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本編3/ 「成長」の話
風俗店長と恋人【1】
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「うーん……」
「ミミちゃん、眉間にシワ入っているわよ」
私が店長を務めるゲイ向け風俗店の待機室兼事務所。
デスクで事務仕事をする私の横で、大きなソファに寝転んだ、天使のようにかわいいけどスタッフの中で一番年上のベテランボーイ、ミミちゃんがスマートフォンの画面を見ながら唸り声を上げる。
「うーん……」
もう一度唸ってから、かわいい顔に良く似合う水色のルームワンピースの裾を翻しながらミミちゃんが体を起こした。
「店長、どうしよう」
「どうしたの? また客がストーカー化した?」
ミミちゃんって一部の男に熱烈にモテるせいで、ストーカーとかヤンデレ男とか、愛情が行き過ぎる系のもめごとが多いのよね。あしらい方は指導しているつもりだけど、天性の魅力はどうしようもなくて、気を付けていても年に二回くらいは警察か、うちがお金を収めている「組」の人に助けてもらっている。
「それは大丈夫。っていうか、俺のことじゃないんだよね~」
「ミミちゃんのことじゃない……? もしかして……」
ミミちゃんは可愛く人懐っこく見えて、ドライなところがあるから、親身になって心配したり悩んだりする友だちなんて限られている。
真っ先に思い浮かぶのは……
「ユキくんが最近ちょっとトラブル……でもないんだけど。元気ないというか、困ってそうというか、気まずそうというか……」
ミミちゃんがまた唸り声とため息の中間のような声を出す。
やはりユキさんなのね。
ユキさんは数年前に私がゲイとしての振る舞いや上手な男遊びのヤリ方を教えてあげた弟子のような男の子。
絶世の美人ではないけど、間違いなくみんなが美人と答えるキレイな顔で、ちょっと垂れ目で色っぽい。細くてスタイルの良いモデル体型なのに、腰回りとかに少し肉が付いていて触りたくなる感じも色っぽい。何より、本人がセックス大好きでしたくてたまらないということを隠さず全開にすることで、見ているだけで抱きたくなる、歩く卑猥物、エロテロリスト、リアルサキュバス、辞書で「妖艶」を引くと出てきそう……そんな男の子。
風俗店長として沢山の素敵でエッチな子を育ててきたけど、一番エッチなのは間違いなくユキさん。
ユキさんは風俗ボーイではないんだけど。
「あら……ユキさんって何でもそつなく上手くできそうなのに、何かあったの?」
「普段はそうなんだけど……」
ユキさんは元々人当たりが良いし、頭も良いし、私の指導もあって上手に遊ぶ子。
そのユキさんがトラブル?
「最近、よくご飯に行ったり遊びに行ったりする仲良しのゲイ仲間グループがいるんだけど」
「あぁ、時々SNSに写真を載せている子たちね」
「そう」
ミミちゃんとユキさん、それに髭熊系のかわいいネコの子と、俳優の月島ゲンジに似た塩顔イケメンに、派手なイケメン、あと……二人くらいいたかしら? ミミちゃんにしては珍しく、何度も同じメンバーの写真が上がるので印象に残っていた。
「その中のソウタくんっていう子がユキくんに告白して、『ごめんなさい』されて……それからユキくんは元気ないし、空気が気まずいんだよね~。みんなでご飯行くの楽しかったのに」
「なるほどね……」
グループ内で告って振られて気まずい。
ゲイに限らずよくある話ね。
気まずくなって当然。
でも、おかしいわね……。
「ユキくん、いつも通り上手に振っていたと思うし、ソウタくんも『仕方ないか~』って感じだったのに、ユキくんの方が引きずってるんだよね」
「ユキさんが? そのソウタくんって子が執着しているとか振られた腹いせで嫌がらせするとかではなく?」
「全然そんなことないよ~。むしろ遠慮してユキくんと会わないようにしているし、俺たちにも『雰囲気悪くしてごめんね』って謝ってくれるし、ユキくんを安心させるために早く次の恋を見つけなきゃって言ってたし……」
それは、ユキさんがちゃんと上手に振ったのね。
だったら、どうして?
「俺がユキくんに『どうしたの? 悩み聞くよ?』って声かけてもはぐらかされちゃうんだよね。俺だとソウタくんとも仲いいから話しにくいのかなー……」
ミミちゃんが一層表情を曇らせた後、小さな声でポツリと付け足した。
「ユキくん、もう一〇日もハッテン場に来てない」
「一〇日も……!?」
あのエッチな男の子が一〇日も?
ゲイバーやアプリで相手を探しているのかも知れないけど……。
「確かにそれは色々な意味で心配ね」
私も心配を隠さずに言うと、ミミちゃんが顔を上げた。
「店長ってユキくんの師匠なんでしょう? 弟子を助けてあげてよ……」
泣きそうな顔。
プレイ中の男心をくすぐる小悪魔的な泣き顔と違って、本当に泣きそうな少し子供じみたミミちゃんの顔に、思わず頷いてしまった。
「仕方ないわね……」
私の一番の弟子と大事な店の子が困っているのに、見て見ぬふりはできなかった。
私、結構お人よしなのよね。損な性格だわ。
「ミミちゃん、眉間にシワ入っているわよ」
私が店長を務めるゲイ向け風俗店の待機室兼事務所。
デスクで事務仕事をする私の横で、大きなソファに寝転んだ、天使のようにかわいいけどスタッフの中で一番年上のベテランボーイ、ミミちゃんがスマートフォンの画面を見ながら唸り声を上げる。
「うーん……」
もう一度唸ってから、かわいい顔に良く似合う水色のルームワンピースの裾を翻しながらミミちゃんが体を起こした。
「店長、どうしよう」
「どうしたの? また客がストーカー化した?」
ミミちゃんって一部の男に熱烈にモテるせいで、ストーカーとかヤンデレ男とか、愛情が行き過ぎる系のもめごとが多いのよね。あしらい方は指導しているつもりだけど、天性の魅力はどうしようもなくて、気を付けていても年に二回くらいは警察か、うちがお金を収めている「組」の人に助けてもらっている。
「それは大丈夫。っていうか、俺のことじゃないんだよね~」
「ミミちゃんのことじゃない……? もしかして……」
ミミちゃんは可愛く人懐っこく見えて、ドライなところがあるから、親身になって心配したり悩んだりする友だちなんて限られている。
真っ先に思い浮かぶのは……
「ユキくんが最近ちょっとトラブル……でもないんだけど。元気ないというか、困ってそうというか、気まずそうというか……」
ミミちゃんがまた唸り声とため息の中間のような声を出す。
やはりユキさんなのね。
ユキさんは数年前に私がゲイとしての振る舞いや上手な男遊びのヤリ方を教えてあげた弟子のような男の子。
絶世の美人ではないけど、間違いなくみんなが美人と答えるキレイな顔で、ちょっと垂れ目で色っぽい。細くてスタイルの良いモデル体型なのに、腰回りとかに少し肉が付いていて触りたくなる感じも色っぽい。何より、本人がセックス大好きでしたくてたまらないということを隠さず全開にすることで、見ているだけで抱きたくなる、歩く卑猥物、エロテロリスト、リアルサキュバス、辞書で「妖艶」を引くと出てきそう……そんな男の子。
風俗店長として沢山の素敵でエッチな子を育ててきたけど、一番エッチなのは間違いなくユキさん。
ユキさんは風俗ボーイではないんだけど。
「あら……ユキさんって何でもそつなく上手くできそうなのに、何かあったの?」
「普段はそうなんだけど……」
ユキさんは元々人当たりが良いし、頭も良いし、私の指導もあって上手に遊ぶ子。
そのユキさんがトラブル?
「最近、よくご飯に行ったり遊びに行ったりする仲良しのゲイ仲間グループがいるんだけど」
「あぁ、時々SNSに写真を載せている子たちね」
「そう」
ミミちゃんとユキさん、それに髭熊系のかわいいネコの子と、俳優の月島ゲンジに似た塩顔イケメンに、派手なイケメン、あと……二人くらいいたかしら? ミミちゃんにしては珍しく、何度も同じメンバーの写真が上がるので印象に残っていた。
「その中のソウタくんっていう子がユキくんに告白して、『ごめんなさい』されて……それからユキくんは元気ないし、空気が気まずいんだよね~。みんなでご飯行くの楽しかったのに」
「なるほどね……」
グループ内で告って振られて気まずい。
ゲイに限らずよくある話ね。
気まずくなって当然。
でも、おかしいわね……。
「ユキくん、いつも通り上手に振っていたと思うし、ソウタくんも『仕方ないか~』って感じだったのに、ユキくんの方が引きずってるんだよね」
「ユキさんが? そのソウタくんって子が執着しているとか振られた腹いせで嫌がらせするとかではなく?」
「全然そんなことないよ~。むしろ遠慮してユキくんと会わないようにしているし、俺たちにも『雰囲気悪くしてごめんね』って謝ってくれるし、ユキくんを安心させるために早く次の恋を見つけなきゃって言ってたし……」
それは、ユキさんがちゃんと上手に振ったのね。
だったら、どうして?
「俺がユキくんに『どうしたの? 悩み聞くよ?』って声かけてもはぐらかされちゃうんだよね。俺だとソウタくんとも仲いいから話しにくいのかなー……」
ミミちゃんが一層表情を曇らせた後、小さな声でポツリと付け足した。
「ユキくん、もう一〇日もハッテン場に来てない」
「一〇日も……!?」
あのエッチな男の子が一〇日も?
ゲイバーやアプリで相手を探しているのかも知れないけど……。
「確かにそれは色々な意味で心配ね」
私も心配を隠さずに言うと、ミミちゃんが顔を上げた。
「店長ってユキくんの師匠なんでしょう? 弟子を助けてあげてよ……」
泣きそうな顔。
プレイ中の男心をくすぐる小悪魔的な泣き顔と違って、本当に泣きそうな少し子供じみたミミちゃんの顔に、思わず頷いてしまった。
「仕方ないわね……」
私の一番の弟子と大事な店の子が困っているのに、見て見ぬふりはできなかった。
私、結構お人よしなのよね。損な性格だわ。
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