ゲイのエッチなお兄さん

回路メグル

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本編2

わぁ、好みの外見すぎ♡【1】

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【side セイジ】


 昼の休憩中、食後のコーヒーを片手にデスクに戻り、スマートフォンでSNSを確認する……フランスに転勤になってからの日課だ

「……」

 日本にいる間は、ゲイコミュニティの情報収集や仕事関連の情報収集に一日に一回覗く程度だったSNSだが、日本を離れてからは、仲の良いゲイ仲間たちの近況を知る大事なツールになっていた。

「セナはいつもすごいなぁ……」

 ジムで知り合ったゲイ仲間で、人気ホストのセナの投稿が一番上に表示されていた。
 投稿内容は「ずっと欲しかったハイブランドのバングルを買ったら、同じ日にお客様からも頂きました!重ね付けしてみたら良い感じ」なんていう、なんてことない……値段はなんてことなくはないが、内容としてはなんてことない投稿だが、すでにイイネが一〇〇〇以上ついている。このイイネはバングルのはまった手首よりも、手首の横に写っているセナの笑顔に対してのイイネだろう。俺も押しておくか。
 少しスクロールすれば、風俗ボーイであるミミくんの出勤予定の投稿があり、その下にはデカ盛りのカツ丼の写真が角度違いで二連続……ハルトとヨウくんが一緒に食事に行ったようだな。
 
「みんな、相変わらずだな」

 しばらくスクロールしてみんなの近況を微笑ましく眺めるが……あいにく、俺が一番見たい人物の投稿は、今日は無いみたいだ。

「……ユキくん」

 俺が一番近況を知りたい片想い相手である「ユキくん」はSNSのアカウントはあるものの、更新は一ヶ月に一回あるかどうか。それも大抵は、仲の良い妹さんと食べた料理や親御さんとの旅行先の風景、好きなアーティストのコンサート会場の写真がほとんど。ユキくんの顔が見られることはない。
 しかし……。

「……お、ありがとうソウタくん!」

 ゲイ仲間であるソウタくんはSNSの更新頻度が高く、食事に行った時に料理だけでなく一緒に行った人の顔も写して投稿する。
 そして、ソウタくんは俺の片想い相手であるユキくんを含めて友達が多く、頻繁に食事会を開催している。
 昨日……いや、時差があるから今日投稿された写真も、ソウタくんとユキくん、他にも俺が知っているゲイ友達がネコもタチも含めて一〇人ほど集まって乾杯をしている写真だ。
 店ではなく誰かの家か?
 大きなテーブルの真ん中にはホットプレートが二つ並んでいて……あぁ、タコ焼きパーティーか。
 そのテーブルの奥の方で、緩い癖のある黒髪の美形……ユキくんが写っていた。

「楽しそうだな。それに、元気そうでよかった」

 顔が見られて嬉しい気持ちと共に、寂しいとか羨ましいとかいう気持ちもわかなくはない。
 食事の場だからかあまりエロくない普通の笑顔で写真に納まっているユキくんは、この写真に写っているタチの男とはおそらく全員寝ている。
 だから大丈夫だ。
 
 …………矛盾していることを言っている自覚はある。

 全員と寝ているから大丈夫というのは、普通は心配だろう。
 でも、違うんだ。
 ユキくんはそれだけ自由奔放で、沢山の相手と色々なセックスをしたい子だから、逆に大丈夫。
 俺の物にはならないけど、誰の物にもならない。
 だから安心なんだ。

「それにしても、いつにも増していい笑顔だな」

 ユキくんは笑顔のことが多い。
 エロい笑顔だったり、普通に楽しそうな笑顔だったり、営業用の笑顔だったり……たまに、少し怖い笑顔だったりもするが、とにかくにこにこしている子で、そんなところが好きなんだが……それにしても楽しそうだ。タコ焼き、好きだったか?

「……ん? この男……」

 ふと、写真の中で唯一知らない男の顔に目が留まった。
 二十七歳のユキくんと同い年くらいで、少し可愛い感じの塩顔イケメン。
 パーマなのかくせ毛なのか、前髪を大きく分けた短めの髪型がオシャレというか、ミュージシャンっぽいというか……。

「……」

 あまりにも気になって、投稿のリプから彼のアカウントを探し、本人のSNSへ飛んで……。

「……」

 やっぱりそうだ。
 この男……あぁ、しかもこれは……。
 まずい……。
 こいつ……こいつは……!

「こいつ、ユキくんの好みの外見すぎる!!!!」

 思わず頭を抱えてしまった。
 でも、これはまずい。
 あまりにも、まずい。

 ユキくんの好みは「高身長細マッチョの塩顔イケメン♡」で、特に顔は、月島ゲンジという歌手兼俳優が世界一好きな顔と言っていた。ただ、月島ゲンジは細マッチョではない。かなりやせ型だ。
 そこでユキくんはいつも「月島ゲンジがもう少しガタイ良かったら最高なのに……あ、もちろん今もすごく素敵だけど」と彼の出演するドラマを観たりコンサートのチケットを取ったりしながら言っていた。
 その月島ゲンジに、このSNSの男はかなり似ていた。
 名前も違うし、年齢も月島ゲンジよりも若そうなので本人ではない。
 なにより……

「……イイ体しているじゃないか」

 俺が必死にジムで鍛えて、作り上げて維持している『ユキくん好みの細マッチョ』とほぼ同じ体格だ。

 つまり、ユキくん好みの顔が、ユキくん好みの体にくっついているわけだ。

「……」

 飽きっぽいユキくんは、俺が知っている数年間で一度も恋人がいなかったし、セックスも同じ相手と何度もするのが苦手だ。ついでに好きなボーイズグループやアイドルもころころ変わる。
 しかし、月島ゲンジのファンだけは六年……いや、俺と知り合う前かららしいのでもっとか? ずっと続いているらしい。

「……ユキくん……大丈夫……だよな?」

 急に浮かんだ不安を捨て去るように、月島ゲンジ似の男のSNSからソウタくんのSNSに戻り、ユキくんの笑顔をじっと眺めてから午後の業務に取り掛かった。
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