３０年待たされた異世界転移

第１１章 陰謀編

攻防 ４

　宗主が消えたということは。
　次は、背後からの剣撃か。

「……」

　やっぱりな。

「なに！？」

　背中に剣圧を感じた時には、こっちは既に跳躍済み。
　剣風を感じながら数歩前へ。

「っ！」

　前に飛び出せば、早さに劣る当主に追いつかれることはない。
　もちろん、剣を受けることもない。

　振り向いた俺の先には驚愕の表情を浮かべる当主の姿。
　が、また消えた。

　今度も後ろか？
　それとも？
　横だ！

　シュン！

　どこから攻撃を受けようと、対処法は同じ。
　距離を取ればいい。

　当主の剣がむなしく空を切りさく間に、俺は数歩先に。
　体勢も整え終わっている。

「これも避けるのか？」

「ええ、何度やっても同じですよ」

「まさか……通用しない」

　宝具自体は恐ろしいものがある。
　ただ、時間が動き出す一瞬を見抜く感覚と素早さがあれば回避可能なんだ。

「いや、今度こそ！」

　３度目の発動か。

「……」

　このまま避けるのは簡単だが、そんなことを続けても戦いは終わらない。
　だったら、攻めてやろう。

　背後に出現した気配に対し跳躍回避するのではなく、剣を真後ろに撃ち出す。
　もちろん、振り返っている暇はない。前を向いたまま右手だけを最短で後ろに振るってやる。

　ガキーン！

　迫る剣と激突。
　宗主の剣撃を上手く弾き飛ばすことができた。

「ちっ！」

　焦る声が耳に入った次の瞬間には捻転。
　振るった右手の勢いを消し、返す剣で一撃を放つ。
　宗主は驚愕の表情で後退するも。

　ザシュッ！

　剣が通った。
　が……惜しい。
　表面を削っただけだ。

　ならば、追撃の横薙ぎを。

　シュン！

　と、剣身がその胸に届く寸前。
　４度目の発動で姿を消してしまった。

「……」

　次はどこから動き出す？
　後ろ横？

　いや、違う。
　１０メートル前方だ。

「やはり、ロシュノワの瞬宝では無理か」

　倒せないのは、俺も同じ。
　瞬宝を使った戦法を攻略しきれていない。

「……」

　その宝具、あと何回使える？
　もし仮に際限がないなら？
　逃げに徹せられたら？

　厄介極まりないぞ。

「君を倒すには、さらなる一手が必要のようだ」

「……」

「貴重な宝具をここまで使うのはもったいないが」

　また新宝具を使うんだな。

「致し方ない。君でも抗えない宝具を使うとしよう」

　いいや、使わせない。
　発動直前の隙をついて勝負を決めてやる。
　
　宗主との距離を詰め……っ！
　５度目の瞬宝だ。

「……」

　まるで瞬間移動のような停止が終わると。
　宗主は１０メートル右方。

「……エリルエイル」

　そこで、呪文を詠唱し始めた。

「ベアサマ」

　これは……。

　間違いない。
　マリスダリスの刻宝だ。

「メニケアイニシャ」

　対象の動きを封じるマリスダリスの刻宝。
　その対処法は詠唱を止めるか効果距離からの離脱になる。
　まあ、常識的にはそうなんだが……。