん」

 ユキくんが小さく息を吐いてから、真っすぐ俺を見つめる。

「えっと……まずちゃんと言っておかなきゃって思ってたんだけど。俺、セイジさんのこと、好き……です」
「……!」
「セイジさんが好きって言ってくれるの、いつも嬉しかったし……この一週間、俺が好きって言ったのも全部本心。好き。恋愛の意味で、誰よりも、一番……セイジさんだけが、好き」

 確かにこの一週間、何度か言ってくれたが……それはプレイを盛り上げるためかもしれないと思っていた。
 いや、そう思うようにしていた。
 そうじゃないと、後が辛いから……だから……そうか……。
 嬉しくてまた泣きそうだった。

「誰よりも俺を理解してくれるし、俺に向き合ってくれるし、誰にでも優しいのに俺には更に優しくしてくれるところ……俺も、セイジさんにしてもらうのと同じだけ、返したいって思う」
「ユキくん……」
「セイジさんとのセックスもすごく良かったし、セイジさんが一週間飽きなかったって言ってくれたおかげですごく自信がついた。自分の中の引っかかっていた初体験も、清算できた」
「よかった……」
 
 俺がユキくんの役に立てたなんて何よりも嬉しい。
 ちょっと、涙腺が本格的にやばい。

「だから……セイジさんとはちゃんと恋人同士になって、またセックスしたい。週に一回とかなら飽きずにずっとできる気がする」

 やった!
 恋人だ!!
 週に一回? 充分だ。
 全然それでいい。

「でも、セイジさんは六年もずっと想ってくれるような誠実な人なのに、俺ってやっぱり飽きっぽい……というより、セックスが好きすぎていろんなセックスをしたくなっちゃうから……こんなこと言うの申し訳ないんだけど……き、嫌われちゃうかも……しれないんだけど……」

 ユキくんが言いにくそうに語尾を濁すが、大丈夫。
 俺が嫌いになることなんてないし、解っている。

「少し自由なお付き合いの形が取れたら助かるなって……思って……」

 ほら。外で男遊びアリにしよう、だろう?
 いいじゃないか。俺はそれに「いいよ」と言うだけだ。

「セイジさんとのセックスに飽きないためにも、間に……その……違うセックスをはさめたら……とか……ごめん、不誠実なんだけど、でも、その方がセイジさんに飽きずに長続きする気がするし……いや、ごめん。本当ごめん。セイジさんがすごく考えてくれているの解るし、テクニックもすごくて、セックスのバリエーションもあって最高なんだけど、ほら、例えばペニスは小さくも大きくもできないし、体格とか顔とかは変えられないし、だから、えっと……結局は俺がビッチで色々なセックスがしたいのが悪いんだけど」

 ユキくんが言い訳するように、早口でまくし立てた後に頭を下げる。
 うんうん。解る。解っている。

「大丈夫。ユキくんのそういう所も含めて大好きだよ」
「……本当?」
「あぁ。この六年以上、ユキくんが他の男とセックスしていても『俺の好きな子が楽しそうで嬉しいな』って思っていたから」
「い、いいの?」
「いいよ」

 じゃあ、外で遊んでOKの恋人同士……

「じゃあ、一週間に三日間恋人でいい?」
「え?」

 あれ? ちょっと待ってくれ。
 思っていたのと違う……?

「あ、三日は少ないか……恋人の時間の方が多くすべきだよね。えっと、四日?」

 ちょっと待て、考えろ、週に四日恋人?

「それは、一週間の内、四日は俺と恋人で、後の日は恋人じゃないってこと、だよね?」
「そう。四日はセイジさん一筋で浮気は絶対にしない! でも、後の三日は恋人じゃないから……他の人とちょっと……って感じとかどうかなって」

 なるほど。
 解った。仕組みを理解はした。
 今、脳内でめちゃくちゃ考えている。
 俺の考えていた「ずっと恋人だけど外でセックスOK」とユキくんの言う「浮気はしないけど恋人でいる期間は限定」と、どっちがいいか。
 どっちがいいんだ?
 
「年末年始とかの長期休みの時は日にち増やしていいし、恋人じゃない日も、セックス以外は普通に仲良くするし、なるべく週末は恋人でって思うし……セイジさんの考えも言ってくれたらできるだけ合わせようと思うし……やってみて合わなかったら都度調整していけたらと思うし……」

 それは結局、俺の提案とあまり変わらないような……いやでも、週に三日でも四日でもユキくんを必ず独占できるって言うのはよくないか?
 うん。
 こっちの方がいいな。
 いいよな?

 というか、結局あれか。
 ユキくんが望むなら何でもいいし、ユキくんが恋人になってくれるなら何でもいい。

「ユキくん……」
「……どう?」
「俺もほぼ同じことを提案しようと思っていた」
「本当!?」
 
 ユキくんの不安そうな顔が嬉しそうな輝く笑顔になる。
 あぁ眩しい。
 この笑顔が見られるんだ。
 これで正解だ。

「あぁ」
「じゃあ、毎週セイジさんとエッチできるし、セイジさんの恋人になれるけど、他の人ともエッチしていい?」
「いいよ。曜日とか決める? でも臨機応変のほうが良いかな……毎週末よりもたまには仕事帰りに待ち合わせしてスーツのままカ―セックスとかもいいよね?」
「いいぃ♡」
「じゃあスケジュール共有アプリ入れよう。それでお互いの希望日にチェックして……とかどう?」
「うん。そうしよう!」

 思っていた恋人関係とは違うが……うん。どう考えてもいいよな。

「あ、家の合鍵、そのまま持って帰ってくれていいよ」
「じゃあ、俺のも渡しておくね」

 ほら、こうやって恋人らしくしてくれるんだし。
 こんなの俺だけだろう?
 恋人だけだろう?

 なんだ。最高じゃないか。

「ユキくん、今日は恋人?」
「うーん……一週間セイジさんだったから、今日は昼まで恋人で午後からは違う、でもいい?」

 恋人になった瞬間これか。
 飽きてはいないけど、そろそろ違うペニスを咥えたいんだな。
 
 ユキくんらしくてエロかわいいじゃないか。

「もちろんいいよ。でも……」
「セイジさん……?」

 ユキくんが楽しむ分、俺もしっかり楽しませてもらおう。

「昼まで恋人なら、昼まで……ね?」

 ユキくんの肩に手を回して抱き寄せると、くすぐったそうに笑ってからエロかわいい笑顔が近づいた。

「ん♡ いいよ。いっぱいキスして」
「あぁ」

 恋人になった瞬間の昂りを、ギリギリ午前中いっぱいまで味わった後、この日は恋人じゃなくなった。

 
       ◆


 こうして俺は、ユキくんの彼氏というポジションを手に入れた。
 ユキくんが他の男とセックスをして嫉妬する心配よりも、ユキくんが俺に飽きないかが一番の心配だったが、間に別のセックスが入るからか、三ヶ月経っても飽きている様子が無い。
 最近は週五日恋人の時もある。

 それに……

「来週の水曜日、早く帰れそうなんだけど外で夕食でもどう?」
「ごめん。その日はソウタくんと約束してる」

 俺の家のソファの上で、すっかり自分の家のようにくつろいでくれるようになったユキくんが、枕にしていた俺の太ももから体を起こす。
 他の男との予定が優先……それは構わない。先約を大事にすべきだ。
 しかし……

「あれ? またソウタくん?」
「うん。先週のイメージプレイの続きの設定でするんだ♡ 童貞を奪った家庭教師の先生と生徒の設定で、脱童貞した生徒がリベンジするプレイ」
「へぇ。楽しそうだね」

 同じ男と月に二~三回寝るのも怖くなくなったらしく、男遊びの幅が広がったようだ。
 今まで以上に楽しそうに男遊びをするユキくんが見られて、俺も楽しい。

「そうだ、セイジさん。最近仲良くなった友だちカップルがセックスの見せ合いしようって誘ってくれたんだけどどうかな? スワッピングは無しで」
「俺は良いよ」
「やった♡ 友だちが『絶対に僕らの方がラブラブカップルで最高のエッチしてる』って言うから、俺とセイジさんの恋人エッチ、見せつけたかったんだよね♡」
「……」

 ちょっとプレッシャーがかかることもあるが、こんなことができるのは恋人だけだし頑張ろう……こういうプレイは、ユキくんの今までに見られなかった顔も沢山見られるし。
 俺のテクニックも、ユキくんの恋人になってから更に磨きがかかってきた。
 
「じゃあユキくん、予行練習しようか?」
「うん♡ あ♡」

 今日は俺の腕の中で甘い声をあげてくれる恋人だが、明日は誰か別の男のペニスを咥え込む。

 他人は「倫理観のぶっ壊れたカップルだ」と嫌な顔をするかもしれないが、俺たちは……

「ユキくん、今日もかわいいね。大好きだよ」
「ん♡ 俺も、大好き♡」

 最高に幸せだ。



【一週間、毎日しよう END】


※今後も不定期で本編や番外編を更新する予定です
※明日、【登場人物一覧】【登場しない人物一覧】更新予定です
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