ゲイのエッチなお兄さん

回路メグル

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本編3/ 「成長」の話

一週間、毎日しよう【11】デート

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 五日目。
 この日は半休を取ってくれたユキくんが一時過ぎに帰ってきたので、遅めの昼食を食べに海沿いの商業施設へとでかけた。
 海の見えるイタリアンレストランでゆっくり食事をして、食後には適当に目に付いた服屋でお互いに似合いそうな服を渡しあったり、ユキくんの会社の直販店を覗いたり、二人とも気に入ったカシミアのマフラーを色違いで購入したり。
 買い物の後は海沿いの公園で「少し寒いね」なんて言いながらカフェスタンドのコーヒーを片手に……もう片方は手を繋いで、ぶらぶらと、特に目的地もなく歩いた。
 デートだ。
 どこからどう見ても、定番の、普通の、ただの楽しいデートだ。

「夕飯も食べて帰る?」

 コーヒーのカップが空になり、ゴミ箱に捨てながら尋ねる。
 ユキくんが少し考える仕草をする間、つないだ指先がトントンと俺の手の甲を叩くのが妙にキュンときた。

「うーん。外食も良いけど……寒かったし家でゆっくり鍋とかどう?」
「いいね。食材買って帰ろう」
「カニって季節早いかな」
「もうあると思うよ。カニって聞いたら、一瞬でカニの口になった。〆は雑炊がいいな」
「うん。絶対に雑炊。お酒……セイジさんの美味しいワインがまだあるけど、カニ鍋なら日本酒か焼酎かな」
「いいね。熱燗……いや、あえてレモンチューハイとかでも美味そう」
「それなら、美味しい焼酎のミニボトルあるよ。炭酸水もあるから、レモン買って帰ればできる」
 
 あぁ、いいな。
 同棲カップルの会話っぽい。

「じゃあレモン買おう。あとは白菜、ネギ……」
「豆腐。駅前の専門店で」
「あそこの豆腐美味しいね。ユキくんが毎日のように買ってくるから、俺、ここ数日でもうスーパーの安い豆腐で満足できなくなりそうで怖いんだけど」
「それを言うならセイジさんだって。俺、スーパーの食パンで良かったのにセイジさんがパン屋さんの美味しい食パン買ってくるから口が肥えて……」

 お互いに影響し合っているなぁ……。
 これも同棲カップルっぽい。
 こんなに楽しくて幸せなのに、あと三日か……。

 少し焦りを感じかけた時、ユキくんのスマホが鳴った。

「あ、ちょっとごめん」
「うん」
 
 ユキくんが音の出る通知にしているのは、仕事か、もしくは……

「妹から……」

 そっちか。
 ユキくんと妹さんは、それぞれが一人暮らししている家が近く、仲が良い。
 特にユキくんが妹さんを溺愛していて、本人も「俺、ついつい妹を甘やかし過ぎたり構い過ぎたりするから、必死で自重してる」と自覚がある。
 自覚があっても、かなりのシスコンだが……妹さんの方は「普通に仲いいお兄ちゃん」くらいにしか思っていないようなので、俺としては微笑ましく思うだけだ。

「セイジさんの会社のサングリア買ったよ、って」

 先日のフランス土産のお礼に、と言っていたやつか。
 律義な子だな。流石ユキくんの妹さんだ。

「あぁ、早速? ありがとうって言っておいて」
「うん……えっと……」

 ユキくんがスマホの画面を少しスクロールする。

「女子会の差し入れで持っていって喜ばれたけど……みんなもうこの商品のこと知っていて、宣伝にならなかった。ごめんなさいって」
「わざわざ買ってくれただけで十分だよ。それに若い女の子に知ってもらえていると解って嬉しいし」
「あ、みんなでSNSには写真載せるって……これ」

 誰かの自宅らしく、薄ピンクのラグに座って、丸いテーブルを囲んだかわいい女の子が六人。うちの会社のサングリアのカップを持って乾杯している写真だ。
 女の子の流行には詳しくないが、全員髪型や化粧が凝っていて、カップを持つ指も凝ったネイルアートが施されている。服装もテレビでよく見るギャルモデルやタレントのようで、かわいいしキラキラしているし、全員モデルかアイドルと言われても信じてしまいそうだった。
 待てよ。
 この中にユキくんの妹さんがいるということか……。

「……」
「セイジさん?」

 しばらく写真を眺めた後、右奥に座っている明るいベージュ系のロングヘア―をふわふわに巻いた少し垂れ目の女の子を指差した。

「……この子、特にかわいいけど妹さん?」
「……! そう! その子が俺の妹のキミカちゃん!」

 やっぱり。
 この年代の女の子を見分けるのは苦手だし、みんなかわいいとは思ったが……化粧や髪型が凝っているので第一印象では解らなかったが……よく見ればユキくんによく似ている。少し垂れ目でユキくんよりは目がぱっちりと大きくて……化粧かもしれないが……ユキくんが「エロい美人」なのに対して妹さんは「明るくてかわいい」印象だが、とにかく顔の造形は似ていて、笑顔の似合うかわいい女の子集団の中でも特にかわいく見えた。

「やっぱりうちのキミカちゃんが一番かわいいよね。お友だちもみんなかわいいんだけど……」
「そうだね」

 俺の同意は本音だし、実際かなりかわいい子だとは思うが……。
 この中で一番かわいく見える理由は、客観的な美醜の差ではなく俺個人の基準だと思う。

「俺は、ユキくんの方がかわいいと思うけどね」

 俺が好きな子に似ているから、かわいく見える。
 そういうことだ。
 こんなことを言えば妹大好きなユキくんは「え~妹の方が絶対にかわいいよ」と言うとは解っていたが……あれ?

「え……あ……うれ、しぃ」

 ユキくんが口元を押さえて視線を逸らす。
 耳まで赤い。
 照れてる……? 「かわいい」なんて、セックス中にはいくらでも言ってきたのに
 なんで、そんなかわいい反応……?
 そんな反応されたら……

「ユキくん……」
「あ、でも、妹の方が絶対にかわいいけどね!」

 誤魔化すようにスマートフォンの画面をオフにしてジャケットのポケットに突っ込んだユキくんが、速足で駅へと向かい始める。

「ほら、早く帰って鍋しよう?」

 俺の手を引っ張るユキくんは、まだ耳が赤かった。

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