ゲイのエッチなお兄さん

回路メグル

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本編3/ 「成長」の話

風俗店長と恋人【3】

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「仲の良い男の子に告白されて、断ったら……その子もよく来るハッテン場とかゲイバーに行きにくいし、色々気にしちゃって」

 私への相談を決意したユキさんが、梅酒のソーダ割を舐めながらゆっくりと話し始める。
 ここまではミミちゃんからも聞いていたし、そうなるのも普通なのかもしれないけど……。

「私が昔レクチャーした通り、綺麗にフったんでしょ? じゃあ気にしなくていいじゃない。向こうだって気にされるより振られた後も仲良くしてくれる方が嬉しいと思うけど?」
「……うん」

 ユキさんがまた梅酒のグラスに口を付けるけど、中身はほとんど減らない。

「それに告白されて断るなんてよくあることなんじゃないの?」
「……まぁ。そうなんだけど……相手の男の子も『きっと断られると思っていたんですけど、言わずにはいられなくて、ごめんなさい。これからも気にせずヤりたい時は声かけてもらえると嬉しいです!』って言ってくれたし」

 ほら。その男の子がどんな子かは知らないけど、ユキさんが普段どう振る舞っているかはだいたいわかる。
 飽きっぽくて誰の物にもならない高嶺の花でしょう?
 それを周知しながらも楽しく上手に遊ぶからみんな遊んでくれる、みんなに好かれて、でも、本気になっても無駄ってスタンスの。
 だから相手も諦めてくれる。
 こんなのよくあること。
 だから、原因は相手じゃない。
 だとしたら……?

「……もしかして、ユキさん本当はその男の子とちょっと付き合いたいと思ってるとか?」

 振ったことを後悔している?
 ありそうな理由だと思ったけど、ユキさんは表情を変えずに首を横に振った。

「……その男の子は……そうやって相手を気遣えて、すごく優しくて、尊敬できる良い子だよ。でも……恋人になりたいなとは思えなかった」
「だったら、いつも通りなんじゃないの?」
「うん……いつも通り、なんだけど……」

 少し考え込んだ後、ユキさんは顔を上げて寂しそうに笑った。

「俺、恋人作れないんだなぁって」

「え?」

 恋人?
 確かに、モテたいとか、モテるためにどうしたらいいかとか言っていたけど、恋人が欲しいという意味ではないと思っていた。

「恋人、欲しかったの?」

 驚きを隠せずに言うと、ユキさんは悩まし気に首をひねった。

「俺って飽きっぽいし、色んな人とエッチしたいから、恋人は無理だしいらないと思っていたんだけど……」

 ユキさんが曖昧な笑顔のまま手元のグラスに視線を落とす。
 頬が少し赤い気がするのはお酒のせい?

「去年、恋人って良いなって思う機会があって、それからは遊んでくれる男の子たちのことも、『この子素敵だな、恋人だったらいいな』って思うようになったんだけど……」

 あぁ、またグラスを持つ指に力が入っている。

「でも……外見が理想通りで観ているだけでドキドキする男の子がいたけど、セックスがちょっと単調で飽きちゃうし」
「そう……」
「誰よりもセックスが上手くて、楽しいセックスをしてくれる人もいたけど、逆に下手なセックスもいいよね~って思っちゃうし」
「あぁ……」
「ペニスに大きなピアスが付いてる子もすっごく素敵だっだけど、癖のあるペニスって印象強いから年に一~二回で充分かなって感じだったし」
「へぇ……」
「今回告白してくれた男の子も、優しくて尊敬できる性格なのに……今年もう何回かエッチしたから、当分エッチする気になれないなって思っちゃうし……」
「……」
「セックスしている瞬間は……心が震えるくらいに、間違いなく楽しいのに」
「……」
「素敵だなと思う男の子の告白に、『はい』って言えない自分が、ちょっと嫌になっちゃって」

 ユキさんはずっとグラスを見つめたまま。
 なんでも上手に誤魔化す子だけど、今、目の前で言われている言葉は誠実な本心に思えた。
 ……内容はまぁ、不誠実なのかもしれないけど。

「しかも、知り合いの結婚報告なんかもあって……色々考えすぎたかな」

 あぁ、二〇代後半、そういう年齢かもしれないわね。

「そんな理由で相手の顔見てぎくしゃくしちゃうのは、完全に俺が悪いよね……」

 顔を上げたユキさんは笑顔だった。
 すごくぎこちない、わざとらしい笑顔。

「セックスが好きすぎて飽きっぽい自分が嫌になる」

 声まで震えて……そう。そうだったのね。
 確かに原因はあなたかもしれない。
 でもね……

「ねぇ、ユキさん」

 力のこもった指先を、私の指で軽く引っ掻いた。

「セックスが好きって悪いこと? 不倫や強姦でもないのに?」
「それは……」
「あと、飽きっぽいって設定、まだ続けるの?」
「っ!」

 ユキさんの体がビクっと跳ねたあと、観念したように表情が緩んだ。

「はぁー……ミマさんにはかなわないな。最初からバレてた?」

 やっぱりね。
 薄々は気づいていたのよ。

「最初からバレていたというよりは、最初は隠すのが下手だったんじゃない?」
「そっか……」

 最初は「飽きっぽい」と言いながらも関係を上手に終わらせるのが苦手で、引きずることもあったじゃない。
 きっと今は上手に隠している……いや、自分にもそう言い聞かせて、自然と飽きっぽいムーブをとっているのかもしれないわね。
 
「それにね……気持ち、わかるのよ。私もそうだから」
「え?」
「飽きっぽいと言いながら、本当は飽きられるのが、怖いのよ」

 私の言葉に緩んでいたユキさんの表情が引きつる。

「……っ」
「飽きられるより先に、自分が飽きちゃえば怖くないものね」
「……」
「飽きられるのが怖いから……ほんの少しでも相手が『飽きてきた』気がしたら、先に自分の気持ちが冷めちゃうようになるのよね」
「……」

 ユキさんはもう何も言えずに唇を噛んで俯いていた。
 多少は自覚があったのね……。

「薄々は気づいていたんだから、六年前の私がアドバイスすべきだったわね。ごめんなさい。でもね、あの頃はアドバイスなんてできなかったのよ。あの頃は私も似たような悩みを抱えていたから」
「あの頃は……? ってことは、今は?」

 ユキさんが縋るような視線を向けてくる。
 頼ってくれるのは嬉しいけど、この話は……まぁいいか。

「ふふっ。そうね……ちょっと私の惚気話でも聞く?」
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