142 / 190
本編3/ 「成長」の話
風俗店長と恋人【17】
しおりを挟む
数日前、一年間の転勤でフランスに住んでいる俺のところに、日本のゲイ友達ソウタくんが遊びに来てくれた。
「セイジさん、俺、ユキさんに告白しました」
「え?」
駅に迎えに行って顔を合わせた瞬間に言われた言葉に、思わず口元が引きつる。
ソウタくんと俺は同じ「ユキ」という男の子のことが好きで、ライバル関係ではあるけど、ユキくんはみんなのアイドルで誰の物にもならないから「ファン仲間」くらいの気持ちでいたのに。
ただ、告白の結果はソウタくんの表情から推測できた。
「振られて傷心なんで、なんか奢ってください」
「あぁ、美味い店予約してるから。今日は遠慮せず食べて、飲んで」
「話もいっぱい聞いてくださいよ……」
「いくらでも聞くよ。ほら、スーツケース持つから。先にホテルに荷物置きに行こう?」
その後、酒も料理も美味い気軽なフランス家庭料理店で傷心のソウタくんの慰労に徹したけど……
偉いなぁ、ソウタくん。
振られるのを解っていて、次に進むために告白するなんて。
俺なんてもう六年以上、臆病に本気の好きを誤魔化して生きているのに。
ライバルが振られて嬉しいというよりも、「尊敬」という気持ちが大きかった。
「でも、振られるのはいいんですよ。振られる覚悟だったんで。ただ……振られた後、ユキさんに避けられている気がするんですよね」
さんざんユキさんがどれだけ好きで振られたのがどれだけ悲しいかを語った後、不意に冷静になったソウタくんが呟いた。
「避けられている?」
ユキくんは告白をされるのも断るのも慣れているので、上手に断ってその後も良き遊び相手でいることがほとんどなのに。
「俺の顔見ると気まずそうにするし、最近テンバにもバーにも来ないし……。俺、なんか失敗したのかな……」
「ソウタくん……」
振られたことよりも悲しそうに、悔しそうに、奥歯を噛みしめた後、ソウタくんは無理やり作った笑顔でグラスのワインを煽った。
「でも、仕方ないですね。俺が悪いんだから。当分はユキさんの邪魔にならないようにテンバやバーはやめてアプリで恋活でもします!」
「……いい出会いがあるように祈ってるよ」
ソウタくんは一通り話終えると、翌日からのフランス観光と趣味のマラソン大会を満喫し、しっかり気持ちを切り替えて日本へと帰っていった。
一方俺は、ソウタくんが帰国してから数日、どうも落ち着かない。
年下がきちんと告白しているのに、俺は振られてしまうのが怖くて、中途半端な関係しか築けていないことへの情けなさ。
そして、振った相手と気まずくなるなんて今まではなかったのに、ユキくん、なんで……。
◆
「吉崎くん、今日は案内ありがとう。パリはよく行くんだけど、こっちは初めてだから助かったよ。そこのカフェで休憩していこうか」
「はい」
今日は休日にも関わらず、俺が務める食品会社のビジネスパートナーでもある、日本の大手輸入会社の社長の買物に付き合っていた。
いわゆる接待でもあるが、この社長は男の俺から見ても魅力的だと感じるスマートでかっこいいロマンスグレーのおじ様で、興した会社は一部上場にまでなった凄腕ビジネスマン。俺もこうなりたいと思える憧れの人生の先輩だ。喜んでお供させてもらっていた。
「旭野さんのセンスに触れる機会ができて、俺も楽しかったです」
「好き勝手買い物しただけだよ? それに、彼が好きそうなワインを見つけられたのは吉崎くんのお陰だしね」
カフェのテラス席に落ち着くと輸入会社の社長……旭野さんは、先ほどの店で買ったワインの紙袋を嬉しそうに撫でた。
日本で帰りを待つ彼氏さんへのお土産ということで、かなりこだわって選んでいたものだ。
そう。
仲良くなったきっかけは同じ「ゲイ」だからで、いつも高級ゲイバーで上手に男の子を口説いているところも憧れる理由の一つだ。
……まぁ、口説いている男の子の中に、俺の片想い相手でもあるユキくんもいるようなのだが……なるべく気にしないようにつとめている。おそらく、俺が住んでいる街周辺のゲイで、ユキくんと一度も関係していないゲイの方が少ないんだから仕方がない。こんな魅力的な人にも口説かれるなんて流石ユキくんだ。
「そういえば、いつのまに恋人ができたんですか?」
「ん? 彼とはもう七年……八年近いかな?」
「え?」
あれ?
旭野さん、その間もずっとゲイバーでナンパしてワンナイトしていたよな?
いや、これはきっと突っ込んじゃいけない所だな。大人としてスルーしておこう。
「そういえば吉崎くんは……?」
お互いゲイであることはオープンにしていたが、仕事相手ということもあって深い話はしていなかった。
ユキくんのことを知っている旭野さんに話すのも少し気まずい。
……でも……。
「実は六年も片想い中です。どうアプローチするか悩んでいて」
憧れの人生の先輩なら、上手に遊んでいる旭野さんなら、もしかしたらヒントをくれるんじゃないかと期待してしまった。
それほど、悩んでいたんだな、俺は。
「六年? ……じゃあ、参考に俺の惚気話でも聞く?」
「もしかして、今の彼氏さんとのなれそめですか? 聞いてい良いなら……ぜひお願いします!」
「じゃあ、少し長くなるけど聞いてもらおうかな」
ちょうど注文していたカフェオレが運ばれてきて、旭野さんは一口飲んでから話し始めた。
「これは、二〇年片想いしていた恋が実った話なんだけどね……」
「セイジさん、俺、ユキさんに告白しました」
「え?」
駅に迎えに行って顔を合わせた瞬間に言われた言葉に、思わず口元が引きつる。
ソウタくんと俺は同じ「ユキ」という男の子のことが好きで、ライバル関係ではあるけど、ユキくんはみんなのアイドルで誰の物にもならないから「ファン仲間」くらいの気持ちでいたのに。
ただ、告白の結果はソウタくんの表情から推測できた。
「振られて傷心なんで、なんか奢ってください」
「あぁ、美味い店予約してるから。今日は遠慮せず食べて、飲んで」
「話もいっぱい聞いてくださいよ……」
「いくらでも聞くよ。ほら、スーツケース持つから。先にホテルに荷物置きに行こう?」
その後、酒も料理も美味い気軽なフランス家庭料理店で傷心のソウタくんの慰労に徹したけど……
偉いなぁ、ソウタくん。
振られるのを解っていて、次に進むために告白するなんて。
俺なんてもう六年以上、臆病に本気の好きを誤魔化して生きているのに。
ライバルが振られて嬉しいというよりも、「尊敬」という気持ちが大きかった。
「でも、振られるのはいいんですよ。振られる覚悟だったんで。ただ……振られた後、ユキさんに避けられている気がするんですよね」
さんざんユキさんがどれだけ好きで振られたのがどれだけ悲しいかを語った後、不意に冷静になったソウタくんが呟いた。
「避けられている?」
ユキくんは告白をされるのも断るのも慣れているので、上手に断ってその後も良き遊び相手でいることがほとんどなのに。
「俺の顔見ると気まずそうにするし、最近テンバにもバーにも来ないし……。俺、なんか失敗したのかな……」
「ソウタくん……」
振られたことよりも悲しそうに、悔しそうに、奥歯を噛みしめた後、ソウタくんは無理やり作った笑顔でグラスのワインを煽った。
「でも、仕方ないですね。俺が悪いんだから。当分はユキさんの邪魔にならないようにテンバやバーはやめてアプリで恋活でもします!」
「……いい出会いがあるように祈ってるよ」
ソウタくんは一通り話終えると、翌日からのフランス観光と趣味のマラソン大会を満喫し、しっかり気持ちを切り替えて日本へと帰っていった。
一方俺は、ソウタくんが帰国してから数日、どうも落ち着かない。
年下がきちんと告白しているのに、俺は振られてしまうのが怖くて、中途半端な関係しか築けていないことへの情けなさ。
そして、振った相手と気まずくなるなんて今まではなかったのに、ユキくん、なんで……。
◆
「吉崎くん、今日は案内ありがとう。パリはよく行くんだけど、こっちは初めてだから助かったよ。そこのカフェで休憩していこうか」
「はい」
今日は休日にも関わらず、俺が務める食品会社のビジネスパートナーでもある、日本の大手輸入会社の社長の買物に付き合っていた。
いわゆる接待でもあるが、この社長は男の俺から見ても魅力的だと感じるスマートでかっこいいロマンスグレーのおじ様で、興した会社は一部上場にまでなった凄腕ビジネスマン。俺もこうなりたいと思える憧れの人生の先輩だ。喜んでお供させてもらっていた。
「旭野さんのセンスに触れる機会ができて、俺も楽しかったです」
「好き勝手買い物しただけだよ? それに、彼が好きそうなワインを見つけられたのは吉崎くんのお陰だしね」
カフェのテラス席に落ち着くと輸入会社の社長……旭野さんは、先ほどの店で買ったワインの紙袋を嬉しそうに撫でた。
日本で帰りを待つ彼氏さんへのお土産ということで、かなりこだわって選んでいたものだ。
そう。
仲良くなったきっかけは同じ「ゲイ」だからで、いつも高級ゲイバーで上手に男の子を口説いているところも憧れる理由の一つだ。
……まぁ、口説いている男の子の中に、俺の片想い相手でもあるユキくんもいるようなのだが……なるべく気にしないようにつとめている。おそらく、俺が住んでいる街周辺のゲイで、ユキくんと一度も関係していないゲイの方が少ないんだから仕方がない。こんな魅力的な人にも口説かれるなんて流石ユキくんだ。
「そういえば、いつのまに恋人ができたんですか?」
「ん? 彼とはもう七年……八年近いかな?」
「え?」
あれ?
旭野さん、その間もずっとゲイバーでナンパしてワンナイトしていたよな?
いや、これはきっと突っ込んじゃいけない所だな。大人としてスルーしておこう。
「そういえば吉崎くんは……?」
お互いゲイであることはオープンにしていたが、仕事相手ということもあって深い話はしていなかった。
ユキくんのことを知っている旭野さんに話すのも少し気まずい。
……でも……。
「実は六年も片想い中です。どうアプローチするか悩んでいて」
憧れの人生の先輩なら、上手に遊んでいる旭野さんなら、もしかしたらヒントをくれるんじゃないかと期待してしまった。
それほど、悩んでいたんだな、俺は。
「六年? ……じゃあ、参考に俺の惚気話でも聞く?」
「もしかして、今の彼氏さんとのなれそめですか? 聞いてい良いなら……ぜひお願いします!」
「じゃあ、少し長くなるけど聞いてもらおうかな」
ちょうど注文していたカフェオレが運ばれてきて、旭野さんは一口飲んでから話し始めた。
「これは、二〇年片想いしていた恋が実った話なんだけどね……」
14
お気に入りに追加
2,511
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる