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本編3/ 「成長」の話
風俗店長と恋人【2】
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「ミマさん、今日はお誘いありがとう♡」
ミミちゃんに相談された三日後、半個室の和風居酒屋で私とユキさんは向かい合って座っていた。
「折角再会したのに、ずっと忙しくてお誘いできていなくてごめんなさいね」
「俺の方こそ、ミマさんもお仕事があるのに時間を合わせてもらってごめんなさい」
仕事帰りの無難なスーツなのに、にこにこと本当に嬉しそうに笑うユキさんはたまらないくらいにかわいかった。
あぁ……やっぱりかわいい。
私好みにかわいく、男心をくすぐるように育てたんだから当然よね。
ユキさんと会うから昨日の夜は一番良いシートマスクを使って、ワンレンにしているロングヘア―にも高級ヘアオイルを塗り込んで、服も彼氏に一番褒められるセミオーダースーツとレトロ柄のシャツを着てきたけど……いくら私が一〇年くらい前に人気絶頂だったアイドルによく似たイケメンでも、細身のダンサー体形をキープしていても、目の前の魅力的な男の子に張り合う気持ちは起きなかった。
「いいのよ。店は最近ミミちゃんが頑張っているから。任せて来ちゃった」
「ミミくん、最近よくお店の話するなと思っていたんだけど……そっか、頑張ってるんだ。前から頑張っていたのに、えらいなぁ」
友だちの話になると、あまり男に媚びない自然な笑顔になるところ、本当にずるい。
大好きな彼氏がいなかったら口説いていたかもしれなわね。
「失礼します」
個室の障子が開いて、最初に注文したお酒とつまみが一通り運ばれてくる。
この店、一気に持ってきてくれるから良いのよね。
ゆっくり話し込むのに最適。
「乾杯しましょう?」
「うん。じゃあ……再会を祝って」
「乾杯」
私の梅酒の水割りのグラスと、ユキさんの梅酒のソーダ割のグラスがぶつかる。
一口飲めば飲みやすい甘めの梅酒で喉が潤った。
……早速本題に入ろうかしら。
「ねぇユキさん」
「なに?」
「最近ミミちゃんが悩んでいるみたいで、心配しているんだけど……」
「え? ミミくんが?」
ユキさんが心配そうに身を乗り出した。
友だち大好きなのね。
まぁ、いい友だちの選び方を教えてあげたのは私だし、ミミちゃんは私だってお気にいりのすごく良い子だけど。
そして、ごめんなさいね。
「何で悩んでいるのか問い詰めたら、ユキさん、あなたのことが心配で悩んでいるそうよ」
「あ……」
ユキさん、あなた「何か悩んでいるの?」なんて言ってもはぐらかすでしょう?
でも、大好きな友だちが悩んでいる、それが自分のせいだって言われたら、向き合うんじゃない?
あなたの友だちを思う優しいところに付け込んでごめんなさい。
「それは……」
「ミミちゃんも薄々理由は解っているみたいだったわよ。友だちだからこそ、自分には言いにくいんだろうなぁ~何とかしてあげたいのにどうしよう~って悩んでいたわ」
「ごめんなさい……」
ユキさんがグラスを握る手を強くする。キレイに整えた指先が白い。
「謝るのは私にじゃないでしょう。それに、ユキさんだって悪くないんじゃないの?」
「……」
ユキさんは戸惑いながら視線を逸らす。
言いにくいことなのかもしれないけど……。
「無関係の私のほうが話しやすいんじゃない? それに」
グラスを握ったユキさんの手に自分の手を重ねると、逸らしていた視線がゆっくりとこちらに向いた。
「私はあなたの師匠でしょ?」
「……でも、俺ももう成長したし」
「ユキさんなんて、初めて会った時の私の年齢よりまだ一〇歳も年下なんだから、まだまだよ」
「あ……」
あーあ。唇噛んじゃって、かわいくない顔。
美人がそんな顔して勿体ない。
「私から卒業して六年くらい? ずっと一人で頑張ってきたんでしょう? たまには頼りなさい」
もう少し体を前にしてユキさんの頭をぽんぽんと撫でると、強張っていたユキさんの表情が緩んだ。
「……ミマさん、俺……」
ミミちゃんに相談された三日後、半個室の和風居酒屋で私とユキさんは向かい合って座っていた。
「折角再会したのに、ずっと忙しくてお誘いできていなくてごめんなさいね」
「俺の方こそ、ミマさんもお仕事があるのに時間を合わせてもらってごめんなさい」
仕事帰りの無難なスーツなのに、にこにこと本当に嬉しそうに笑うユキさんはたまらないくらいにかわいかった。
あぁ……やっぱりかわいい。
私好みにかわいく、男心をくすぐるように育てたんだから当然よね。
ユキさんと会うから昨日の夜は一番良いシートマスクを使って、ワンレンにしているロングヘア―にも高級ヘアオイルを塗り込んで、服も彼氏に一番褒められるセミオーダースーツとレトロ柄のシャツを着てきたけど……いくら私が一〇年くらい前に人気絶頂だったアイドルによく似たイケメンでも、細身のダンサー体形をキープしていても、目の前の魅力的な男の子に張り合う気持ちは起きなかった。
「いいのよ。店は最近ミミちゃんが頑張っているから。任せて来ちゃった」
「ミミくん、最近よくお店の話するなと思っていたんだけど……そっか、頑張ってるんだ。前から頑張っていたのに、えらいなぁ」
友だちの話になると、あまり男に媚びない自然な笑顔になるところ、本当にずるい。
大好きな彼氏がいなかったら口説いていたかもしれなわね。
「失礼します」
個室の障子が開いて、最初に注文したお酒とつまみが一通り運ばれてくる。
この店、一気に持ってきてくれるから良いのよね。
ゆっくり話し込むのに最適。
「乾杯しましょう?」
「うん。じゃあ……再会を祝って」
「乾杯」
私の梅酒の水割りのグラスと、ユキさんの梅酒のソーダ割のグラスがぶつかる。
一口飲めば飲みやすい甘めの梅酒で喉が潤った。
……早速本題に入ろうかしら。
「ねぇユキさん」
「なに?」
「最近ミミちゃんが悩んでいるみたいで、心配しているんだけど……」
「え? ミミくんが?」
ユキさんが心配そうに身を乗り出した。
友だち大好きなのね。
まぁ、いい友だちの選び方を教えてあげたのは私だし、ミミちゃんは私だってお気にいりのすごく良い子だけど。
そして、ごめんなさいね。
「何で悩んでいるのか問い詰めたら、ユキさん、あなたのことが心配で悩んでいるそうよ」
「あ……」
ユキさん、あなた「何か悩んでいるの?」なんて言ってもはぐらかすでしょう?
でも、大好きな友だちが悩んでいる、それが自分のせいだって言われたら、向き合うんじゃない?
あなたの友だちを思う優しいところに付け込んでごめんなさい。
「それは……」
「ミミちゃんも薄々理由は解っているみたいだったわよ。友だちだからこそ、自分には言いにくいんだろうなぁ~何とかしてあげたいのにどうしよう~って悩んでいたわ」
「ごめんなさい……」
ユキさんがグラスを握る手を強くする。キレイに整えた指先が白い。
「謝るのは私にじゃないでしょう。それに、ユキさんだって悪くないんじゃないの?」
「……」
ユキさんは戸惑いながら視線を逸らす。
言いにくいことなのかもしれないけど……。
「無関係の私のほうが話しやすいんじゃない? それに」
グラスを握ったユキさんの手に自分の手を重ねると、逸らしていた視線がゆっくりとこちらに向いた。
「私はあなたの師匠でしょ?」
「……でも、俺ももう成長したし」
「ユキさんなんて、初めて会った時の私の年齢よりまだ一〇歳も年下なんだから、まだまだよ」
「あ……」
あーあ。唇噛んじゃって、かわいくない顔。
美人がそんな顔して勿体ない。
「私から卒業して六年くらい? ずっと一人で頑張ってきたんでしょう? たまには頼りなさい」
もう少し体を前にしてユキさんの頭をぽんぽんと撫でると、強張っていたユキさんの表情が緩んだ。
「……ミマさん、俺……」
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