ゲイのエッチなお兄さん

回路メグル

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本編2

脱童貞イメージプレイ【3】

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 ユキさんが道の左の方を指差し、その場で他の四人と分かれて、薄暗い……でも車のライトや道の両側に並ぶ店の明かりで照らされた道を二人で並んで歩き始めた。
 憧れのユキさんとハッテン場以外で二人きりは緊張する。
 何かちょうどいい具合の世間話無いかな……

「タコ焼き、美味しかったですね。チーズとかベーコンとか、アリなんですね」
「俺はツナとトマトのが美味しかったな。舌やけどしそうになったけど」
「っ……!」

 無難な話題を振ったつもりなのに、ペロっと舌出すの、エロい……! 先ほどまで外していたシャツのボタンもネクタイも、今はもうしっかり無難なサラリーマン風に戻っているのに……それでもエロい。
 すぐに返事ができなくて視線を逸らすと、ユキさんの足が止まった。
 
「ね、ソウタくん」
「え?」

 俺も足を止めて振り返ると、ユキさんがあまりエロくない、真剣な顔で俺を見ていた。

「あのさ……」

 ……。
 ……?
 なんだ? 「あのさ」からの間が長い。
 言いにくいこと?
 俺、何かした?

「あの……ソウタくん……」

 真剣だったユキさんの顔に、少し色気というか、照れというか……あれ?
 この、ちょっと緊張してもじもじしている感じ……まさか……まさかとは思うけど……。
 告白……とか?

 ………………………………そんなわけないか。ユキさんだぞ。

 自分で自分の考えを否定していると、ユキさんが意を決したように口を開いた。

「あ、あのさ! ソウタくん、初体験あんまり楽しくなかったって言ってたよね?」

 ほら。
 告白じゃない。
 でも、初体験……?

「えぇ、まぁ……自信の無い部分を指摘されたからちょっとトラウマでした。でも、最近は吹っ切れて……ユキさんと楽しくエッチしたお陰ですよ」

 初体験で笑われた租チンだけど、最近は租チンには租チンなりの良さがあると解っている。
 それを教えてくれたのはユキさんだ。
 だから、苦い思い出ではあるけど、もうトラウマというほどではない。

「俺はただ一緒に楽しくセックスしただけだよ。でも、楽しむって大事だよね」
「はい」

 だから、ユキさんには感謝してもしきれないんだけど……。

「最近のソウタくん、すごく素敵だと思う。初めての子とか慣れていない子に優しく、エッチの楽しさを教えてあげて……そういうの、すごく……うん。素敵」

 ユキさんが一歩俺との距離を詰める。
 ……あれ?
 この照れた感じ、やっぱり……?
 え?

「ユキさん……それは、だから……ユキさんがきっかけをくれたから……」

 もう一歩。手を伸ばせば余裕で届く位置までユキさんが近づいてくる。
 ハッテン場やホテルで全裸で密着したこともあるのに……今日は服も着ているしまだまだ二人の間に距離があるのに……妙にドキドキする。

「でも、その後頑張っているのはソウタくんだよ。本当に素敵。えらい。だから……」
「……!?」

 ユキさんが俺の手を掴み、胸元へと引き寄せる。

「ユ、ユキさん!?」

 両手で俺の手を大切そうに握ったユキさんが、一呼吸おいて俺に笑顔を向けた。

「だから……俺と脱童貞やり直さない?」
「……へ?」
「ソウタくんのやりたかった脱童貞、やっちゃおうよ?」
「…………へ!?」
「……嫌?」
「……!」

 断られるとは微塵も思っていない笑顔で首を傾げられる。
 ユキさんと脱童貞?
 ユキさんで脱童貞?
 俺、もう童貞じゃないけど……。
 よく解らないけど……。
 こんなの……。

「ぜひお願いします!」


      ◆


 ラブホテルには様々な「シチュエーションルーム」がある。
 お城とか、電車とか、オフィスとか…………学校とか。

「……うわ、マジで保健室」

 ユキさんのお誘いから一週間ちょっと。
 土曜日の昼過ぎ、俺とユキさんは少し離れた街にあるラブホテルに、わざわざ予約してやってきていた。
 
「ちょっと狭いけど、ちゃんとベッドの周りにカーテンがあって、ベッドとか机もアルミ? スチール? 学校ってこうだったよね。本格的だな」
「そうですね。備品も揃っているし……」

 保健室をイメージしたラブホテルの部屋の中は、乳白色のカーテンに囲まれたパイプベッドとアルミの事務机と黒い事務イス、薬品や備品が入ったガラスのはまったスチール棚、着替え用のパーテーション、体重計に身長計、掃除用具の入ったロッカーが置いてあり、壁には時計、視力検査用の紙、「うがいをしましょう」「栄養バランス大丈夫?」などの健康を啓蒙するポスターまで貼ってある。
 きちんと消毒液の匂いがする。
 小学校、中学校、高校、大学、ついでに会社にもある保健室の平均をとって小さくしたような部屋。
 どう考えても保健室だ。
 俺、ここで今から……
 今から……
 あのタコパの日の帰り道、ユキさんに「脱童貞やり直さない?」と誘われた後、理想の脱童貞のシチュエーションを改めて聞かれて、二日考え込んで、達した結論である「保健室の先生に優しく指導してもらうイチャラブエッチ」をするんだ……!

「あ、この扉はトイレとシャワーだ。この中だけ普通のラブホ」

 奥にある「用具室」と書かれた無難なドアを開けたユキさんが、楽しそうに笑った。
 そう。
 楽しそうだ。
 ユキさんもここを……これからのことを楽しみにしてくれているんだ。

「そこは仕方ないですね。無いと困るし」
「そうだね」

 奥のドアを閉めたユキさんが、薬品の並ぶ棚へと向かう。
 棚の薬品のボトルの中はただの水らしく、「棚の薬品(水道水)や包帯、絆創膏、体温計、聴診器、血圧計はご自由にご使用ください ※目や口など粘膜への使用禁止」と部屋の入り口に貼ってあるポスターに書いてあった。

「色々使えそう。使っていい?」
「もちろんです。でも……」
「うん、わかってる。ちゃんとするから。じゃあ、さっそく着替えようか」
「はい!」

 ユキさんが手に持った大きめの紙袋を事務イスの上に置いて、コートのボタンを外しかけたところで俺の方を向いた。

「ね、着替えている途中で見たら面白くないだろうし、ソウタくん、入り口のほうで後ろ向いて着替えてもらっていい? それで、着替え終わったらプレイ始めよう」
「そうですね。解りました!」

 ユキさんに言われるままに部屋のドアまで戻って、バックパックを降ろす。
 着替えと言ってもあらかじめ半分着てきているんだけど……。
 マウンテンパーカーを脱げば、無難な長袖の白いシャツ。
 下半身は黒のスラックス。無難な白いくるぶし丈のソックス。無難すぎる革ベルト。
 これであとは持ってきた高校の頃の学ランを羽織って、スニーカーから白い上履きに履き替える。
 今日は髪型もあまりセットし過ぎず、あか抜けない感じにして、香水代わりに制汗剤を振ってきている。
 学ランのくすんだ金色のボタンをキッチリ締めて……鏡はないけど、家で試しに着てみたから解る。
 二五歳のわりに、童顔なお陰か……身長は平均だけど痩せ気味なせいか……俺は結構ちゃんと高校生っぽい。

「よし」

 学ランのカラーを確かめて、襟のフックもかける。
 リアルDKの時は学ランをこんなにきっちり着なかったな……。
 ちなみに、中学の頃のブレザーも残っていたし着られたんだけど、ユキさんにメールで相談したら「学ランが良い! 絶対に学ラン!」とリクエストをもらった。
 上手く言えないんだけど、リクエストしてもらえるってちょっと嬉しいんだよね。
 ユキさんも期待してくれてるんだって思えて。
 
「もういいよ」

 バックパックや上着を目立たない壁際に置いていると、後ろから声がかかった。
 いよいよだ。
 始まるんだ。
 俺の二回目の脱童貞が。
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