ゲイのエッチなお兄さん

回路メグル

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本編3/ 「成長」の話

一週間、毎日しよう【5】ルームツアー

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 玄関で駅弁がっつきセックスをキメた翌朝、ユキくんは仕事用のスーツをきっちり着こんで、その玄関に立っていた。

「いってきます」
「いってらっしゃい、ユキくん」

 月曜日の昨日は有休をとってくれていたユキくんだが、今日は出社。
 水木も出社で金曜日は半休をとってくれている。
 そして土日は休み。
 俺のために仕事を調整してくれたらしい。
 もうこれだけで嬉しい。
 しかも、その間二人で生活するのはユキくんの家で……「会社の人と家族以外、入れたことないから緊張するな」と言っていた、他のゲイ仲間の誰も知らないユキくんの家。

「……それにしても」

 玄関でユキくんを見送った後、左に洗面所と風呂、右にトイレのドアがある短い廊下を抜けると広々としたリビングダイニングに出る。
 
「明るい時間に見ると、本当にモデルルームみたいだな」

 ユキくんはモデルルームみたいな家に住んでいそうだ、と漠然と思ってはいた。
 現実は想像以上で、二〇畳ほどのLDKは廊下から入ってすぐのカウンターキッチン越しに、有名家具ブランドの木製ベンチにモスグリーンのクッションが付いた二人掛けソファとシンプルな木製のテーブルが置かれていて、後は壁掛けのテレビがあるだけ。
 そしてその先に、モスグリーンのカーテンがかかったベランダに通じる窓があり、これを開けると一〇畳はある広いベランダというか、ウッドデッキか? リビングの床とフラットになっているので、窓を全開にすればリビングが広がったように見える。

「確か、ユキくんが言っていたのは……これか」

 スマホでユキくんの勤めるアウトドアメーカーの公式通販サイトを開くと、トップに「ベランダキャンプ特集」という記事が出ていた。
 そこに載っている写真は、明らかに目の前のベランダで撮影されたものだ。
 あ、こっちの「車乗り入れOKキャンプで活躍するアイテム特集」は昨日乗せてもらったユキくんの愛車か……。
 ユキくん曰く、

「社長に、家賃補助出すから撮影で使える家に住めって言われていて……。ほら、うちって新興メーカーだからSNSとかHPとか用に、フットワーク軽くいつでも思いついた時に商品の撮影ができる環境が必要なんだよね。俺もあまり家にいないし良いかなと思ってこんな感じなんだけど、落ち着かないよね? ごめんね」

 ということだ。
 その社長さんも撮影に使える広い庭の一軒家に一人で住んでいるとか。
 人数の少ないメーカーらしい工夫だとは思うが……。
 ユキくんは生活感の無い家に住んでそうというイメージ通りなのに、理由は全然違ったんだな。
 また一つユキくんに詳しくなれた。


 リビングの横の引き戸は寝室に繋がっているが、その中はクイーンサイズのベッドと腰くらいの高さのチェストが一つ置いてあるだけで、荷物は全て壁一面のクローゼットと寝室の奥のウォークインクローゼットに収納されていた。
 そのウォークインクローゼットも、半分以上がキャンプギアで、あとは掃除機や季節外の物が置かれているだけ。
 寝室のチェストの下二段分の引き出しに、ユキくんがファンクラブに入るほど好きな芸能人「月島ゲンジ」のCD、DVD、写真集がぎっしり詰まっているのを恥ずかしそうに見せてくれた時はちょっとほっとした。
 ……その上の段にはティッシュやコンドームやローション、一人で楽しむための色々な道具が入っているのを恥ずかしそうに見せてくれた時にはほっとすると同時に妙にキュンと来てしまった。

「あぁそうだ。髭剃りの充電……」

 玄関の横の洗面所へ向かい、充電させてもらっていた電気シェーバーのコンセントを抜く。
この洗面所も鏡裏が棚になっていて、スキンケア用品や歯ブラシなんかもすべて見えないように収納されている。

「……でも、知らなかったな……」

 他人の家の洗面所をじっくり見るなんて失礼なこととは解っているが、昨日、俺のスキンケア用品や髭剃り、歯ブラシを置かせてもらう時に気付いたんだ。
 ユキくんの髭剃りが無いことに。

「あぁ。元々薄い方なんだけど、もう生えないようにしちゃった」

 髭の脱毛か何かか。
 一年前、一週間一緒に暮らしたのに。何度かセックスをしたまま朝まで一緒にいたこともあったのに。
 ユキくんと一緒の時は浮かれていて気付かなかった。
 そうか。そうだよな。
 いつもつるつるでキレイな顔だと思っていたけど、ユキくんも人間だ。そういう努力があったのか。

「これはここに置かせてもらって……」

 シェーバーのコードをまとめて、間借りしている棚の一部に置くと、その下の少し雰囲気の違う段が嫌でも目に入る。

「……」

 一番下の段は、明らかに女性物の化粧水や乳液、美容クリーム、導入化粧水? ふきとり……? よくわからない化粧品と、ヘアアイロンやスタイリング剤が並んでいる。「もしかして、彼女?」なんて疑いは微塵もなかったし、予想はついた。
 そして、昨夜ユキくんがしてくれた説明は予想通りだった。

「この中の歯磨き粉でもドライヤーでも好きに使ってもらっていいんだけど……一番下の段は妹の物だから使わないでね」

 そうだと思った。
 ユキくんは妹さんと仲がよく、家も近い。
 泊りに来ることが多くて、コスメオタクの妹の荷物がどんどん増えて困ると言っていた。

「化粧品のことはよく解らないが、妹さんがコスメオタクで良かったな……」

 昨夜、ここで話したユキくんとの会話を思い出す。

「そうだユキくん。アレであっていた?」
「あ! あっていたよ。妹、すごく喜んでいた。ありがとう」

 帰国に先立って、俺の荷物とお土産を入れた段ボールを一つ、ユキくんの家へ送っておいた。
 アレというのはその中に「妹さんへのお土産」として入れた、フランスの有名ブランドが出している、フランス国内限定カラーの口紅のことだ。

「よかった。化粧品の色ってどれも同じに見えて……あっていたなら安心したよ」
「色のリクエストまで聞いてもらってありがとう。妹がセイジさんがここにいる間に、何かお礼したいって」
「まだ学生さんなんだし、会社の子に頼まれたついでだから気にしないでって伝えておいて」

 実際に、日本の同僚や後輩たちから「これ、日本で大流行しているんです! 限定カラー買ってきてください!」と頼まれて、それならユキくんの妹も欲しがるかなと思って声をかけただけだ。
 だから、口紅を買って帰れたのは偶然。
 偶然だが……。
 ユキくんとの関係の外堀を埋めるために「一週間お兄さんの家に居座ってしまうから」と理由を付けて何か喜ばれそうなお土産を渡そうとは思っていた。
 
「うーん。妹の喜び方、すごかったからなぁ……何かしないと気が済まなさそう」
「だったら、うちのサングリアのカップサイズが今コンビニで売られてるんだけど、買って飲んでくれると嬉しいな。できればSNSに写真の一枚でも載せてくれると助かる」
「あぁ、あれ美味しいけど大きいボトルしかないと思ってた。妹、甘いお酒好きだから喜んで買うと思うよ」
「若い女性向けにパッケージも凝ったから……女子大生に口コミで広めてもらえるとちょうどいいんだよね」
「友だちにもオススメするように言っておくよ」
「ありがとう。でも無理はしないで、気に入ったらでいいから」

 口ではそう言ったものの、本当はこの商品、すでに若い女性の間でちょっとしたブームになっているものだ。
 コスメ中心ながらSNSもマメにチェックしている妹さんなら「え? お兄ちゃんのお友だちってあのお酒の会社なの? すごーい! これ人気なんだよ!」……なんて好感を持ってもらえるかもしれないと思ったんだ。
 ……必死過ぎるな俺。
 でも、必死なんだからしょうがない。

 ちなみに、ユキくんにも「お世話になるし、何か買っていくよ。欲しい物ない?」とお土産のリクエストを電話で訪ねていたが、

「冬物のスリッパ無いんだよね。来客用……セイジさんに使ってもらう用も無いから、お願いしていい?」
「わかった。でもそれは俺も使うものだから……他には?」 
「うーん、セイジさんが俺と一緒に楽しみたいお酒とか……」

 このちょっと遠慮がちで気遣いしてくれるところはユキくんの魅力の一つだと思う。
 でも、俺としてはもう少し我儘に、甘えてくれてもいいと思うが……

「あと、俺と一緒に楽しめるモノ。ね?」

 付け足された、含みのある一言に一瞬で体温が上がった。
 こういうとこだ。
 気遣いのできる良い子なのに、こういうエッチなところ。
 あぁ、好きだな……好きだし……

 早く日本に帰って抱きたいと思った。
 
 結局ユキくんへのお土産は、ネイビーとベージュの色違いのムートンスリッパと、おすすめのワインとお菓子やレトルト食品。そして……フランス語のパッケージのコンドームとラブローションとカップル用入浴剤などのラブグッズ。
 どれも喜んでくれて、ネイビーのスリッパは今俺が履いていて、先ほどまでユキくんが履いていたベージュは玄関においてあるし、ワインは昨日早速開けた。
 ラブグッズは……ユキくんが楽しそうに寝室のチェストのアダルトグッズ入れを開けて「ここに入れてる。使うの楽しみ♡」と言ってくれた。「使う所までがお土産だよ」とも。

「使うのは四日目か五日目あたりにするか……っと、そろそろ出る時間だな」

 ユキくんが仕事に行っている間、俺は一週間後から住む家の準備をしなければならない。
 以前の家に戻るだけだが、一年間会社の後輩が使っていたため、俺の荷物はレンタル倉庫に預けてある。
 後輩の引っ越しは済んでいるので、自分の荷物を運びこんで、倉庫の解約、後は諸々の手続きと役所回り……隣県の親に顔を見せるのも日帰りで良いし、会社への挨拶報告はゆっくりでいいと言われているし……。

 三日もあれば帰国に関する諸々は片が付くか。

 あとは存分にユキくんに尽くせるな。

「よし、まずは……クリーニング屋からだな」

 昨夜、調子にのって汚した俺のスーツとユキくんのセットアップを手に、一週間限定ではあるが大好きなユキくんと同棲する家を出た。

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