ゲイのエッチなお兄さん

回路メグル

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本編3/ 「成長」の話

風俗店長と恋人【7】

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 少し大きめの黒いソファと木製のセンターテーブルを置くだけで圧迫感のあるリビングだけど、アサヒさんは興味深そうに部屋を見渡して

「キレイにしてるね」

 なんて笑顔で言って、ソファでくつろいでくれて安心した。

「何度も言い訳するけど、向こうの家はもっと広くて家具にもこだわっているのよ? こっちは仮住まいだから……」

 あまり距離の離れていないカウンターキッチンの中から返事をすると、アサヒさんは部屋から私へと視線を向ける。

「解ってるよ。でも、そんなに言われると向こうの家も見せてもらいたいな」
「あと五ヶ月くらいで戻れるから、そうしたら……」

 そうしたら、近くなるから、もっと頻繁に会える?
 向こうの家にも、来てくれる?

「ミマくん?」

 色々頭の中に言葉は浮かんだけど口に出せなくて、誤魔化すように苦笑いを浮かべた。

「あ、ごめんなさい。元の家、親戚に時々風通しを頼んでいるけど、一年も住まないとどうなるか心配で」
「それは確かに心配だね。家は住まないと傷むから」

 私のごまかしにもアサヒさんは優しくうなずいてくれて、もう変なことを考えないでちゃんとおもてなしをしようと料理の仕上げに集中した。




「ご馳走様。ミマくん、料理上手だね」

 センターテーブルに置いた料理が空になり、ソファに並んで座ったアサヒさんが丁寧に手を合わせる。
 元々料理は得意な方だけど、一週間かけて色々なレシピを試して作った料理は、我ながらいい出来だった。
 ……本当は失敗して硬くなり過ぎたローストビーフが冷蔵庫に隠してあるけど、慌てて作り直した方は美味しくできて良かったわ。

「一人暮らしが長いだけよ。でも、お口にあって良かった。それに、アサヒさんの持ってきてくれたワインが美味しかったからよ」
「取引先に無理言って限定販売のワインをゆずってもらった甲斐があったかな。料理と一緒に飲んだ赤ワインもいいんだけど、もう一本の白もいいんだよ。ゆっくり話しながら飲むにはピッタリだと思って」

 ゆっくりお話し、ね……。
 いつもならそうよね。食事をして、バーでおしゃべり。
 でも、それじゃあ部屋に誘った意味が無い。

「……アサヒさん」

 左手を、少し体をねじりながら右側に座るアサヒさんの太ももに置く。
 緊張で少し声が上擦った。
 あぁ、恥ずかしい。
 二〇歳ごろから遊びも仕事も男に媚びてセックスすることだったんだから、こんなの、何度もしているのに。
 
「ミマくん?」
 
 アサヒさんが少し驚いたような声で私を呼ぶ。
 いつも余裕があって、場慣れしている人で、積極的に迫るといつでもただ喜んでくれる人なのに。
 そんなに意外だった?
 そんなつもりじゃなかった?

 もう私と……する気、ない?

「アサヒさん、私……もう、そういう魅力……ない?」

 しまった。
 もっと、色気たっぷりにエッチにお誘いするつもりだったのに。
 アサヒさんを困らせたくないから、ただかわいく「エッチしたい」って。
 私らしくお誘いするつもりだったのに。
 しかも、アサヒさんの顔は更に驚きの色が濃くなる。

「あ、ご、ごめんなさっ……」
「ミマくん!」

 離れかけた私の体を、アサヒさんが力強く抱きしめてくれる。

「アサヒさん?」
「ごめん。不安にさせたね。ごめん」

 アサヒさんが、片手では力強く抱きしめたまま、もう片方の手で優しく背中や頭を撫でてくれる。
 あ……アサヒさんだ。
 久しぶりの、アサヒさんの体温だ。

「セックス抜きでもミマくんは魅力的で、一緒にいるだけで楽しいから……今まで店外デート禁止でゆっくりおしゃべりできなかった分たくさんおしゃべりしたかったし……」

 体温が気持ち良くて、耳元で囁かれるアサヒさんの声は優しくて、誠実で、強張っていた体の力が抜ける。

「もう、そういう仕事の人じゃないのに、今までのことを引きずって迫ったら嫌かなって」

 あぁ、やっぱり。
 多分優しくて紳士的なアサヒさんはそうだとは思っていた。
 思っていたのに、勝手に不安になった私がいけないのに。

「他の人なら嫌だけど、私、アサヒさんなら……」

 やっと素直に口が開いたのに、肝心の一言が緊張で出てこない。

「俺なら?」

 お店では、アサヒさんがお客さんだから、アサヒさんから求めてくれていた。
 でも今日は……もう、客とボーイじゃないから……

「私、アサヒさんなら……いえ、アサヒさんに……」

 私が一呼吸するのを、アサヒさんはちゃんと待ってくれたお陰で、もう震えない声で、きちんと言えた。

「抱かれたい」

 知り合って二〇年近くも経つのに、初めて私からアサヒさんをセックスに誘った。

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