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本編3/ 「成長」の話
風俗店長と恋人【15】
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家に帰ると、寝ていることも多いフミハルさんがまだ起きて出迎えてくれた。
「おかえり、トキくん」
「ただいま……こんな時間まで待っててくれたの?」
「明日午後出社で良いから、トキくんと一緒に寝坊しようと思って」
嬉しそうに言いながらフミハルさんの顔が近づいてくる。
帰宅や就寝時に気軽にしているキス。
いつもは喜んで受け入れるそれを、今日は……
「ごめんなさい!」
「……トキくん?」
反射的に顔を反らして、頭を下げて……そのまま玄関の上がり口に膝をついた。
「ごめんなさい……ごめんなさい、私……」
「トキくん? 落ち着いて」
フミハルさんも床に膝をついて、私の背中を優しく撫でてくれる。
本当に優しい人。
大好き。
でも……大好きだから……。
「……別れましょう」
私が震える声で意を決して言ったのに、フミハルさんは落ち着いた、やはり優しい声で背中を撫でながら返事をした。
「なんで?」
そうよね。何も聞かずに別れてくれるわけないわよね。
情けないけど、きちんと話さないと……。
「……今日、店の子に誘われて……」
「うん」
「断ったけど、その子に勃ったの」
「……うん」
「今日はなんとか未遂で済んだけど、次に誘われた時に断る自信が無いの。私、フミハルさんにこんなに愛されているのに、優しく極上のセックスをしてもらっているのに、他のセックスもしたくてたまらない」
言っていて自分が情けない。
ひどい男よね、私。
「こんなクズで変態の色情狂、愛してもらう資格ないわ」
だから別れましょう。
そう続けようと思って、きっぱりと最後の言葉くらい顔を見て言おうと思って顔を上げると、フミハルさんは不思議そうに首をひねっていた。
「えっと……むしろそういうトキくんが好きだけど?」
「え?」
「今更じゃない? 元々自由奔放に楽しそうにエッチする、妖艶なお色気キャラだよね」
「そうだったけど……それはボーイのころで……」
ボーイ時代は確かに。
でも、付き合ってからはちゃんとフミハルさん一筋だったのに。
「……確かに、お色気担当のトキくんを俺が独占できて、だんだん穏やかな表情になっていくのは……俺がそうさせているんだと思うと嬉しかった」
ほら。付き合うってそういうことでしょう?
「でもね、元々トキくんは仕事や趣味がセックスだって解っていて付き合っているんだよ? 俺は、付き合っているから仕事や趣味をやめろなんて言うような心の狭い男じゃないよ」
「フミハルさん……?」
なんで?
なんで笑顔なの?
なんで、そんなこと言えちゃうの?
「ごめんね。セックス大好きなトキくんが、我慢してまで俺のことを考えてくれていると思ってなかった。ちゃんと言えばよかった」
フミハルさんがいつもの笑顔のまま、いつもの優しい口調のまま、サラっと一言付け足した。
「俺以外とセックスしてきていいよ」
「……そんなのおかしいわよ。恋人同士なのに」
「そう? お互いの了解があればいいんじゃないかな? 犯罪でも何でもないと思うけど?」
「……でも……」
反論しかけたけど「でも」の続きが出てこない。
おかしい、と思う。思うんだけど……。
「ねぇトキくん、俺以外ともセックスしたいんだよね?」
「……したい」
「俺は色々な人とセックスするお色気むんむんのトキくんが見られるなら、別に他人とセックスしていてもいいよ」
「……でも」
でも、と言いながらもやはりそこに続く言葉は見つからない。
「俺のことは特別な恋人として好きなんだよね?」
「もちろん、誰よりも好きよ」
「俺もトキくんが誰よりも好き。恋人でいて欲しい」
「……っん」
今度は、私が口を開く前に、フミハルさんが嬉しそうにキスをしてくれた。
「だから、仕事や遊びのセックスOKで恋人続けようよ」
また唇を啄まれる。
「むしろ、俺がトキくんの自由を奪いたくない」
今度は頬に唇が触れる。
「俺が独り占めしてトキくんがトキくんらしくいられないよりも……」
次は目元に唇が触れる。
「トキくんがトキくんらしく楽しそうにしてくれている方がいい」
額に口づけた後、フミハルさんは少し顔を離して、もう二〇年前からずっと見ている優しい笑顔を向けてくれた。
……なによそれ、優し過ぎない?
寛容過ぎない?
私に都合よすぎない?
「ねぇ、俺が二〇年前からずっと好きな、エッチでかっこよくて、誰よりも真剣にセックスに取り組んでる素敵なトキくんでいてよ」
「フミハルさん……」
愛されている自覚はずっとあった。
でも、想像以上に愛情が深かったのね。
私の顔とか、頑張り屋さんな所とか、良いところだけを好きなんだと思っていたのに。
もっと私のどうしようもない一番私らしい部分まで、全部、まるごと愛してくれていたのね。
だったら私も……
「ねぇ、フミハルさんも口説いてナンパするの好きでしょ? 駆け引きのところ」
「そうだね」
「私はもうフミハルさんに口説き落とされて何言われても喜ぶだけで口説き甲斐がないでしょう? 口説くのは外でしてきていいわよ」
「俺の言葉で喜ぶトキくんを見るのも好きだけどね。じゃあ、お言葉に甘えて来週はゲイバーでナンパしようかな」
「エッチも、私との回数が減らないならいいわよ」
「じゃあ、週に一回くらいか……」
早速やる気だなんて、恋人としては嫉妬するところなのかもしれないけど……あぁ、意外と平気ね。
だってもう解っているもの。
どれだけフミハルさんが外で男遊びをしたとしても……
「でも、愛してるって言うのは私にだけ、ね?」
「あぁ、もちろん。言いたくなるのはトキくんだけだから」
私がフミハルさんの首に手を回すと、優しく背中を撫でていた手に力が込められて、お互いに体を抱き寄せる。
「愛してるよ。俺のエッチでかわいい彼氏のトキくん」
「私も、愛してる。フミハルさん」
久しぶりに、挨拶の軽いキスでも、セックス中の濃厚なキスでもない、ゆっくりと唇を重ねて体温を交換する長いキスをした。
他人から見たら、外で遊んでOKの恋人関係なんておかしいと思われるかもしれない。
倫理的には許されることじゃないかもしれない。
でも、これが一番私が私らしくいられる……フミハルさんが好きな私でいられる関係だってわかった。
もう情けない顔はしない。
全力で遊んで、全力でフミハルさんを愛す。
それだけ。
「おかえり、トキくん」
「ただいま……こんな時間まで待っててくれたの?」
「明日午後出社で良いから、トキくんと一緒に寝坊しようと思って」
嬉しそうに言いながらフミハルさんの顔が近づいてくる。
帰宅や就寝時に気軽にしているキス。
いつもは喜んで受け入れるそれを、今日は……
「ごめんなさい!」
「……トキくん?」
反射的に顔を反らして、頭を下げて……そのまま玄関の上がり口に膝をついた。
「ごめんなさい……ごめんなさい、私……」
「トキくん? 落ち着いて」
フミハルさんも床に膝をついて、私の背中を優しく撫でてくれる。
本当に優しい人。
大好き。
でも……大好きだから……。
「……別れましょう」
私が震える声で意を決して言ったのに、フミハルさんは落ち着いた、やはり優しい声で背中を撫でながら返事をした。
「なんで?」
そうよね。何も聞かずに別れてくれるわけないわよね。
情けないけど、きちんと話さないと……。
「……今日、店の子に誘われて……」
「うん」
「断ったけど、その子に勃ったの」
「……うん」
「今日はなんとか未遂で済んだけど、次に誘われた時に断る自信が無いの。私、フミハルさんにこんなに愛されているのに、優しく極上のセックスをしてもらっているのに、他のセックスもしたくてたまらない」
言っていて自分が情けない。
ひどい男よね、私。
「こんなクズで変態の色情狂、愛してもらう資格ないわ」
だから別れましょう。
そう続けようと思って、きっぱりと最後の言葉くらい顔を見て言おうと思って顔を上げると、フミハルさんは不思議そうに首をひねっていた。
「えっと……むしろそういうトキくんが好きだけど?」
「え?」
「今更じゃない? 元々自由奔放に楽しそうにエッチする、妖艶なお色気キャラだよね」
「そうだったけど……それはボーイのころで……」
ボーイ時代は確かに。
でも、付き合ってからはちゃんとフミハルさん一筋だったのに。
「……確かに、お色気担当のトキくんを俺が独占できて、だんだん穏やかな表情になっていくのは……俺がそうさせているんだと思うと嬉しかった」
ほら。付き合うってそういうことでしょう?
「でもね、元々トキくんは仕事や趣味がセックスだって解っていて付き合っているんだよ? 俺は、付き合っているから仕事や趣味をやめろなんて言うような心の狭い男じゃないよ」
「フミハルさん……?」
なんで?
なんで笑顔なの?
なんで、そんなこと言えちゃうの?
「ごめんね。セックス大好きなトキくんが、我慢してまで俺のことを考えてくれていると思ってなかった。ちゃんと言えばよかった」
フミハルさんがいつもの笑顔のまま、いつもの優しい口調のまま、サラっと一言付け足した。
「俺以外とセックスしてきていいよ」
「……そんなのおかしいわよ。恋人同士なのに」
「そう? お互いの了解があればいいんじゃないかな? 犯罪でも何でもないと思うけど?」
「……でも……」
反論しかけたけど「でも」の続きが出てこない。
おかしい、と思う。思うんだけど……。
「ねぇトキくん、俺以外ともセックスしたいんだよね?」
「……したい」
「俺は色々な人とセックスするお色気むんむんのトキくんが見られるなら、別に他人とセックスしていてもいいよ」
「……でも」
でも、と言いながらもやはりそこに続く言葉は見つからない。
「俺のことは特別な恋人として好きなんだよね?」
「もちろん、誰よりも好きよ」
「俺もトキくんが誰よりも好き。恋人でいて欲しい」
「……っん」
今度は、私が口を開く前に、フミハルさんが嬉しそうにキスをしてくれた。
「だから、仕事や遊びのセックスOKで恋人続けようよ」
また唇を啄まれる。
「むしろ、俺がトキくんの自由を奪いたくない」
今度は頬に唇が触れる。
「俺が独り占めしてトキくんがトキくんらしくいられないよりも……」
次は目元に唇が触れる。
「トキくんがトキくんらしく楽しそうにしてくれている方がいい」
額に口づけた後、フミハルさんは少し顔を離して、もう二〇年前からずっと見ている優しい笑顔を向けてくれた。
……なによそれ、優し過ぎない?
寛容過ぎない?
私に都合よすぎない?
「ねぇ、俺が二〇年前からずっと好きな、エッチでかっこよくて、誰よりも真剣にセックスに取り組んでる素敵なトキくんでいてよ」
「フミハルさん……」
愛されている自覚はずっとあった。
でも、想像以上に愛情が深かったのね。
私の顔とか、頑張り屋さんな所とか、良いところだけを好きなんだと思っていたのに。
もっと私のどうしようもない一番私らしい部分まで、全部、まるごと愛してくれていたのね。
だったら私も……
「ねぇ、フミハルさんも口説いてナンパするの好きでしょ? 駆け引きのところ」
「そうだね」
「私はもうフミハルさんに口説き落とされて何言われても喜ぶだけで口説き甲斐がないでしょう? 口説くのは外でしてきていいわよ」
「俺の言葉で喜ぶトキくんを見るのも好きだけどね。じゃあ、お言葉に甘えて来週はゲイバーでナンパしようかな」
「エッチも、私との回数が減らないならいいわよ」
「じゃあ、週に一回くらいか……」
早速やる気だなんて、恋人としては嫉妬するところなのかもしれないけど……あぁ、意外と平気ね。
だってもう解っているもの。
どれだけフミハルさんが外で男遊びをしたとしても……
「でも、愛してるって言うのは私にだけ、ね?」
「あぁ、もちろん。言いたくなるのはトキくんだけだから」
私がフミハルさんの首に手を回すと、優しく背中を撫でていた手に力が込められて、お互いに体を抱き寄せる。
「愛してるよ。俺のエッチでかわいい彼氏のトキくん」
「私も、愛してる。フミハルさん」
久しぶりに、挨拶の軽いキスでも、セックス中の濃厚なキスでもない、ゆっくりと唇を重ねて体温を交換する長いキスをした。
他人から見たら、外で遊んでOKの恋人関係なんておかしいと思われるかもしれない。
倫理的には許されることじゃないかもしれない。
でも、これが一番私が私らしくいられる……フミハルさんが好きな私でいられる関係だってわかった。
もう情けない顔はしない。
全力で遊んで、全力でフミハルさんを愛す。
それだけ。
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