ゲイのエッチなお兄さん

回路メグル

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本編3/ 「成長」の話

風俗店長と恋人【10】

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 客とボーイという関係じゃない、本名でのセックスは、どこが終わりか解らない。
 丁寧な二回目を終えてもまだ抱き合ったままで、時々キスをしたり、体を触りあったり、耳元で名前を囁いたり、くすぐったくなるようなスキンシップをもう一時間以上続けている。

「トキくんと、こんなセックスをできるとは思わなかった」
「私も。フミハルさんとたくさんセックスしたけど、今日が一番気持ちいい」

 狭いベッドで寝転んだまま、至近距離で見つめあう。
 仕事のサービスじゃないのにこんなセリフ、自分の口から出てくるとは思っていなかった。
 甘ったるいくすぐったい時間がとても幸せで……あぁ、私……私……

「トキくん、こんなセックスしたらもう我慢できない」
「フミハルさん?」

 私も更に甘い言葉を口にしてしまいそうになった瞬間、目の前の愛しい人も同じことを思っていてくれたようで……

「恋人になって欲しい」

 一歩先に言われた言葉に、同じ気持ちなんだというのが嬉しくて嬉しくて、抱き合った体を更に隙間なくぴったりとくっつけて頷いた。

「はい」

 今までにも短い期間だけど何度か彼氏がいたことはある。
 だけど、こんなにも「この人のことが好き」と思って恋人関係が始まったことはなかった。

 フミハルさんのことが好き。
 フミハルさんを大事にしたい。

 私、風俗ボーイを辞めてよかった。
 これからはフミハルさんだけを大事にできる。大事にする。

 この時は、心の底からそう思った。


      ◆


 お付き合いは順調。

 修行中は月に二回、フミハルさんがこっちに来てくれて、そのたびにデートをして、セックスをして、恋人同士らしく過ごしたし、会えない日も電話やメールでやりとりを重ねた。
 今までにさんざんセックスをしてきたし、二人ともいい大人なんだから、若い子みたいに浮かれてラブラブなバカップルみたいになることはなかったけど……まぁ、多少は浮かれたこともしたわ。
 手を繋いで歩くとか、裸エプロンとか……仕方ないじゃない。
 こんなに人を好きになるのが初めてだったんだから。


 そして、順調にお付き合いを重ねて五ヶ月ほどたったころ。
 修業期間を終えて、元々勤めていた店を引き継ぐために住み慣れた街に一年ぶりに帰ってきた。
 
「お邪魔します」
「今日からトキくんの家だから、次からは『ただいま』だよ」
「えぇ、そうね」

 帰ってきたと同時に、前の家を引き払って、フミハルさんの家で一緒に住むことになった。
 私もそれなりにいい部屋に住んでいたつもりだったけど、フミハルさんは流石大きな会社の社長さんで、絵に描いたようなタワーマンションの四十五階の4LDK。

「ちょうど一部屋使っていなかったし、トキくんが毎日側にいてくれるだけで嬉しい」
 
 そう言って生活費を受け取ってくれないのには困ったけど、代わりに家事をすると言っても、掃除は業者に入ってもらうし、洗濯もまとめてランドリーサービスに出すし……。

「私、養われたいわけじゃないんだけど」

 ハッキリとそう言えば、フミハルさんも少し考えてくれた。

「じゃあ、料理と食費お願いしていい? あとは体で払ってもらおうかな」
「体って……もうフミハルさんたら……♡」

 結局その「体で払ってもらう」というのも、別に普通のセックスで、こんなに良くしてもらっても立場は常に対等。
 生活や趣味で合わない部分もあったけど、二人ともいい大人だからちゃんと話し合って解決していけた。
 勿体ないくらい素敵な彼氏との、ただただ落ち着いた穏やかで幸せな日々。

 穏やかではあるけど、風俗ボーイになってからの約二〇年間とは真逆の生活は、新鮮で面白いとさえ思っていた。


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