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本編1
ノンケの男にお仕置きする話 【7・男としての自信を無くす/前編】
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その日俺は浮かれていた。
いきつけのアイリッシュパブで、普段は手を出さない高い酒を注文するほど浮かれていた。
「ふふふっ! 俺がコレクションのリーダーか……!」
俺の勤め先は大手子供服メーカーで、その中の新興ブランドのデザイナーをしている。
そして今朝、「次のコレクションのリーダーを君に任せたい」と上司に言われたんだ。
まだ二十四歳の俺がリーダーに選ばれるのは異例の大抜擢。
小さいブランドの小さいコレクションではあるものの、一度リーダーになれば出世の道が見えてくる。
「あの気持ち悪いホモ野郎のお陰だな」
酒が不味くなるからあまり思い出したくはないけど、あいつがいなかったら今回のリーダー抜擢は無かったはずなので、一応同僚の顔を思い浮かべた。
ぽっちゃり熊さん系と言えば聞こえはいいが、チビデブの髭野郎で、そんな外見のくせにかわいい物が大好きな気持ち悪い奴。
俺が「給料が良いし、若いうちから昇進しやすい」と選んだこの会社で、「ここの子供服のデザインが大好きで絶対にここで自分のかわいいと思える最高の子供服を作りたくて入社しました!」と目をキラッキラさせながら言う面倒くさい奴。
本当はあいつがリーダーに抜擢されていたんだ。
ムカつくよな? 普段は「昇進に興味ない。それよりもかわいい服をたくさん作りたい!」なんて言っている同い年の同期入社に先を越されるのは。
だから、あいつの弱みを握れないか探ることにしたんだ。
◆
あいつがリーダーに指名された数日後の金曜日。
定時で会社のビルを出たあいつをこっそり尾行した。
毎週のように金曜日は飲みの誘いを断って定時で帰るから、何かあるんじゃないかと思ったんだ。
不倫しているとか、違法カジノに出入りしているとか、買春しているとか……何か会社に告発できるようなことをしていればいいのに。
そう思いながらそっと後をつけると、あいつは何駅か離れた場所の飲み屋街へ向かった。
大きな飲み屋街だから、あいつが好きそうなメルヘンチックなカフェバーや、ほっこり系の居酒屋なんかもある。綺麗なお姉さんのいる店もある。裏路地には風俗も沢山ある。
さぁ、どこに入るんだ?
「ゲイバー……?」
あいつが入っていったのは雑居ビルの三階のゲイバーだった。
あいつ、ゲイだったのか?
いや、ゲイバーに行くやつは全員ゲイなのか?
確証が持てないまま少し離れた場所から店の入り口を窺っていると、しばらくしてあいつが男と腕を組んで出てきた。
相手はマッチョという表現がぴったりのガタイがいい男で……うっわ……キスしやがった。
男同士で、しかもチビデブ髭男とマッチョで、気持ち悪い。
背筋がぞわぞわする。
って、気味悪がっている場合じゃなかった。
スマホのカメラを立ち上げ、あわてて写真を撮る。
シャッター音で気付かれないか心配だったけど、距離が離れていて、近くを幹線道路や線路が走っているこの場所では、気付かれることは無かった。
「……」
写真を撮った後、距離を開けて二人を追ったが、路地を曲がったところで見失った。
見失ったということは、この路地のどこかの店に入ったんだろう。
この路地は……ラブホ街だ。
「ははっ、ガチであいつ……ゲイか!」
ラブホってことは、あのチビデブ髭はこれからマッチョとヤるんだよな?
あいつゲイだったんだ。
気持ち悪い。
しかも、ゲイってことは将来子供なんかつくれないのに子供服デザイナー?
あんなマッチョとヤる奴がかわいいかわいい子供服デザイナー?
「……あんなホモ野郎に負けたのかよ、俺……」
妙に心がざわめいた。
「そうだ、さっきの写真……うわ」
スマートフォンで先ほどのキス写真を確認すると、想像以上に鮮明で、男二人が抱き合って舌まで絡めてキスしているところがしっかり写っていた。
「えっろい面。気持ち悪ぃ……」
やっぱり気持ち悪い。気持ち悪い……のに、すごく気持ちが良さそうなあいつの顔をついつい凝視してしまう。
イライラする。ムカムカする。
そうだ、ムカつく。
こんなホモ野郎に負けたなんて……!
やっぱりあいつがリーダーなんてふさわしくない。
「絶対にあいつをリーダーから引きずりおろしてやる!」
その日から何度かあいつを尾行し、ゲイバーで男を捕まえてラブホテルへ入る写真をいくつか収めることに成功した。
写真はスマホから会社の自分のパソコンへと保存し、今、残業のふりをして撮った写真を確認しているけど……五枚のラブホの入り口写真には、よく見れば毎回違う相手が写っている。全員似たガタイのマッチョだから気づかなかった。なんだよ。ゲイなだけではなく、ビッチかよ。ますます気持ち悪い。
「でも……これだけじゃ弱いよな」
LGBTとか何かが騒がれる昨今。ゲイだからと言って社内の立場を悪くはできない。
複数人と関係を持つのも、不倫や売春でなければ違法ではない。
「そうだ、セクハラされたってことにしよう。これだけ複数人とヤってるんだ。信憑性あるよな?」
キス写真に色々な男とラブホに入る写真。
これを撮った理由も「セクハラされたので何か弱みを握れないかと思って」でいいだろう。
セクハラを立証できなくても、これであいつのイメージは下がるよな?
「よし、社長含む全社員にメールを一斉送信……!」
ははっ!
やった。
やってやった。
「……気持ち悪い写真を見ることも、もうないな」
沢山撮ったあいつの写真はもう用済みだ。
これで、気持ちよさそうにキスをしている写真を見るたびにムラムラ……いや、ムカムカすることももうない。
◆
その後は俺の作戦通り。
ゲイだとバレたあいつは社内でも腫れもの扱いで、他のスタッフや他の部署との連携がうまくいかなくなっていった。
コレクションの仕事は孤立していては上手くできない。
進行は遅れて、周囲のスタッフからも苦情が出て、あいつはリーダーから外された。
そして後任は俺。
完璧だ。
上手くいった。
上手くいったはずなのに
「隣、大丈夫ですか?」
「あー、どうぞ」
一人で祝杯を挙げていたところに現れた妙にエロい美人のせいで、俺の計画どころか人生は狂ってしまった。
いきつけのアイリッシュパブで、普段は手を出さない高い酒を注文するほど浮かれていた。
「ふふふっ! 俺がコレクションのリーダーか……!」
俺の勤め先は大手子供服メーカーで、その中の新興ブランドのデザイナーをしている。
そして今朝、「次のコレクションのリーダーを君に任せたい」と上司に言われたんだ。
まだ二十四歳の俺がリーダーに選ばれるのは異例の大抜擢。
小さいブランドの小さいコレクションではあるものの、一度リーダーになれば出世の道が見えてくる。
「あの気持ち悪いホモ野郎のお陰だな」
酒が不味くなるからあまり思い出したくはないけど、あいつがいなかったら今回のリーダー抜擢は無かったはずなので、一応同僚の顔を思い浮かべた。
ぽっちゃり熊さん系と言えば聞こえはいいが、チビデブの髭野郎で、そんな外見のくせにかわいい物が大好きな気持ち悪い奴。
俺が「給料が良いし、若いうちから昇進しやすい」と選んだこの会社で、「ここの子供服のデザインが大好きで絶対にここで自分のかわいいと思える最高の子供服を作りたくて入社しました!」と目をキラッキラさせながら言う面倒くさい奴。
本当はあいつがリーダーに抜擢されていたんだ。
ムカつくよな? 普段は「昇進に興味ない。それよりもかわいい服をたくさん作りたい!」なんて言っている同い年の同期入社に先を越されるのは。
だから、あいつの弱みを握れないか探ることにしたんだ。
◆
あいつがリーダーに指名された数日後の金曜日。
定時で会社のビルを出たあいつをこっそり尾行した。
毎週のように金曜日は飲みの誘いを断って定時で帰るから、何かあるんじゃないかと思ったんだ。
不倫しているとか、違法カジノに出入りしているとか、買春しているとか……何か会社に告発できるようなことをしていればいいのに。
そう思いながらそっと後をつけると、あいつは何駅か離れた場所の飲み屋街へ向かった。
大きな飲み屋街だから、あいつが好きそうなメルヘンチックなカフェバーや、ほっこり系の居酒屋なんかもある。綺麗なお姉さんのいる店もある。裏路地には風俗も沢山ある。
さぁ、どこに入るんだ?
「ゲイバー……?」
あいつが入っていったのは雑居ビルの三階のゲイバーだった。
あいつ、ゲイだったのか?
いや、ゲイバーに行くやつは全員ゲイなのか?
確証が持てないまま少し離れた場所から店の入り口を窺っていると、しばらくしてあいつが男と腕を組んで出てきた。
相手はマッチョという表現がぴったりのガタイがいい男で……うっわ……キスしやがった。
男同士で、しかもチビデブ髭男とマッチョで、気持ち悪い。
背筋がぞわぞわする。
って、気味悪がっている場合じゃなかった。
スマホのカメラを立ち上げ、あわてて写真を撮る。
シャッター音で気付かれないか心配だったけど、距離が離れていて、近くを幹線道路や線路が走っているこの場所では、気付かれることは無かった。
「……」
写真を撮った後、距離を開けて二人を追ったが、路地を曲がったところで見失った。
見失ったということは、この路地のどこかの店に入ったんだろう。
この路地は……ラブホ街だ。
「ははっ、ガチであいつ……ゲイか!」
ラブホってことは、あのチビデブ髭はこれからマッチョとヤるんだよな?
あいつゲイだったんだ。
気持ち悪い。
しかも、ゲイってことは将来子供なんかつくれないのに子供服デザイナー?
あんなマッチョとヤる奴がかわいいかわいい子供服デザイナー?
「……あんなホモ野郎に負けたのかよ、俺……」
妙に心がざわめいた。
「そうだ、さっきの写真……うわ」
スマートフォンで先ほどのキス写真を確認すると、想像以上に鮮明で、男二人が抱き合って舌まで絡めてキスしているところがしっかり写っていた。
「えっろい面。気持ち悪ぃ……」
やっぱり気持ち悪い。気持ち悪い……のに、すごく気持ちが良さそうなあいつの顔をついつい凝視してしまう。
イライラする。ムカムカする。
そうだ、ムカつく。
こんなホモ野郎に負けたなんて……!
やっぱりあいつがリーダーなんてふさわしくない。
「絶対にあいつをリーダーから引きずりおろしてやる!」
その日から何度かあいつを尾行し、ゲイバーで男を捕まえてラブホテルへ入る写真をいくつか収めることに成功した。
写真はスマホから会社の自分のパソコンへと保存し、今、残業のふりをして撮った写真を確認しているけど……五枚のラブホの入り口写真には、よく見れば毎回違う相手が写っている。全員似たガタイのマッチョだから気づかなかった。なんだよ。ゲイなだけではなく、ビッチかよ。ますます気持ち悪い。
「でも……これだけじゃ弱いよな」
LGBTとか何かが騒がれる昨今。ゲイだからと言って社内の立場を悪くはできない。
複数人と関係を持つのも、不倫や売春でなければ違法ではない。
「そうだ、セクハラされたってことにしよう。これだけ複数人とヤってるんだ。信憑性あるよな?」
キス写真に色々な男とラブホに入る写真。
これを撮った理由も「セクハラされたので何か弱みを握れないかと思って」でいいだろう。
セクハラを立証できなくても、これであいつのイメージは下がるよな?
「よし、社長含む全社員にメールを一斉送信……!」
ははっ!
やった。
やってやった。
「……気持ち悪い写真を見ることも、もうないな」
沢山撮ったあいつの写真はもう用済みだ。
これで、気持ちよさそうにキスをしている写真を見るたびにムラムラ……いや、ムカムカすることももうない。
◆
その後は俺の作戦通り。
ゲイだとバレたあいつは社内でも腫れもの扱いで、他のスタッフや他の部署との連携がうまくいかなくなっていった。
コレクションの仕事は孤立していては上手くできない。
進行は遅れて、周囲のスタッフからも苦情が出て、あいつはリーダーから外された。
そして後任は俺。
完璧だ。
上手くいった。
上手くいったはずなのに
「隣、大丈夫ですか?」
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