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本編3/ 「成長」の話
一週間、毎日しよう【2】
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そうだ。
普段は「ユキ」で通しているユキくんだが、恋人ごっこの同棲の時にお互い軽く個人情報を伝えていて……確かユキくんの本名の前の方を取れば「ひーくん」と呼ばれてもおかしくはない。
「ユウイチさん?」
ユキくんが、名前を呼んだ男の方を向いて、少し上擦った声で名前を呟いた。
どうやらゲイコミュニティ以外の知り合いか。
だったら俺とイチャついているのはまずいだろう。
肩から手を離した方が良さそうだな……え?
「……」
「……?」
ユキくんが肩に回った俺の手に、自分の手の平を重ねる。
その手には妙に力が入っていて……ユキくん?
「おう! 久しぶりだな!」
近寄ってきた男は、ユキくんより少し年上に見える、ガタイの良いいかにもスポーツマンといった明るい笑顔の男だった。服装はデニムにアウトドアブランドのブルゾンといったラフなもので……これは完璧に勘だが、ゲイではなさそうだ。
なんとなく、なのでゲイの可能性が無いわけではないが……俺はこの勘を外したことが無い。
「こんなところで会うなんて偶然だな! 旅行か?」
そして、遠慮なく近づいてきた男の顔は、あっさりした塩顔だが、整っていて爽やかで……。
……。
……これは……。
ユキくんの好きそうな体に、ユキくんの好きそうな顔が乗っている。
「違いますよ。海外出張に行っていた彼氏のお迎えなんです」
「彼氏……?」
ユキくんは落ち着いた笑顔でそんなことを言うが……嘘ではないが……会社の人にも俺を彼氏だと言ってくれたことはあるが……。
俺の手に重なったユキくんの手の力がまた強くなった。
これは……こういうことでいいんだよな?
「初めまして。お付き合いしています。吉崎です」
ビジネスマンらしく背筋を伸ばして、営業スマイルを浮かべて、堂々と挨拶をすると、相手の男はなぜかとても嬉しそうに笑った。
……ユキくんとどういう関係なんだ?
「初めまして! 潮見ユウイチです。ひーくんとは同じ大学で学年は一つ上だけどサークルで一緒だったんですよ」
「あぁ、よく話してくれている会社の?」
よく、というのは嘘だ。一度「大学のサークルの先輩たちが立ち上げた会社で働いている」と聞いたのを、しっかり記憶に刻んでいただけだ。
でも、まるでユキくんからは何でもよく聞いている彼氏らしく振る舞うと、どうやら正解だったらしく、ユキくんも笑顔で俺の方を向いて返事をした。
「ううん。そのサークルだけどユウイチさんは同じ会社じゃなくて別の会社。ほら、うちの社長と大喧嘩した先輩だよ」
「あぁ、あの方か」
そんな話は知らないが、笑顔で話を合わせておいた。
俺たちのやり取りがユウイチさんとやらにどう見えているのか心配になって視線を彼に戻すと……。
「その話は忘れてくれよ~! それにしても、ひーくんに彼氏ができるなんてなぁ。ビックリした」
屈託のない、人の良さそうな笑顔だ。
悪い反応ではなさそうなのに、ユキくんの手の力は緩まない。
「俺もビックリですよ」
「ノーマルの俺から見ても素敵な感じの人じゃないか。よかったな!」
「でしょう? 見た目通り誠実で男として格好良くて、俺のことをすごく理解してくれる優しい彼氏なんです」
ユキくん……?
以前会社の女の子の前で惚気てくれたこともあったが……とっさにこんな言葉が出るってことは、多少なりとも俺にそういう魅力を感じてくれている、ということか?
あぁ、どうしよう。嬉しすぎて余裕のある彼氏面が保てなくなりそうだ。
だめだ。幸せをかみしめるのは後だ。
「そうか。ひーくんがゾッコンなんだな。そうかぁ。よかったなぁ」
ユウイチさんはうんうんととても嬉しそうに頷いていて、ここは笑顔で肯定する程度でもいいんだろうが……どうにも気持ちがおさまらなかった。
「告白は俺からですけどね。いつも物事を楽しくポジティブにとらえて、笑顔でいてくれるところが素敵だと思っています」
「セイジさん……」
「うんうん。こいつ、顔が良いから笑顔だと特にいいですよね!」
……ん?
なんか、少し引っかかる言い方のような……。
「ゲイでも顔が良いとちゃんと恋人ができるんだな。よかったな。これで俺も何の心配もいらずに新婚旅行に行ける」
「そういえば、先月式でしたよね。SNSで見ました。おめでとうございます。今からですか?」
「おう。向こうに嫁待たせてるんだ。北欧でオーロラ見てくる」
嫁……よく見れば左手の薬指に指輪がはまっていた。
やっぱりノンケか。
「風邪ひかないように気を付けてくださいね。それじゃ寒いんじゃないですか? うちの製品買ってくれたらいいのに」
「鍛えているから心配すんなって。それにこれも老舗メーカーのやつで結構高かったんだぞ。お前のとこほどではないけどな」
襟をつかんでこちらに見せつけてくるブルゾンは、確かに有名なメーカーの物で丈夫そうではある。
ただ、最近はこのメーカーよりも人気のアウトドアメーカーがあったはずで……あれ?
「確かに、ユウイチさんなら北極圏でも半袖短パンで行けそうですね」
「だろ? それじゃあ、そろそろ時間だから。行ってくるな!」
「行ってらっしゃい。パートナーの方にもよろしく」
「ははっ、ゲイの奴ってそういう言い回し好きだよな。じゃあな!」
塩顔のスポーツマンは人の良さそうな笑顔のまま去っていった。
なんだろう……。
決定的に嫌な言葉を言われたわけではないし、俺もゲイであることをオープンにしているので、あからさまに不快なことや不理解なことを言われることには慣れている。
しかし、ユウイチさんとのやりとりはどうにも……。
「セイジさんが一緒の時で……良かった」
「ユキくん?」
「ごめん、セイジさん。……ありがとう」
ユウイチさんの姿が見えなくなると、ユキくんはふぅとため息をついていつもの色気のある笑顔に戻った。
「……」
でも、まだ俺の手を握る力は強くて、気になることはたくさんあっても聞くことができなかった。
◆
「これ、俺の車」
ユキくんが自分の車で迎えに来てくれると聞いた時、勝手に「ミニとか軽のワゴンのような小さく可愛らしい車か、逆に真っ赤なオープンカーやスポーツカーに乗ってそう……だけど、仕事でも乗ると言っていたから普通にネイビーやシルバーのセダンとかなんだろうな」と想像していた。
でも実際はどれも違っていた。
「いいの乗ってるね。かっこいい」
国内トップメーカーの大型高級クロスカントリー車だ。
モータースポーツにも使われるアウトドア用のゴツイ車で、俺が乗っている国内メーカーのセダンより車高も値段も高い。白いボディには傷一つなくピカピカに磨かれているが、最新モデルではないので数年乗っている車だろう。
……今まで特に気にしたことはなかったが、ユキくんの余裕のある暮らしぶりや車、先ほどのやり取り……。
「こういう車だと会社から補助も出るから、頑張って買っちゃったんだよね。乗る機会が少ないのに」
「もしかして、ユキくんの勤め先って……」
「言ってなかった? えっと……このロゴ知ってる?」
スーツケースを後ろに積んで、俺が助手席に着いた後、ユキくんは運転席に座りながら車のキーに付いている革製のキーケースを指差した。
そこには、できて数年ながら高機能高級路線でアウトドアファンに大人気の新興アウトドアメーカーのロゴが刻印されていた。
「知ってるよ。アウトドア用品はあまり持っていないけど、ここ数年冬のインナーはお世話になってる」
「うちが特許とってる断熱インナー? 嬉しい、ありがとう♡」
確か、理系の大学生たちが在学中に開発・製品化した特殊繊維を使用している高機能インナーで、これがアウトドア関係なく爆発的に売れたことで本格的に起業し有名になったはずだ。そうか。ユキくんの先輩がその学生たちか。
「ユキくんとアウトドア用品ってあまりイメージが結びつかないな」
車が走り出し、ユキくんの細いキレイな腕が大きく武骨なハンドルを回す。
普段はどちらかというとシティ系の印象なのに……このギャップ、正直かっこいい。惚れ直す。
「今はそうだよね。でも、昔から父親とバックパック旅行や登山に行くことが多くて、男遊びを知るまでは、遊び=アウトドアだったんだよ。学生時代もアウトドアサークルに入っていたし」
「あぁ、そのサークルが就職の切っ掛けか」
「そう。みんないい人たちなんだよ。大学でゲイってオープンにしようと思えたのは、多様性に寛容でいい意味で他人に無関心なサークルの人たちのお陰。ゲイってカミングアウトしても、態度が変わらない人がほとんどだったしね」
空港の駐車場を出て、車が俺やユキくんが暮らす街へと向かう。
恋人関係の時しか楽しめない、この短いドライブを楽しみたい気持ちもあるが……。
「……さっきの、ユウイチさんも?」
ユキくんが嫌がりそうなのは解っていて、一歩踏み込んだ質問をする。
「あー……うん。そう」
少し気まずそうな返事だ。
訊かれたくないのかもしれないけど……
「……何かあったの?」
「うーん。あんまり気持ちのいい話じゃないんだよね。俺の黒歴史」
俺にしては珍しく、しつこく尋ねると、ユキくんはしばらく黙ってしまう。
ここで「だから内緒♡」といつものユキくんらしくはぐらかされれば引き下がるつもりでいた。
しかし……
「……黒歴史なんだけど……」
車が赤信号で止まる。
「ちょっとだけ……きく?」
ユキくんは俺の方を向きながら、珍しく自信なさげな顔で首を傾げた。
「聞かせて。ユキくんのことは、なんでも知りたい」
ごめんねユキくん。
今回の帰国前に、人生の先輩からアドバイスをもらったんだ。
『好きな子のことは、ちゃんと全部知って、まるごと愛してあげなきゃだめだよ? その子の素敵なうわべの部分だけ味わおうなんて虫のいいことを考えているうちは、絶対に恋人になれないから』
衝撃だった。
俺は、ユキくんの負担にならないようにとか、振られるのが怖いしとか言いながら、ユキくんをまるごと受け入れる覚悟が無かっただけなんだって見透かされているようで……。
だから今回の一週間の恋人の内に、ユキくんのことをもっと知りたいと思ったんだ。
恋人にしてもらおうなんて大それたことは思っていないが……いや、まぁ、それに関しても、これなら恋人になれるんじゃ?っていう秘策はある。それを提案できるかどうかは状況次第と思っていたが……。
とにかく、早速ユキくんのことを一つ知れそうな機会に「どんな話でも受け入れよう」と覚悟を持ってユキくんの横顔を見つめた。
普段は「ユキ」で通しているユキくんだが、恋人ごっこの同棲の時にお互い軽く個人情報を伝えていて……確かユキくんの本名の前の方を取れば「ひーくん」と呼ばれてもおかしくはない。
「ユウイチさん?」
ユキくんが、名前を呼んだ男の方を向いて、少し上擦った声で名前を呟いた。
どうやらゲイコミュニティ以外の知り合いか。
だったら俺とイチャついているのはまずいだろう。
肩から手を離した方が良さそうだな……え?
「……」
「……?」
ユキくんが肩に回った俺の手に、自分の手の平を重ねる。
その手には妙に力が入っていて……ユキくん?
「おう! 久しぶりだな!」
近寄ってきた男は、ユキくんより少し年上に見える、ガタイの良いいかにもスポーツマンといった明るい笑顔の男だった。服装はデニムにアウトドアブランドのブルゾンといったラフなもので……これは完璧に勘だが、ゲイではなさそうだ。
なんとなく、なのでゲイの可能性が無いわけではないが……俺はこの勘を外したことが無い。
「こんなところで会うなんて偶然だな! 旅行か?」
そして、遠慮なく近づいてきた男の顔は、あっさりした塩顔だが、整っていて爽やかで……。
……。
……これは……。
ユキくんの好きそうな体に、ユキくんの好きそうな顔が乗っている。
「違いますよ。海外出張に行っていた彼氏のお迎えなんです」
「彼氏……?」
ユキくんは落ち着いた笑顔でそんなことを言うが……嘘ではないが……会社の人にも俺を彼氏だと言ってくれたことはあるが……。
俺の手に重なったユキくんの手の力がまた強くなった。
これは……こういうことでいいんだよな?
「初めまして。お付き合いしています。吉崎です」
ビジネスマンらしく背筋を伸ばして、営業スマイルを浮かべて、堂々と挨拶をすると、相手の男はなぜかとても嬉しそうに笑った。
……ユキくんとどういう関係なんだ?
「初めまして! 潮見ユウイチです。ひーくんとは同じ大学で学年は一つ上だけどサークルで一緒だったんですよ」
「あぁ、よく話してくれている会社の?」
よく、というのは嘘だ。一度「大学のサークルの先輩たちが立ち上げた会社で働いている」と聞いたのを、しっかり記憶に刻んでいただけだ。
でも、まるでユキくんからは何でもよく聞いている彼氏らしく振る舞うと、どうやら正解だったらしく、ユキくんも笑顔で俺の方を向いて返事をした。
「ううん。そのサークルだけどユウイチさんは同じ会社じゃなくて別の会社。ほら、うちの社長と大喧嘩した先輩だよ」
「あぁ、あの方か」
そんな話は知らないが、笑顔で話を合わせておいた。
俺たちのやり取りがユウイチさんとやらにどう見えているのか心配になって視線を彼に戻すと……。
「その話は忘れてくれよ~! それにしても、ひーくんに彼氏ができるなんてなぁ。ビックリした」
屈託のない、人の良さそうな笑顔だ。
悪い反応ではなさそうなのに、ユキくんの手の力は緩まない。
「俺もビックリですよ」
「ノーマルの俺から見ても素敵な感じの人じゃないか。よかったな!」
「でしょう? 見た目通り誠実で男として格好良くて、俺のことをすごく理解してくれる優しい彼氏なんです」
ユキくん……?
以前会社の女の子の前で惚気てくれたこともあったが……とっさにこんな言葉が出るってことは、多少なりとも俺にそういう魅力を感じてくれている、ということか?
あぁ、どうしよう。嬉しすぎて余裕のある彼氏面が保てなくなりそうだ。
だめだ。幸せをかみしめるのは後だ。
「そうか。ひーくんがゾッコンなんだな。そうかぁ。よかったなぁ」
ユウイチさんはうんうんととても嬉しそうに頷いていて、ここは笑顔で肯定する程度でもいいんだろうが……どうにも気持ちがおさまらなかった。
「告白は俺からですけどね。いつも物事を楽しくポジティブにとらえて、笑顔でいてくれるところが素敵だと思っています」
「セイジさん……」
「うんうん。こいつ、顔が良いから笑顔だと特にいいですよね!」
……ん?
なんか、少し引っかかる言い方のような……。
「ゲイでも顔が良いとちゃんと恋人ができるんだな。よかったな。これで俺も何の心配もいらずに新婚旅行に行ける」
「そういえば、先月式でしたよね。SNSで見ました。おめでとうございます。今からですか?」
「おう。向こうに嫁待たせてるんだ。北欧でオーロラ見てくる」
嫁……よく見れば左手の薬指に指輪がはまっていた。
やっぱりノンケか。
「風邪ひかないように気を付けてくださいね。それじゃ寒いんじゃないですか? うちの製品買ってくれたらいいのに」
「鍛えているから心配すんなって。それにこれも老舗メーカーのやつで結構高かったんだぞ。お前のとこほどではないけどな」
襟をつかんでこちらに見せつけてくるブルゾンは、確かに有名なメーカーの物で丈夫そうではある。
ただ、最近はこのメーカーよりも人気のアウトドアメーカーがあったはずで……あれ?
「確かに、ユウイチさんなら北極圏でも半袖短パンで行けそうですね」
「だろ? それじゃあ、そろそろ時間だから。行ってくるな!」
「行ってらっしゃい。パートナーの方にもよろしく」
「ははっ、ゲイの奴ってそういう言い回し好きだよな。じゃあな!」
塩顔のスポーツマンは人の良さそうな笑顔のまま去っていった。
なんだろう……。
決定的に嫌な言葉を言われたわけではないし、俺もゲイであることをオープンにしているので、あからさまに不快なことや不理解なことを言われることには慣れている。
しかし、ユウイチさんとのやりとりはどうにも……。
「セイジさんが一緒の時で……良かった」
「ユキくん?」
「ごめん、セイジさん。……ありがとう」
ユウイチさんの姿が見えなくなると、ユキくんはふぅとため息をついていつもの色気のある笑顔に戻った。
「……」
でも、まだ俺の手を握る力は強くて、気になることはたくさんあっても聞くことができなかった。
◆
「これ、俺の車」
ユキくんが自分の車で迎えに来てくれると聞いた時、勝手に「ミニとか軽のワゴンのような小さく可愛らしい車か、逆に真っ赤なオープンカーやスポーツカーに乗ってそう……だけど、仕事でも乗ると言っていたから普通にネイビーやシルバーのセダンとかなんだろうな」と想像していた。
でも実際はどれも違っていた。
「いいの乗ってるね。かっこいい」
国内トップメーカーの大型高級クロスカントリー車だ。
モータースポーツにも使われるアウトドア用のゴツイ車で、俺が乗っている国内メーカーのセダンより車高も値段も高い。白いボディには傷一つなくピカピカに磨かれているが、最新モデルではないので数年乗っている車だろう。
……今まで特に気にしたことはなかったが、ユキくんの余裕のある暮らしぶりや車、先ほどのやり取り……。
「こういう車だと会社から補助も出るから、頑張って買っちゃったんだよね。乗る機会が少ないのに」
「もしかして、ユキくんの勤め先って……」
「言ってなかった? えっと……このロゴ知ってる?」
スーツケースを後ろに積んで、俺が助手席に着いた後、ユキくんは運転席に座りながら車のキーに付いている革製のキーケースを指差した。
そこには、できて数年ながら高機能高級路線でアウトドアファンに大人気の新興アウトドアメーカーのロゴが刻印されていた。
「知ってるよ。アウトドア用品はあまり持っていないけど、ここ数年冬のインナーはお世話になってる」
「うちが特許とってる断熱インナー? 嬉しい、ありがとう♡」
確か、理系の大学生たちが在学中に開発・製品化した特殊繊維を使用している高機能インナーで、これがアウトドア関係なく爆発的に売れたことで本格的に起業し有名になったはずだ。そうか。ユキくんの先輩がその学生たちか。
「ユキくんとアウトドア用品ってあまりイメージが結びつかないな」
車が走り出し、ユキくんの細いキレイな腕が大きく武骨なハンドルを回す。
普段はどちらかというとシティ系の印象なのに……このギャップ、正直かっこいい。惚れ直す。
「今はそうだよね。でも、昔から父親とバックパック旅行や登山に行くことが多くて、男遊びを知るまでは、遊び=アウトドアだったんだよ。学生時代もアウトドアサークルに入っていたし」
「あぁ、そのサークルが就職の切っ掛けか」
「そう。みんないい人たちなんだよ。大学でゲイってオープンにしようと思えたのは、多様性に寛容でいい意味で他人に無関心なサークルの人たちのお陰。ゲイってカミングアウトしても、態度が変わらない人がほとんどだったしね」
空港の駐車場を出て、車が俺やユキくんが暮らす街へと向かう。
恋人関係の時しか楽しめない、この短いドライブを楽しみたい気持ちもあるが……。
「……さっきの、ユウイチさんも?」
ユキくんが嫌がりそうなのは解っていて、一歩踏み込んだ質問をする。
「あー……うん。そう」
少し気まずそうな返事だ。
訊かれたくないのかもしれないけど……
「……何かあったの?」
「うーん。あんまり気持ちのいい話じゃないんだよね。俺の黒歴史」
俺にしては珍しく、しつこく尋ねると、ユキくんはしばらく黙ってしまう。
ここで「だから内緒♡」といつものユキくんらしくはぐらかされれば引き下がるつもりでいた。
しかし……
「……黒歴史なんだけど……」
車が赤信号で止まる。
「ちょっとだけ……きく?」
ユキくんは俺の方を向きながら、珍しく自信なさげな顔で首を傾げた。
「聞かせて。ユキくんのことは、なんでも知りたい」
ごめんねユキくん。
今回の帰国前に、人生の先輩からアドバイスをもらったんだ。
『好きな子のことは、ちゃんと全部知って、まるごと愛してあげなきゃだめだよ? その子の素敵なうわべの部分だけ味わおうなんて虫のいいことを考えているうちは、絶対に恋人になれないから』
衝撃だった。
俺は、ユキくんの負担にならないようにとか、振られるのが怖いしとか言いながら、ユキくんをまるごと受け入れる覚悟が無かっただけなんだって見透かされているようで……。
だから今回の一週間の恋人の内に、ユキくんのことをもっと知りたいと思ったんだ。
恋人にしてもらおうなんて大それたことは思っていないが……いや、まぁ、それに関しても、これなら恋人になれるんじゃ?っていう秘策はある。それを提案できるかどうかは状況次第と思っていたが……。
とにかく、早速ユキくんのことを一つ知れそうな機会に「どんな話でも受け入れよう」と覚悟を持ってユキくんの横顔を見つめた。
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