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本編3/ 「成長」の話
風俗店長と恋人【4】
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大学生だったころのユキさん……当時は「ひーくん」と呼んでいたかわいい男の子と会うのをやめてからすぐ、私は風俗ボーイを引退した。
風俗店の経営側に回るためだから将来への不安もないし、セックスはプライベートでも楽しめるし、前向きな引退だったわ。
「ミマさん、卒業おめでとう、お疲れ様でした!」
「ミマさまのとろとろテク、もう味わえなくなるの寂しいけど、仕方ないか」
「ミマのおちんちんで結腸突いてもらうのが一番良かったのにぃ……最後に思い切りしてぇ♡」
「ミマさんなら経営もむいていると思います! 頑張ってください」
お客さんの中には引退を惜しんで、最後に指名して花束なんかをくれる人が何人かいた。
嬉しかったけど、寂しかった。
みんな、残念がったり寂しがったりする割に、引き留めはしないのよね。
四〇歳目前の風俗ボーイは「引退するのが当然」と思われているみたいだった。風俗を卒業する「めでたいこと」みたいな空気もあった。
ネコもタチもできるのに、ネコでの需要が減って、ほとんどがタチ役での指名になっていたし。
仕方ないのかもしれないけど……。
みんなの好意なんだろうけど……。
引退するのにこんなことをいうのは我儘かもしれないけど……。
泣いて引き留めてくれないの?
引退後も会おうなんて言ってくれないの?
引退報告のメールを送っても、返事が無い人も沢山いた。
もうこれでこの人たちとの関係はスッパリ終わりなんだなと思うと、寂しさと空しさで何とも言えなかった。
引退前から感じていたのよね。
二十歳頃から二〇年近く風俗ボーイをしていれば、飽きて指名しなくなるお客さんが何人も、何十人もいた。
指名しなくなる人全員が「飽きた」という理由ではないんだろうけど。
それでも、若い頃よりも年齢を重ねるごとに飽きられる……次の指名に繋がらないことが増えていく。
引退の時点では三年以上指名を続けてくれる人なんて、片手程度。
そんな常連さんの中にも、引退報告メールに返事すらしてくれない人もいた。
多くの人と関係をもつ風俗ボーイだから、出会いも多いけど別れも多い。
プライベートもそう。
顔が良い遊び人だから、上手に遊んでいるけど、モテるけど、深い関係にはならない。
……最初は本当にそうだった。
でも、だんだん。
沢山モテて、沢山出会って、沢山別れるうちに、深い関係になるのが怖かった。
深い関係になって飽きられて捨てられるのが怖くて、「飽きっぽいから」と手あたり次第に男の子と関係を持つことで、モテる私、気楽な男遊びの上澄みだけど楽しんでいた。
そんな自分に気付かないふりをしていたのに、「引退」で人が離れていくことで、蓋をしていた寂しさが目に付くようになっていた。
あーあ。
この頃の私、本当に面倒くさい男。
今思い出しても、この頃の自分が大嫌い。
◆
引退してすぐに、県外の別の店で風俗店長になるための修行を始めた。
店長は未経験だけど、ボーイとしての歴は長いから、覚えることも少なくて修行の意味があるのかないのか……上手くやれそうで良かったけど、イマイチやりがいを見いだせないでいた。
ボーイじゃないから仕事で会う人とは深い関係にならなくて、人肌が恋しいというか、求められている感じがしないというか……。
自分で選んだことなのに、早々にこんなこと言ったら、切っ掛けをくれたひーくんに笑われちゃうわね。
「ゲイバーでも行こうかしら」
そう思いながらもなかなか新しい街の新しいコミュニティに足を踏み入れる気になれずに、一ヶ月が経ったある日。
修行先の風俗店の事務所で経理関係の書類をまとめていると、スマートフォンが鳴った。
メッセージアプリでもメールでも電話でもなくて……
「SNSのダイレクトメッセージ?」
風俗ボーイ時代に営業用で作ったアカウントに、ダイレクトメッセージが届いたようだった。
辞めてから放置しているのに。
「たまにエッチな広告とかスパムが来るからそれかしら……」
一応SNSを確認すると、メッセージは風俗ボーイ時代の常連さんからだった。
『お店でお世話になっていたアサヒです。仕事で海外にいたので、ミマくんの引退に今朝気付きました。連絡が遅くなって申し訳ないんだけど、今からでも会って引退祝いをさせてもらえないかな?』
「……!」
アサヒさん!
嬉しくて、驚いて、座っていた椅子から転げ落ち、修行先の店長に笑われてしまった。
でも、仕方がないじゃない。
アサヒさんは私が風俗ボーイを始めてすぐくらいからの長い長い常連さん。
ペースは月に二回くらいだけど、海外出張の時は三ヶ月くらい来ない。
他にも長い付き合いのお客さんはいたけど、アサヒさんは唯一最後まで私をネコとして可愛がってくれていた。
年齢を重ねてタチとしての需要が増えても、ずっと私を楽しそうに抱いてくれた。
そんな人なのに、引退報告に返事が無かったから内心ショックだったんだけど……。
「そうか、海外……」
嬉しかった。
引退してもう一ヶ月以上経つのに、わざわざ連絡をくれて、会いたいと言ってくれるのが嬉しかった。
しかも、引退の時に営業用のスマホを解約して前のメールアドレスが使えなくなっていたから、わざわざSNSをチェックして連絡をくれたのよね……。
そこまで、私に会いたいと思ってくれたのよね……。
「アサヒさん……」
嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて……もう、他に言いようがないわ。
嬉しかった。
風俗店の経営側に回るためだから将来への不安もないし、セックスはプライベートでも楽しめるし、前向きな引退だったわ。
「ミマさん、卒業おめでとう、お疲れ様でした!」
「ミマさまのとろとろテク、もう味わえなくなるの寂しいけど、仕方ないか」
「ミマのおちんちんで結腸突いてもらうのが一番良かったのにぃ……最後に思い切りしてぇ♡」
「ミマさんなら経営もむいていると思います! 頑張ってください」
お客さんの中には引退を惜しんで、最後に指名して花束なんかをくれる人が何人かいた。
嬉しかったけど、寂しかった。
みんな、残念がったり寂しがったりする割に、引き留めはしないのよね。
四〇歳目前の風俗ボーイは「引退するのが当然」と思われているみたいだった。風俗を卒業する「めでたいこと」みたいな空気もあった。
ネコもタチもできるのに、ネコでの需要が減って、ほとんどがタチ役での指名になっていたし。
仕方ないのかもしれないけど……。
みんなの好意なんだろうけど……。
引退するのにこんなことをいうのは我儘かもしれないけど……。
泣いて引き留めてくれないの?
引退後も会おうなんて言ってくれないの?
引退報告のメールを送っても、返事が無い人も沢山いた。
もうこれでこの人たちとの関係はスッパリ終わりなんだなと思うと、寂しさと空しさで何とも言えなかった。
引退前から感じていたのよね。
二十歳頃から二〇年近く風俗ボーイをしていれば、飽きて指名しなくなるお客さんが何人も、何十人もいた。
指名しなくなる人全員が「飽きた」という理由ではないんだろうけど。
それでも、若い頃よりも年齢を重ねるごとに飽きられる……次の指名に繋がらないことが増えていく。
引退の時点では三年以上指名を続けてくれる人なんて、片手程度。
そんな常連さんの中にも、引退報告メールに返事すらしてくれない人もいた。
多くの人と関係をもつ風俗ボーイだから、出会いも多いけど別れも多い。
プライベートもそう。
顔が良い遊び人だから、上手に遊んでいるけど、モテるけど、深い関係にはならない。
……最初は本当にそうだった。
でも、だんだん。
沢山モテて、沢山出会って、沢山別れるうちに、深い関係になるのが怖かった。
深い関係になって飽きられて捨てられるのが怖くて、「飽きっぽいから」と手あたり次第に男の子と関係を持つことで、モテる私、気楽な男遊びの上澄みだけど楽しんでいた。
そんな自分に気付かないふりをしていたのに、「引退」で人が離れていくことで、蓋をしていた寂しさが目に付くようになっていた。
あーあ。
この頃の私、本当に面倒くさい男。
今思い出しても、この頃の自分が大嫌い。
◆
引退してすぐに、県外の別の店で風俗店長になるための修行を始めた。
店長は未経験だけど、ボーイとしての歴は長いから、覚えることも少なくて修行の意味があるのかないのか……上手くやれそうで良かったけど、イマイチやりがいを見いだせないでいた。
ボーイじゃないから仕事で会う人とは深い関係にならなくて、人肌が恋しいというか、求められている感じがしないというか……。
自分で選んだことなのに、早々にこんなこと言ったら、切っ掛けをくれたひーくんに笑われちゃうわね。
「ゲイバーでも行こうかしら」
そう思いながらもなかなか新しい街の新しいコミュニティに足を踏み入れる気になれずに、一ヶ月が経ったある日。
修行先の風俗店の事務所で経理関係の書類をまとめていると、スマートフォンが鳴った。
メッセージアプリでもメールでも電話でもなくて……
「SNSのダイレクトメッセージ?」
風俗ボーイ時代に営業用で作ったアカウントに、ダイレクトメッセージが届いたようだった。
辞めてから放置しているのに。
「たまにエッチな広告とかスパムが来るからそれかしら……」
一応SNSを確認すると、メッセージは風俗ボーイ時代の常連さんからだった。
『お店でお世話になっていたアサヒです。仕事で海外にいたので、ミマくんの引退に今朝気付きました。連絡が遅くなって申し訳ないんだけど、今からでも会って引退祝いをさせてもらえないかな?』
「……!」
アサヒさん!
嬉しくて、驚いて、座っていた椅子から転げ落ち、修行先の店長に笑われてしまった。
でも、仕方がないじゃない。
アサヒさんは私が風俗ボーイを始めてすぐくらいからの長い長い常連さん。
ペースは月に二回くらいだけど、海外出張の時は三ヶ月くらい来ない。
他にも長い付き合いのお客さんはいたけど、アサヒさんは唯一最後まで私をネコとして可愛がってくれていた。
年齢を重ねてタチとしての需要が増えても、ずっと私を楽しそうに抱いてくれた。
そんな人なのに、引退報告に返事が無かったから内心ショックだったんだけど……。
「そうか、海外……」
嬉しかった。
引退してもう一ヶ月以上経つのに、わざわざ連絡をくれて、会いたいと言ってくれるのが嬉しかった。
しかも、引退の時に営業用のスマホを解約して前のメールアドレスが使えなくなっていたから、わざわざSNSをチェックして連絡をくれたのよね……。
そこまで、私に会いたいと思ってくれたのよね……。
「アサヒさん……」
嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて……もう、他に言いようがないわ。
嬉しかった。
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