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第11章 陰謀編
怪物
しおりを挟む<ヴァーンベック視点>
「グゥルゥオ&$#@!!」
不気味な咆哮だけじゃない。
叫びが空気の塊となってこっちに向かってくる。
まるで大風が吹くように。
「なっ! おっ?」
突然の大風に、全員の足が止まる。
咆哮は止まらない。
「*△#オオォォ$%□!!」
「くっ!」
「うっ!」
澱みの先から押し寄せる咆哮と大風。
その不気味な圧力に耐えること数瞬。
「〇▲%+ォォォ……」
止まった。
咆哮が止み、圧力が和らいでいく。
すると……。
「ん?」
澱みが晴れ、前方に通路が姿を現した。
「……」
「……」
「……」
明らかになった通路の上、俺たちの視界に入ってきたのは。
「グルゥ」
小さく唸る二足歩行の物体。
人とも獣とも思えない。
魔物のような怪物だ。
「……」
人を一回りほど大きくした巨体に、歪に発達した筋肉。
焦点の合っていない濁った瞳に、涎で汚れた口元。
原型を留めない程に破れた衣類のようなものを身に纏い、廊下に仁王立ちしている。
「グルル……」
澱みは残っていない。
蒼珠も見当たらない。
「ありゃあ、何なんだ?」
「……初めて見るな」
咆哮を耳にして何かがいるとは思っていたが、こんな異形が待っていたとは。
想像を超えてるぞ。
「ヴァルターは?」
「分からん」
「ちっ、誰も知らねえのかよ」
二足歩行の未知なる怪物。
その醜悪な姿にはゾッとする何かを感じてしまう。
ただ、やつの気配に混じるこれは……。
「黒い澱みに蒼い珠ときて、次は気持ちわりいバケモンってか」
「グルゥ」
「おっ、反応しやがった。まさか、おめえ……人じゃねえだろうな?」
「……」
無言でギリオンを見つめる怪物の眼には理性など感じられない。
「たまたまかよ」
「……」
「ってことは、こいつは魔物? だよな、ヴァーン?」
「そうだろうとは思うが……ん、あれは?」
「人が倒れてるな」
俺とヴァルターの視線の先。怪物から離れた通路上に人が倒れている。
醜悪な異形にばかり目を取られて、今まで気づかなかった。
「様子を見てこよう」
そう言ってヴァルターが足を進める。
怪物の脇を通り過ぎるつもりか?
「危険です」
「なら、援護を頼む」
「おう、バケモンの相手は任せとけ」
ヴァルターが壁際を、ギリオンは通路の真中を歩いていく。
怪物との距離は、もう10歩もない。
俺は……魔法を準備するしかないよな。
「……」
ギリオンが怪物の3歩前で立ち止まった。
ヴァルターは壁際を通り過ぎていく。怪物は反応しない。瞳をギリオンに向け、軽く頭を傾げるのみ。
ヴァルターが怪物から遠ざかっていく。
そして、無事到着。
「生きてっか?」
「……ああ」
生存を確認したヴァルターが、倒れていた男の顔を見つめている。
「どうした、何かあんのかよ?」
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