30年待たされた異世界転移

明之 想

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第11章 陰謀編

来訪者

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「見逃してくれ」

「見逃すかどうかは、こっちの質問に答えたら考えてやる」

「……今回は仕方なかったんだ。だから」

 仕方ない?
 そんなこと恥ずかしげもなくよく口に出せるな。

 って、待てよ。
 まさか。

「今回のことはおまえの意志じゃないのか? 誰かの指示なのか?」

「……」

「そうなんだな」

 ウイルさんへの襲撃は家門の指示だったんだろう。
 国境検問所での待ち伏せもそうだ。

 ただ、今回はオルセーの独断だと思っていた。
 オルセーの逆恨みだと。

 が、そうじゃなく。
 第三者による指示だったと。

「……」

 ここまで話しても答える気はないらしい。

「……許してくれ」

 これ以上は時間の無駄かもしれないな。
 ただ、最後に。 

「もう一度だけ聞くぞ。ギリオンが消えた理由、本当に知らないのか?」

「……分からない。見当もつかない」

「本当か?」

「本当だ、嘘じゃない」

 やはり、嘘だとは思えない。
 オルセーの言葉が真実なら、手掛かりが途絶えてしまう。

「きっと自力で逃げたんだ。そうに決まってる」

 石牢前で意識を失った状態から1人で脱出するなんて困難極まりないことだが、その可能性を考えるしかないか。

 で、仮にそれが事実だとしたら、ギリオンは今どこで何をしている?

「そもそも、あいつのことはどうだって良かったんだ」

「……」

「そんな相手に手を出すはずないじゃないか。だから助けてくれ。ロープを解いてくれ」

 解くわけないだろ。

「抵抗はしないから、なっ」

 はぁ。
 呆れてものも言えないぞ。

「頼む。お願いだ」

「……」

 しかし、困ったことになった。
 手掛かりはなく、気配も感知できない。
 この状態で、どう動けばいいんだ?

 うん?
 これは……人の気配?
 誰かやって来るのか?

 間違いない。
 この部屋に入って来るつもりだ。

「……」

 オルセーを眠らせて逃げるか?
 それとも処分して……。

 いや、駄目だ。時間がない。
 ここは隠れて、様子を見るしかない。

 なら、隠れる場所は?
 クローゼットもない部屋の中でとなると?
 奥にあるソファーの後ろしかない、か。

「うぅ、ううぅぅぅ!」

 まずは、オルセーの口に猿ぐつわを嚙ませて。

「ぐっ!」

 意識を刈り取り。
 ソファーの後ろへ身を隠す。

 外の気配は2つ。
 扉の前で立ち止まっている。

「……」

 外から聞こえてくる声。
 漂ってくる気配。

 明らかに気を抑えているが、これは並じゃないぞ。
 2人とも実力者であることは間違いないだろう。

 ただ、この気配には覚えがあるような気がする。

 っと。

 ガチャッ。

 扉が開いた。
 入って来る。

「お入りください」

「はい」

 ソファーの後ろから覗き見ると。
 ひとりは立派な体躯を誇る中年男性。

「こちらに、どうぞ」

「ありがとうございます」

 もうひとりは、若い女性だ。

「……」

 2人ともに見覚えがあるような、ないような……。
 駄目だな、思い出せない。

「オルセーがいませんね」

「……」

「訪問は伝えていたのですが」

「でしたら、少し席を外しただけでしょう」

 まずい。
 こっちに視線を向けている。

 とっさに頭を隠したものの、見られたか?

「少し待ちましょうか」

「よろしいのですか?」

「ええ」

「では、申し訳ないのですが、少しだけ」

 2人とも部屋の中央にある椅子に腰かけたまま。
 こちらを窺う気配はない。

 ということは、気付いてない?
 大丈夫なのか?


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