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第11章
異変 1
しおりを挟む<ヴァルター視点>
昇り始めた陽に覚醒させられるように、純白の屋敷が蜂蜜色に染まっていく。
白壁も白屋根も前庭も中庭も、すべてがそれに飲み込まれ、今日もまた新たな時を迎える。
そんな爽やかな空気の中。
オレの身体には疲労と、そして若干の戸惑いが残っている。
屋敷に戻るべきかどうか?
「……」
「誰も襲ってきませんでしたね」
「……そうだな」
ここ数日、絶えることのなかった夜の襲撃。
昨夜はそれがまったく見られなかった。
その事実に、朝を迎えた今もなお違和感を覚えてしまう。
目の前のウォーライルも同じだろう。
「どう思います?」
「無駄だと悟ったのではないか」
「なるほど」
「貴殿の考えは?」
「ヴァルター殿と同じ、もしくは敵の狙いが変わったかと」
「……」
ウォーライルの言う通り。
敵がやり方を変えてきた可能性は十分に考えられる。
ただ、そうなると次の一手がどうなるか?
単純な襲撃には、こちらも武力で対応すれば良いだけだったが。
「もちろん、昨夜だけという可能性もあります」
「昨夜だけ、か」
昨夜だけと言えば、もう1つ。
これまでと大きく違うことがあった。
ギリオンだ。
ギリオンが現れなかったんだ。
何だかんだと文句を言いながら欠かすことのなかった夜番に姿を見せないとは?
いったい何があったんだ?
そんな思索に入りかけたところに。
「ウォーライル、ヴァルター、今朝もご苦労だったな」
姿を現したのは、この屋敷の持ち主であるレザンジュ第一王女。
「エリシティア様、おはようございます」
「おはようございます」
ウォーライルとともに挨拶の言葉を。
「うむ」
王女から返ってくるのは、短い一言。
「……」
早朝であろうと深夜であろうと、彼女の放つ空気には変わりがない。
今も鋭利な刃を思わせる空気を纏っている。
魔法は使えるといっても、剣は素人に毛が生えた程度。
であるのに、この空気。
彼女も尋常ではない、ということか。
「……今日は客人が少ないようだな」
「はっ、珍しいことに」
「ふふ、飽きたのかもしれんぞ」
「……」
「して、ギリオンは? 姿が見えぬようだが?」
「……」
「体力自慢が体調でも崩したのか?」
「そうかもしれません。ただ……」
「ん?」
「昨夜から、屋敷にも姿が見えぬようで」
「部屋におらぬと?」
「はい。メイドの話によると、夕刻前に外に出たきりとのことです」
「……珍しいな」
王女の言うように、珍しいことだ。
オレがこの屋敷に来て以降、ギリオンが外で一夜を過ごすところを見たことがないのだから。
「たった一晩とはいえ、何かあったと考えるべきか?」
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