30年待たされた異世界転移

明之 想

文字の大きさ
上 下
1,209 / 1,294
第11章 陰謀編

発動

しおりを挟む

<ヴァーンベック視点>



「……説明は後だ。まずは屋敷を出よう」

「ちょっと待て。コーキが見つかってねえのに、オレだけ出るわけにゃあいかねえ」

「その件は外に出てから対処できる」

「……本当か?」

「うむ」

 ギリオンという証人がいて冒険者ギルドの力を使える幻影ヴァルターなら、まあ。

「とはいえ、コーキ殿がこの屋敷にいるかどうかは不明なんだがな」

「コーキがいねえ?」

「いるかいないか、半々だろう」

「……」

「とにかく、今は指示通り動いてくれ」

「……分かった、動いてやるよ。けどなぁ、コーキに万一のことがあったら許さねえぞ」

「ああ」

「なら、行くか」

 今まで渋ってたくせに、1人で先に部屋を出ようとするギリオン。

「おい待て、油断すんな」

「するわけねえだろ」

 そう言いながらも扉に手をかけている。

「だから、待てって。外に出んのは気配を探ってからだ」

「……」

 ということで室外を探ったところ、幸いなことに付近に人の気配がないことが判明した。



「行くぞ」

 ゆっくりと扉を開き。
 ギリオン、ヴァルター、俺という順番で部屋の外に足を踏み出す。
 すると、迷宮回廊ではなく通常の廊下が目に入ってきた。
 もちろん、人の姿は見えない。

 分かっていたことだが、それでも、少なからず安心するものがある。
 そんな思いを心に抱きつつ歩を進めると。

「ん?」

「何だ?」

 この空気は?




****************************




 ベリニュモナの護宝で2度も蘇り、ロシュノワの瞬宝で距離を取り、そして次は。

「エリルエイル」

 マリスダリスの刻宝。
 こいつ、どれだけ宝具を隠し持っているんだ?

「ベアサマ」

 と、このままじゃ発動が完了してしまう。
 どうする?
 常道にするか、それとも……。

「メニケアイニシャ」

 宗主はまだ宝具を持っているかもしれない。
 それが未知の宝具なら、厄介なことになるだろう。
 なら、ここは意表をつくべきだ。

「リゼンタリネムソウ」

 宗主が文言を唱え終わった。
 その瞬間。

 俺の身体に、あの得体のしれない感覚が襲いかかってくる。

「……」

 マリスダリスの刻宝を受けるのは3度目。
 効果はよく分かっている。
 ただ、分かっていても身体の自由を奪われるこの感覚は、決して気持ちの良いものじゃない。

「アリマさん!」

 両手、両膝を床につけた俺に声を掛けてくる剣姫。

 大丈夫、心配は無用。
 そう答えたいが、今は口にできない。
 だから、この目で察してくれ。



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

1000歳の魔女の代わりに嫁に行きます ~王子様、私の運命の人を探してください~

菱沼あゆ
ファンタジー
異世界に迷い込んだ藤堂アキ。 老婆の魔女に、お前、私の代わりに嫁に行けと言われてしまう。 だが、現れた王子が理想的すぎてうさんくさいと感じたアキは王子に頼む。 「王子、私の結婚相手を探してくださいっ。  王子のコネで!」 「俺じゃなくてかっ!」 (小説家になろうにも掲載しています。)

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

処理中です...