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本編1
ノンケの男にお仕置きする話 【2・復讐開始/前編】
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マオちゃんから同僚のことを聴き出して、外見の特長やよく行く店、好きな物、行動パターン、性格、歴代の彼女……そんな情報を総合して復讐計画を練って一週間。
俺は一軒のアイリッシュパブにやってきた。
金曜の夜だから、広いけど薄暗く天井が低いせいで圧迫感を感じる店内は人が多く賑やかで、余計に息苦しさを感じる。普通のアイリッシュパブだから男も女もいるけど、客層はやや若めか。
「……」
さきほどマオちゃんからメールが来て「同僚が今日、この店に行くって話してた」と書いてあったからいると思うけど……あぁ、いた。
カウンターの端に、くすんだ金髪のツーブロックで黒縁の眼鏡をかけた眉も目も体も細い男が座っていた。なんとなくキツネっぽい。
マオちゃんと同い年だから二十四歳……より少し年上に見えるな。ちょっと神経質そうな感じもする。
まぁいい。間違いなさそうだ。
狙いを決めてカウンターに近づくと、同僚の男が座る隣のスツールを引いた。
「隣、大丈夫ですか?」
「あー、どうぞ」
あまり興味なさそうに俺を一瞥した男は、すぐに手元のスマートフォンに視線を落とした。
ま、ノンケの反応なんてこんなものだろう。
ここから俺がどう落とすかだよね。
とりあえずスツールに腰掛けてメニューを眺めたあと、あまり色気のない、自然な口調で隣の男に声をかけた。
「常連さんですか?」
「え? えぇ、まぁ」
「何飲んでるんですか? 俺、こういうところのお酒に詳しくなくて」
肩を竦めながら言うと、男は小馬鹿にしたような口調で琥珀色の酒が入ったグラスを持ち上げた。
「あぁ、これ? スコットランドのウイスキーですよ。この辺りでこの酒を仕入れているのはこのパブだけで、美味いけど結構強い酒ですね。あと、値段も結構するんで常連向けですよ。この店が初めてならラガーが良いんじゃないですか?」
偉そうに言っているけど、メニューにはちゃんと「スコットランドから特別ルートで届く、当店自慢のウイスキー! ※おすすめの飲み方は度数が高いのでお気を付けください」とも「初めての人&一杯目はまずコチラ! 当店人気ナンバーワンのラガー」とも書いてあって、自慢げに言うことではないと思うけど……仕方がない。
「じゃあそうします。すみません、ラガー一杯」
カウンターの中の店員に声をかけて、すぐに出てきたラガーを飲む。
良かった。普通に美味いラガーだ。
「へ~美味しい。流石常連さんが勧めるだけありますね。お酒、詳しくないから助かりました」
またスマートフォンに視線を落としていた男は、まんざらでもなさそうな顔を上げた。
第一段階は成功かな。
「まぁ、通っていれば自然に詳しくなりますよ」
「だといいんですが……あれ? その腕時計あのブランドの……そんな色ありました?」
男の腕にはまった派手な赤い文字盤の腕時計を指差す。
もちろん、マオちゃんから「あいつ、親戚の形見分けでもらった腕時計が自慢らしくて……飲み会のたびに見せびらかすんだ」という情報を聞いている。
「あぁ。十年前の限定モデルで、世界に三十本しかないんだよね」
「そうなんですね? 俺も……ほら、同じモデルの通常版なんですけど、そっちの方がかっこいいなぁ」
ジャケットの袖を捲って、手首にはめてきた同じモデルの文字盤が紺色の腕時計を見せつける。
……これでも百万円以上するから俺の私物ではなく、高級ゲイバーの常連のおじ様にお借りしたんだけど。
「あぁ。普段使いならそれも良いね。でも俺、これでもデザイナーだから。個性を大事にしたくてね」
……たまたま形見でもらったものだって知ってるけど、ここで笑ったらだめだ。
「え? デザイナー? どうりで髪型とか服とか、オシャレだなと思った!」
なるべく声に「すご~い!」という雰囲気をのせたけど、わざとらしかったかな……?
笑顔のまま、内心少し焦っていると、男はムカつくほど自慢げにペイズリー風のよく解らない柄の刺繍が入ったジャケットの襟を正した。インナーは有名ブランドのロゴがラメで大きく入っているTシャツで、下は量産系のストレートデニム。
その格好がオシャレかどうかは俺には判断できないけど、デザイナーって言っても子供向けのふりふりでファンシーでラブリーなブランドのデザイナーだよね?
大人のオシャレには関係ないような……。
だめだめ。気にしたら顔に出る。一回忘れよう。
「俺の個性がちゃんとオシャレに見えているなら、あなたも結構センスがあるよ。服も……それ有名ブランドのセットアップ? いいんじゃない? スタイルよく見える」
……うーん……。
なんだろう、友達の復讐とか抜きにして、この人苦手と言うか好みじゃないというか、感覚が合わない……いや……好みの人だったとしても気まずいからいいか。
「プロに褒められるなんて嬉しいな。でも、ついつい地味な色を選びがちなんだよね。何か派手な小物でも入れて遊びたいんだけど」
「あぁ、確かにね。顔周りとかもう少し明るくした方が良いよ。淡いピンクのスカーフでも巻いたら?」
……俺はデザイナーでもモデルでもないから、そのアドバイスが正しいのか解らない。
解らないけど……。
「淡いピンクのスカーフ? 想像つかないけどプロが言うなら……今度チャレンジしてみるね。ありがとう!」
「いえいえ」
「プロにアドバイスもらって何もしないのも悪いし、一杯奢らせて? 同じのでいい?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「すみません! こちらに同じのをもう一杯。あと俺もラガーを」
カウンターの中に声をかけた後、ジャケットのポケットに入れていたスマートフォンを取り出す。
「えっと、淡いピンクのスカーフ……? 忘れないうちにメモっとこう」
そんなことを言いながら、男には画面が見えないように気を付けてメールを一通送った。
そしてしばらく待っていると……
「あ……ちょっと仕事の電話なんで」
男がスマートフォンを片手にカウンターを離れて店の入り口へ向かった。
この賑やかな店内では通話がしにくいだろうし、俺に「デザイナー」とだけ言っているから子供服の話はしにくいのかもしれない。
……作戦通り♡
あいつが席を立つように、マオちゃんに会社の電話からかけてもらったんだよね。
そして……。
「おまたせしました」
運ばれてきた二つのグラスは俺が受け取って……店員や他の客から死角になるようにグラスを自分の体の前に置き、ウイスキーの方にこっそりと錠剤を指でつぶしながら入れた。
中身は……まぁ、ちょっとヤバイ薬。
ゲイバーの常連さんに詳しい人がいて、今日のために分けてもらった薬なんだけど……いつもその人が俺に言ってくれるんだよね「酒の席で絶対に自分のグラスから目を離すな。席を立った後は、新しい酒を頼め」って。
女の子がそういう被害にあうニュースもよく聞くし、気を付けている人は多いんじゃないかな?
でも、女の子だけじゃないんだよ?
男も、気を付けなきゃいけないからね?
今俺がやったことを見れば、説得力あるでしょう?
俺は一軒のアイリッシュパブにやってきた。
金曜の夜だから、広いけど薄暗く天井が低いせいで圧迫感を感じる店内は人が多く賑やかで、余計に息苦しさを感じる。普通のアイリッシュパブだから男も女もいるけど、客層はやや若めか。
「……」
さきほどマオちゃんからメールが来て「同僚が今日、この店に行くって話してた」と書いてあったからいると思うけど……あぁ、いた。
カウンターの端に、くすんだ金髪のツーブロックで黒縁の眼鏡をかけた眉も目も体も細い男が座っていた。なんとなくキツネっぽい。
マオちゃんと同い年だから二十四歳……より少し年上に見えるな。ちょっと神経質そうな感じもする。
まぁいい。間違いなさそうだ。
狙いを決めてカウンターに近づくと、同僚の男が座る隣のスツールを引いた。
「隣、大丈夫ですか?」
「あー、どうぞ」
あまり興味なさそうに俺を一瞥した男は、すぐに手元のスマートフォンに視線を落とした。
ま、ノンケの反応なんてこんなものだろう。
ここから俺がどう落とすかだよね。
とりあえずスツールに腰掛けてメニューを眺めたあと、あまり色気のない、自然な口調で隣の男に声をかけた。
「常連さんですか?」
「え? えぇ、まぁ」
「何飲んでるんですか? 俺、こういうところのお酒に詳しくなくて」
肩を竦めながら言うと、男は小馬鹿にしたような口調で琥珀色の酒が入ったグラスを持ち上げた。
「あぁ、これ? スコットランドのウイスキーですよ。この辺りでこの酒を仕入れているのはこのパブだけで、美味いけど結構強い酒ですね。あと、値段も結構するんで常連向けですよ。この店が初めてならラガーが良いんじゃないですか?」
偉そうに言っているけど、メニューにはちゃんと「スコットランドから特別ルートで届く、当店自慢のウイスキー! ※おすすめの飲み方は度数が高いのでお気を付けください」とも「初めての人&一杯目はまずコチラ! 当店人気ナンバーワンのラガー」とも書いてあって、自慢げに言うことではないと思うけど……仕方がない。
「じゃあそうします。すみません、ラガー一杯」
カウンターの中の店員に声をかけて、すぐに出てきたラガーを飲む。
良かった。普通に美味いラガーだ。
「へ~美味しい。流石常連さんが勧めるだけありますね。お酒、詳しくないから助かりました」
またスマートフォンに視線を落としていた男は、まんざらでもなさそうな顔を上げた。
第一段階は成功かな。
「まぁ、通っていれば自然に詳しくなりますよ」
「だといいんですが……あれ? その腕時計あのブランドの……そんな色ありました?」
男の腕にはまった派手な赤い文字盤の腕時計を指差す。
もちろん、マオちゃんから「あいつ、親戚の形見分けでもらった腕時計が自慢らしくて……飲み会のたびに見せびらかすんだ」という情報を聞いている。
「あぁ。十年前の限定モデルで、世界に三十本しかないんだよね」
「そうなんですね? 俺も……ほら、同じモデルの通常版なんですけど、そっちの方がかっこいいなぁ」
ジャケットの袖を捲って、手首にはめてきた同じモデルの文字盤が紺色の腕時計を見せつける。
……これでも百万円以上するから俺の私物ではなく、高級ゲイバーの常連のおじ様にお借りしたんだけど。
「あぁ。普段使いならそれも良いね。でも俺、これでもデザイナーだから。個性を大事にしたくてね」
……たまたま形見でもらったものだって知ってるけど、ここで笑ったらだめだ。
「え? デザイナー? どうりで髪型とか服とか、オシャレだなと思った!」
なるべく声に「すご~い!」という雰囲気をのせたけど、わざとらしかったかな……?
笑顔のまま、内心少し焦っていると、男はムカつくほど自慢げにペイズリー風のよく解らない柄の刺繍が入ったジャケットの襟を正した。インナーは有名ブランドのロゴがラメで大きく入っているTシャツで、下は量産系のストレートデニム。
その格好がオシャレかどうかは俺には判断できないけど、デザイナーって言っても子供向けのふりふりでファンシーでラブリーなブランドのデザイナーだよね?
大人のオシャレには関係ないような……。
だめだめ。気にしたら顔に出る。一回忘れよう。
「俺の個性がちゃんとオシャレに見えているなら、あなたも結構センスがあるよ。服も……それ有名ブランドのセットアップ? いいんじゃない? スタイルよく見える」
……うーん……。
なんだろう、友達の復讐とか抜きにして、この人苦手と言うか好みじゃないというか、感覚が合わない……いや……好みの人だったとしても気まずいからいいか。
「プロに褒められるなんて嬉しいな。でも、ついつい地味な色を選びがちなんだよね。何か派手な小物でも入れて遊びたいんだけど」
「あぁ、確かにね。顔周りとかもう少し明るくした方が良いよ。淡いピンクのスカーフでも巻いたら?」
……俺はデザイナーでもモデルでもないから、そのアドバイスが正しいのか解らない。
解らないけど……。
「淡いピンクのスカーフ? 想像つかないけどプロが言うなら……今度チャレンジしてみるね。ありがとう!」
「いえいえ」
「プロにアドバイスもらって何もしないのも悪いし、一杯奢らせて? 同じのでいい?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「すみません! こちらに同じのをもう一杯。あと俺もラガーを」
カウンターの中に声をかけた後、ジャケットのポケットに入れていたスマートフォンを取り出す。
「えっと、淡いピンクのスカーフ……? 忘れないうちにメモっとこう」
そんなことを言いながら、男には画面が見えないように気を付けてメールを一通送った。
そしてしばらく待っていると……
「あ……ちょっと仕事の電話なんで」
男がスマートフォンを片手にカウンターを離れて店の入り口へ向かった。
この賑やかな店内では通話がしにくいだろうし、俺に「デザイナー」とだけ言っているから子供服の話はしにくいのかもしれない。
……作戦通り♡
あいつが席を立つように、マオちゃんに会社の電話からかけてもらったんだよね。
そして……。
「おまたせしました」
運ばれてきた二つのグラスは俺が受け取って……店員や他の客から死角になるようにグラスを自分の体の前に置き、ウイスキーの方にこっそりと錠剤を指でつぶしながら入れた。
中身は……まぁ、ちょっとヤバイ薬。
ゲイバーの常連さんに詳しい人がいて、今日のために分けてもらった薬なんだけど……いつもその人が俺に言ってくれるんだよね「酒の席で絶対に自分のグラスから目を離すな。席を立った後は、新しい酒を頼め」って。
女の子がそういう被害にあうニュースもよく聞くし、気を付けている人は多いんじゃないかな?
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