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本編1
俺にだって「初心者」の頃があるんだよ? 【7・思い出の中 】
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「セックスってこんなに気持ちよかったんだ……♡」
初めて会った日の「お試し」セックスの後、ひーくんはそんなことを言いながらスマートフォンで店に予約を入れてくれた。
そして一週間に一回、祝日があれば二回、店に通ってくれるようになって……。
ひーくんの上達はすさまじかった。
感度が良いから?
頭がいいから?
単にエッチが好きで好きで仕方がないから?
男が喜ぶフェラチオのやり方も、前立腺の場所を把握してそこをねだったり、自分でそこにあてたりすることも、相手のペニスの動きに合わせて内壁に力を入れることも、良い場所でちゃんと喘いで男を煽ることも、すぐに体に染みついた。
三ヶ月も通えば自分の体の使い方や、自分の体がどうしたら気持ちいいのか理解して、男のツボも理解して、上手なあしらい方も覚えて、風俗ボーイ並みのテクニックも身に着けて……私の教えることは無くなってしまった。
もう教えることは無い。
それってつまり……もう私以上。
それに気づいた時、思ってしまったの。
この子が欲しいなって。
◆
「ねぇ、ひーくん。もうすぐ四年生でしょう? 就活は?」
もう教えることは無いと思った日、プレイを始める前にベッドで服を脱がせながら尋ねてみた。
できるだけさりげなく。
世間話のように。
「あ、俺もう就職先決まってるんだ」
「あらそうなの? おめでとう」
おめでとうなんて言いつつ、内心すごくがっかりしていた。
決まっていなかったら……この店で働いてくれない? なんて言おうと思っていたから。
「どんなお仕事するの?」
「メーカーの広報とか販促とか、そんな感じ。サークルの先輩たちが立ち上げた会社なんだけど、去年から急に売り上げが伸びて人手が足りなくて困ってるからって呼ばれちゃって。春休みもインターンというかバイト? 手伝いに行く予定」
「へぇ、このご時世に忙しいなんていいじゃない」
「やることが多いからやりがいはありそう。それにお給料がすごく良いんだって♡」
やりがいとお給料……そんなの、もしうちの店で働いてくれたら、きっと……。
今の内ならもしかしたら、誘えば来てくれたりしないかしら……?
ダメで元々……言うだけ……
「ねぇ……」
「それと、気心の知れた先輩たちだから……」
ひーくんが少し遠いところを見ながらほほ笑んだ。
「みんな、俺がゲイだって解っていても普通に接してくれる、大事な人たちなんだ」
見慣れた妖艶な笑顔でも、時々見せるかわいい笑顔でもなかった。
大学生の普通の男の子の笑顔だった。
「あ、だからそろそろミマさんのアドバイス通り黒髪にするのと……春休みは忙しくてお店来られないかも。ごめん」
「あぁ。いいのよ。ちょうど良かった」
名残惜しいけど、今のでもう心が決まったわ。
「実は私、ボーイやめるの。引っ越しも決まってる」
「え……?」
ひーくんがひどく驚いた顔をして言葉を失う。
そうよね。ショックよね。
でも本当はそんなにショックを受けなくていいのよ?
私、ボーイから店長になるの。
県外の他店で少し経営の修行をしてから、この店に戻るの。
ちょうど今の店長が他に経営している店に専念したいからって。
正直に言ってもいいんだけど……。
それを言うと、さっき言うのをやめた「うちで働かない?」を言ってしまいそうだったから。
内緒。
「……残念。俺、もっともっと教わりたかったのに」
「大丈夫よ。もう充分教えたわ。あなたはもう一人前の素敵なゲイよ」
「でも……」
「折角いい男に育ててあげたんだから、そんな顔しちゃダメよ。自信をもって」
私のために悲しそうな顔をしてくれるの、すごく嬉しいわ。
だけど、どんな時でも隙を見せちゃダメって言ったでしょう?
「……あぁ、でも最後に一つだけ」
「なに?」
泣きそうな顔のままひーくんが首を傾げる。
本当にダメよ? その顔、すぐに男が落ちちゃうから。
武器でもあるけど。
「ずっと言おうと思っていたんだけど、ひーくんってあだ名似合ってないわ。もっとかわいいあだ名に変えたら? 名前の別の部分をとるとか」
「……考えとく」
ひーくんが素直に頷いた。
これで言いたいことは全部言ったわ。
「じゃあ、最後のセックスしましょう? 今日は今まで教えたことの復習。確認しながら一緒に気持ちよくなりましょうね♡」
「……うん♡」
ひーくんはまだ少し納得できていないようだったけど、頷いて積極的に私のペニスを舐めて、挿入して、騎乗位で腰を振った。
最後のセックスは最高だった。
ひーくんの体に、テクニックに、溺れそうだった。
こんなセックス、もう客とボーイじゃない。
辞めるって決めて正解だった。
私はもうプロじゃいられない。
あーあ。私、こんな素敵な気持ちで風俗を辞めちゃうのね。
ひーくんのせい。
でも、ありがとう。
◆
結果的に、あの時ボーイを辞めて正解だったと思う。
ひーくんに色々と教えた経験から、店長としてボーイを上手に育てることができたし、経営の才能もあったみたい。
店は順調で、ミミちゃんをはじめ、ボーイにも慕われている。
仕事でエッチをしない代わりに、プライベートのエッチをより充実させることもできて、体の相性もライフスタイルも合うパートナーもできた。
きっと、あのままボーイを続けるよりも、素敵な人生を歩めていると思う。
「店長~! ユキくん帰るよ」
思い出に浸っていると、いつの間にかプレイを終えたミミちゃんとユキさんが受付にやってきていた。
少し悩んでから立ち上がって受付に向かうと、お会計をしながら二人が楽しそうに話していた。
「ミミくん今日もありがとう」
「ユキくん本当覚えが早いよね! 次回はバイブじゃない一〇ミリ入れようね!」
この子、本当にエッチの覚えがいいんだから……尿道三回目でもう一〇ミリ入るの? 嘘でしょ?
ま、まぁ……うちのミミちゃんの超絶テクニックのおかげだろうけど。
「あ、ミマさん!」
事務所の扉を開けて二人を眺めていると、私に気づいたユキさんがかわいらしい笑顔を向けてくる。
「ね……ミマさんはもう指名できないの? 成長した俺を見て欲しいんだけど……」
媚びすぎない、エッチがしたくてたまらないというかわいらしい笑顔。
いかにもな妖艶な顔での誘い方と、使い分けするように教えたのは私。
だって、こんな顔で誘われたかったから。
そして……
「俺、いまだにミマさんに初めて潮吹きさせられた時以上のセックスって、体験してないかも♡」
嬉しい。
素直に嬉しいわ。
でもね……あれはきっと潮吹きの経験が無い、セックスの初心者だったからそう感じただけ。
今の私としても、あんな感動はないはずよ。
だから……
「嫌よ。だって私、彼氏いるもの♡」
「そっか~。ミマさんみたいないい男、いつまでもフリーじゃないよね? だったら仕方ないか~残念!」
チラっとユキさんの後ろを見ると、ミミちゃんが困ったような顔でぎゅっと口を噤んでいた。
あなたは私の彼氏に会ったことがあるから知ってるわよね?
でも、プロだからきっとその口を開かないって信じてる。
ごめんなさい、ユキさん。
本当は、彼氏も私も性に奔放でちょっとした火遊びくらい怒られないの。
だけど……。
「ごめんなさいね♡」
お願い。
このまま私を、あなたの思い出の中の最高のお兄さんでいさせて。
初めて会った日の「お試し」セックスの後、ひーくんはそんなことを言いながらスマートフォンで店に予約を入れてくれた。
そして一週間に一回、祝日があれば二回、店に通ってくれるようになって……。
ひーくんの上達はすさまじかった。
感度が良いから?
頭がいいから?
単にエッチが好きで好きで仕方がないから?
男が喜ぶフェラチオのやり方も、前立腺の場所を把握してそこをねだったり、自分でそこにあてたりすることも、相手のペニスの動きに合わせて内壁に力を入れることも、良い場所でちゃんと喘いで男を煽ることも、すぐに体に染みついた。
三ヶ月も通えば自分の体の使い方や、自分の体がどうしたら気持ちいいのか理解して、男のツボも理解して、上手なあしらい方も覚えて、風俗ボーイ並みのテクニックも身に着けて……私の教えることは無くなってしまった。
もう教えることは無い。
それってつまり……もう私以上。
それに気づいた時、思ってしまったの。
この子が欲しいなって。
◆
「ねぇ、ひーくん。もうすぐ四年生でしょう? 就活は?」
もう教えることは無いと思った日、プレイを始める前にベッドで服を脱がせながら尋ねてみた。
できるだけさりげなく。
世間話のように。
「あ、俺もう就職先決まってるんだ」
「あらそうなの? おめでとう」
おめでとうなんて言いつつ、内心すごくがっかりしていた。
決まっていなかったら……この店で働いてくれない? なんて言おうと思っていたから。
「どんなお仕事するの?」
「メーカーの広報とか販促とか、そんな感じ。サークルの先輩たちが立ち上げた会社なんだけど、去年から急に売り上げが伸びて人手が足りなくて困ってるからって呼ばれちゃって。春休みもインターンというかバイト? 手伝いに行く予定」
「へぇ、このご時世に忙しいなんていいじゃない」
「やることが多いからやりがいはありそう。それにお給料がすごく良いんだって♡」
やりがいとお給料……そんなの、もしうちの店で働いてくれたら、きっと……。
今の内ならもしかしたら、誘えば来てくれたりしないかしら……?
ダメで元々……言うだけ……
「ねぇ……」
「それと、気心の知れた先輩たちだから……」
ひーくんが少し遠いところを見ながらほほ笑んだ。
「みんな、俺がゲイだって解っていても普通に接してくれる、大事な人たちなんだ」
見慣れた妖艶な笑顔でも、時々見せるかわいい笑顔でもなかった。
大学生の普通の男の子の笑顔だった。
「あ、だからそろそろミマさんのアドバイス通り黒髪にするのと……春休みは忙しくてお店来られないかも。ごめん」
「あぁ。いいのよ。ちょうど良かった」
名残惜しいけど、今のでもう心が決まったわ。
「実は私、ボーイやめるの。引っ越しも決まってる」
「え……?」
ひーくんがひどく驚いた顔をして言葉を失う。
そうよね。ショックよね。
でも本当はそんなにショックを受けなくていいのよ?
私、ボーイから店長になるの。
県外の他店で少し経営の修行をしてから、この店に戻るの。
ちょうど今の店長が他に経営している店に専念したいからって。
正直に言ってもいいんだけど……。
それを言うと、さっき言うのをやめた「うちで働かない?」を言ってしまいそうだったから。
内緒。
「……残念。俺、もっともっと教わりたかったのに」
「大丈夫よ。もう充分教えたわ。あなたはもう一人前の素敵なゲイよ」
「でも……」
「折角いい男に育ててあげたんだから、そんな顔しちゃダメよ。自信をもって」
私のために悲しそうな顔をしてくれるの、すごく嬉しいわ。
だけど、どんな時でも隙を見せちゃダメって言ったでしょう?
「……あぁ、でも最後に一つだけ」
「なに?」
泣きそうな顔のままひーくんが首を傾げる。
本当にダメよ? その顔、すぐに男が落ちちゃうから。
武器でもあるけど。
「ずっと言おうと思っていたんだけど、ひーくんってあだ名似合ってないわ。もっとかわいいあだ名に変えたら? 名前の別の部分をとるとか」
「……考えとく」
ひーくんが素直に頷いた。
これで言いたいことは全部言ったわ。
「じゃあ、最後のセックスしましょう? 今日は今まで教えたことの復習。確認しながら一緒に気持ちよくなりましょうね♡」
「……うん♡」
ひーくんはまだ少し納得できていないようだったけど、頷いて積極的に私のペニスを舐めて、挿入して、騎乗位で腰を振った。
最後のセックスは最高だった。
ひーくんの体に、テクニックに、溺れそうだった。
こんなセックス、もう客とボーイじゃない。
辞めるって決めて正解だった。
私はもうプロじゃいられない。
あーあ。私、こんな素敵な気持ちで風俗を辞めちゃうのね。
ひーくんのせい。
でも、ありがとう。
◆
結果的に、あの時ボーイを辞めて正解だったと思う。
ひーくんに色々と教えた経験から、店長としてボーイを上手に育てることができたし、経営の才能もあったみたい。
店は順調で、ミミちゃんをはじめ、ボーイにも慕われている。
仕事でエッチをしない代わりに、プライベートのエッチをより充実させることもできて、体の相性もライフスタイルも合うパートナーもできた。
きっと、あのままボーイを続けるよりも、素敵な人生を歩めていると思う。
「店長~! ユキくん帰るよ」
思い出に浸っていると、いつの間にかプレイを終えたミミちゃんとユキさんが受付にやってきていた。
少し悩んでから立ち上がって受付に向かうと、お会計をしながら二人が楽しそうに話していた。
「ミミくん今日もありがとう」
「ユキくん本当覚えが早いよね! 次回はバイブじゃない一〇ミリ入れようね!」
この子、本当にエッチの覚えがいいんだから……尿道三回目でもう一〇ミリ入るの? 嘘でしょ?
ま、まぁ……うちのミミちゃんの超絶テクニックのおかげだろうけど。
「あ、ミマさん!」
事務所の扉を開けて二人を眺めていると、私に気づいたユキさんがかわいらしい笑顔を向けてくる。
「ね……ミマさんはもう指名できないの? 成長した俺を見て欲しいんだけど……」
媚びすぎない、エッチがしたくてたまらないというかわいらしい笑顔。
いかにもな妖艶な顔での誘い方と、使い分けするように教えたのは私。
だって、こんな顔で誘われたかったから。
そして……
「俺、いまだにミマさんに初めて潮吹きさせられた時以上のセックスって、体験してないかも♡」
嬉しい。
素直に嬉しいわ。
でもね……あれはきっと潮吹きの経験が無い、セックスの初心者だったからそう感じただけ。
今の私としても、あんな感動はないはずよ。
だから……
「嫌よ。だって私、彼氏いるもの♡」
「そっか~。ミマさんみたいないい男、いつまでもフリーじゃないよね? だったら仕方ないか~残念!」
チラっとユキさんの後ろを見ると、ミミちゃんが困ったような顔でぎゅっと口を噤んでいた。
あなたは私の彼氏に会ったことがあるから知ってるわよね?
でも、プロだからきっとその口を開かないって信じてる。
ごめんなさい、ユキさん。
本当は、彼氏も私も性に奔放でちょっとした火遊びくらい怒られないの。
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